第四十三話 †漆黒の翼†
「……魔法少女になったからと言って、急に強くなるもんじゃないでしょ?」
僕は目の前にいる魔法少女の魔王が応える。
「さぁて、それはどうだろうなぁ」
何処からともなく、MSを取り出した魔王。
モーニングスターじゃなくてマジカルスティックだった。こいつ、本物の魔法少女だ……!!
「1つ聞かせてほしい。君は……女の子なの?」
僕の質問に、きょとんと首を傾げる魔王。その仕草が愛らしくて、敵なのにきゅんとしてしまう。
「余は女だ。しかし、其方とは違い200年近く生きている。
魔法少女とはいえ小娘扱いは、勘弁してもらいたいな」
んなっ!? こんなに可愛いうえに、ロリババァだって!? ……そんな、それじゃ僕は!
「ロリババァもロリのうち……。僕は君と!」
戦う事なんてできない!
「痛い!?」
言い終わらない内に、僕の右頬に痛みが走った。
……ええ!? 今、何をされたのか分からなかった。魔法? でも、魔法陣も現れなかったし……。
「余は魔法少女だが、魔法だけが取り柄というわけではない。……さて、どこまで見えるかな?」
「え、それってどうい」
魔王の声を耳が認識し、僕が言葉を発しきる前に。
それはやっ
「ああああああぁああああああっぁぁぁぁぁああ!!!?!?!??」
「うむ、一つとして見えんかったか? どうやら余は其方を買いかぶりすぎていたらしいな」
僕は知らず、床に叩き伏せられている。
いつの間にか僕の身体に刻みこまれていた強烈な痛みに喘ごうとするも、頭を踏みつけられているからか、身動きが上手くとれない。
「一体、何を……?」
「何? ……余は特別なことなど何もしていない。ただ移動して、其方を殴った。
余がしたのは、ただそれだけのシンプルなものだ」
「そんな!? なにも見えなかったのに!」
「ふむ。余と其方では、立っている次元が違う。故に、見えているものも違う。
……それだけのこと、だっ!」
すると、僕は魔王の華奢な足に蹴り上げられ、天井を突き抜けてそのまま空中まで浮き上がる。
「そう言えば、其方には我が可愛い従僕が世話になっていたな」
声は聞こえるのに、魔王の姿を視認することができない。
そして、なぜだか思うように体も動いてくれない。
魔王がマジカルスティックを振るうと、極大の魔法陣が一瞬で現れる。
そして次の瞬間にはそこから放たれる魔法。
「これはイースの無念を乗せた第十位階魔法【永劫の眠り(アイスエイジ)】だ」
魔力と冷気が渦巻く最大級の水魔法が、僕の身体を押しつぶす。
全身の骨が砕ける音が聞こえた。
「辱めを受けたサースの分だ。第十位階の炎魔法【日輪】」
頭上に出現した魔法陣。そこから降り注がれる幾筋もの陽光。
……その一筋一筋が、僕の体を焼き、貫くレーザーだ。
熱い。痛い。でも、僕は叫び声をあげて苦しむことすらできない。
僕の身体も、やはり不死性があるようで。傷を受けた個所は次々と回復、再生する。
しかし、それはこの苦しみに終わりがないことを意味していて。
有難迷惑以外の何物でもなかった。
「さて、次はノイスの分だな」
空間が歪む。次の瞬間には、自らの身体がバラバラになっていた。
一切の気配のない、不可視の攻撃。攻撃も回避も、もちろん今の僕にはできなかった。
「そして、これが最後。……これまで其方に殺されていった幾多の魂全ての分だ!」
四方八方に展開される、幾多もの魔法陣。
そして、そこから何かが放出された。それが何か、なんて認識する間も無く、僕はぺしゃんこにされた。
「第十位階の複合魔法【終焉】。
さて、これで一通りの借りは返せたわけだ。……もう一度問おう。余の手下となれ」
いつの間にか僕は床に倒れていて、見下ろす魔王がそこにはいた。
何がどうなっているのか、全く分からない。
痛覚はマヒし、自分がまだまともなのか、それとも狂ってしまったか。
それすらも分からない。でも、このままだと死んじゃう。殺されてしまう。
戦わなくちゃ。でも、どうやって? 分からない。
力だ、力が欲しい。
自分の身を護るための。そして……
目の前の敵を殺すだけの力が。
「……なんだ、この魔力量は……!? なんだ、その姿は!? 余は、そんなもの知らぬぞっ!」
耳に誰かの声が届いた。
でも、それが誰の声か僕には分からない。
……あれ、僕ってだれだっけ? 僕?
……分から、ない ど……
こ、ま。Dwおl※s核喰えndl□!
☆
「あー、やってもうたな」
アルファールは、眼下のロリペディアを見て、呟いた。
虚ろな目をした少女が、敵の眼前で佇んでいる。
その背からは、一切の混じりけのない【漆黒の翼】が後光を背負うように生えていた。
「まさか魔王がここまでやるとは。計算外やったが。……まぁそれもここまでやろうなぁ」
ロリペディアの背中から生えている【漆黒の翼】は、凄まじい量の魔力が実体をもって顕現したものだった。
「二枚羽か……そんだけありゃ、この世界をぶち壊すことなんてわけないな」
崩壊する城の中で、アルファールはすべてに破壊をもたらす存在――限界を超えたロリペディアを視界に入れて、呟いていた。




