第四十二話 キリング☆たんぺろぺろ
影が立ち上がる。僕は容赦なく、その影に向かって魔力砲を放った。
放たれた魔力は周囲を破壊に巻き込みながら向かっていき、そして魔王へと至る。
ゆっくりとした動作で魔王が掌をかざす。そんなんで防げるつもりなのだろうか?
しかし、僕は考え違いをすぐに悟る。
「ああ!」
魔力砲は、魔王の目前で吸収された。
そうだった、相手には魔力砲を別次元へと飛ばす魔法がつかえたのだった!
「なら、直接叩くだけだよ!」
「いったれ、ぶっつぶせ! せやないとおのれをぶっ潰すぞ!」
声援か脅迫か分からない言葉を、僕は隅っこで体を隠して縮こまっているアルファールから掛けられる。
彼我の距離を即座に詰める。僕の速度に、魔王が驚いたのか動揺するのが分かった。
魔王が魔法陣を展開させる。でも、遅すぎる。
僕はウェスと戦ったあの時みたいに、周囲がスローモーションに見えていた。
僕は魔王の腕にモーニングスターを叩き込む。
影みたいなビジュアルなのに、ちゃんと腕には肉ミンチにした時の感覚が返ってきた。
「ぐ、ぅおお!」
魔王の口から、苦しげな声が聞こえた。
その魔王に、今度は続けざまにモーニングスターで滅多打ちにする。
鈍い感触が腕に伝わる。魔王と言っても、やっぱり僕の敵ではなさそうだ。
「ううぅ……」と苦しげに呻く魔王を見ていると、そう思った。
魔王の腕を握って、彼の身体を持ち上げる。
そして、小さい子供がおもちゃを乱暴に扱うように、僕は魔王の身体を床へと叩きつけた。
「がっは!」
魔王の口から声と空気が漏れる。
そして、たたきつけられた床は、ビキビキと不自然な音を発し、崩れ落ちる。
僕は魔王を掴んだ腕に力を込めたまま、彼に馬乗りになって見下ろす。
「こんなものなの? 魔王ってのは?」
「そう言ってくれるな。其方は強い。あまりにも。
……余も、この姿のまま戦うのは、いささか以上に分が悪いか」
「この姿のまま? もしかして、第二形態があるっていうようなお約束なのかな?」
ゲームとかだとラスボスを倒した後真の姿になったりするけど。
まさか、そんなべたな展開はないだろう。
「第二形態? 少し違うな」
だけど、その答えは僕が想定したものとは違った。
「これは……〈変身〉!」
急激に膨れ上がる魔力。
僕は危機感を抱いて、その場から距離を取った。
膨れ上がる魔力量と同じように、魔王の影のような姿も一際大きく膨れ上がる。
「な。なにこれ……!?」
莫大に膨れ上がった影が蠢く。
……そして、その影が収束し、人型へと変貌していった。
「おーい。そーいやそいつ、おのれと同じやからー。油断はすんなよー!」
頭上から声が聞こえる。
僕がブチ抜いた床から、こちらに向かってアルファールが声を掛けていたのだ。
「お、おなじ!?」
どういうこと!? その答えは、目の前の光景を見てすぐに理解した。
暗い影が晴れていき、人の手足、胴体が現れ、黒と赤を基調としたひらひらの衣装に身が包まれる。
そして、一度翻り、完全に影が晴れた。
燃える炎のような炎髪。全てを焼き尽くすかのような緋色。
一切のくすみのない白い肌。そして……抱きしめたくなるような矮躯。
「同じって、そういう事……」
一人納得した僕は、思わずつぶやいていた。
「余が人前でこの姿になるのも、100年ぶりか……うむ、景気づけにあれをやるか」
女児向けテレビアニメに出てきそうな可憐な姿をした少女が、同じく可憐な声を発する。
そして、好戦的な表情で舌なめずりをしてから僕に向かって言う。
「変身完了(マジカル☆チェンジ)! キリング☆、参上!
ちょぉっとだけ本気を出すが……死んでくれるなよ」
魔王改め、魔法少女キリング☆ちゃんが、その愛らしい表情を浮かべて、宣言した。




