第三十九話 将来なんになるのぉ?(中略)せーのっ、こーむいん!
「【四死獣禄】を全員倒して……僕たちはもうすぐ、魔王と戦うんだね」
北の守護者【不動】のノイスを倒してから、数日が経った後の夜。
僕たちは今、この大陸の中央にある魔王城へと向かう途中だった。
夜も更け、今日はここらで休んでいこう、という話になり、ウェスが土魔法で用意してくれた簡易な小屋の中で、僕たちは焚き火を囲って車座になっていた。
普段の恰好から、今は楽な服に着替えていた。
「ここまで、長かったようで……短かったな」
これまでの旅路が、もうすぐ終わる。
その感慨にふけって、僕は呟いた。
つい先日までは、現代日本で無職童貞をやっていたのに、この世界に来てから魔法少女になっておっかない人たちと戦い続けた。
それは、想像もできないことで、そして、願ったことなどないような日々だった。
訪れるのは肉ミンチを作り続けるだけの簡単なお仕事。
血と肉と脂が舞う戦場には、ほとほとうんざりしてはいるんだけど……それでも、もうこの戦いも終わりだと思うと。
感慨深くあるのだから、不思議だった。
「ああ、短かったな。
……100年続いた魔人が支配する世の中は、今日までの、たった一月あまりの時間と、これから先のたった数日で変わるのだ。
まさか私も、こんなに早く魔王と対決できるとは、思っていなかった」
メイデンが言う。
「……ロリ様が規格外に強いからっす。
決して、俺っちたちが弱いとかふがいないとか。そういうわけじゃないっすから!」
ちょっとだけひねくれた様子で、頬を膨らませながらウェスは言う。
耳がぴょこぴょこ動いていて、可愛い。
「いやいや、時間かかりすぎやからな!?
ワイの想定では初日に魔王のアホんところにブッコむつもりやったからな?
なのにけったいな結界がある言うて、とんだ遠回りをする羽目になったもんやからなぁ」
ぷんすかと腕を組んで、アルファールは言う。真っ白なほっぺたに赤みがさして、ホントに幼女みたいで可愛い。
でもアルファールは両性具有だしなによりアルファールだからダメだ絶対に許さない。
「な、なにをおのれはそんなにワイを睨むんや!? きしょいからやめれ!」
自らの身体を抱きかかえるようにしながら、アルファールは言った。
「……でも、その遠回りのおかげで。僕はメイデンとウェスに会えたんだ。
その出会いには、感謝しなくっちゃ」
僕が言うと、
「……どうしたんだ、ロリペディア? もうすぐ最後の戦いだから、センチメンタルになっているのか?」
クスクス、と柔らかくメイデンが笑いながら言う。
その悪戯っぽい表情は、やっぱりとても美人だなぁ、と思うと同時に。
なぜあと3年早く出会えなかったんだぐやじぃっ!
この世界に写真とかないだろうなもうロリメイデンを見る機会なんてないんだなぁ、チクショウ!!
この世界を滅ぼしてしまおうか! と思ってしまう。
「……そうかもしれないね。僕も、やっぱりちょっと不安なのかも」
「何が不安や。おのれは強い、誰よりも。ワイが保証したるわ!
不安なんは、どっちか言うと、あの引きこもりの魔王の方やで!
どうせ今頃お部屋の片隅で恐怖に震えとるワイ!」
アルファールが珍しく僕を励ますようなことを言っていて、僕は正直驚いた。
どうせ、「何ビビっとんねんしばくぞ、燃やすぞ!」くらい言われると思ったんだけど。
「ああ? 何見とんねんしばくぞ、燃やすぞ!」
はい、言われました!
僕はアルファ―ルのことは放っておいて、メイデンへと問いかける。
「そう言えばメイデンはさ。この戦いが終わったら、どうするの? やっぱり、故郷に帰るのかな?」
僕の言葉に、メイデンはうーんと唸った。
「なんだ、お前は考えてなかったのか? 俺っちはいろいろ考えているぞ。
残った魔人たちと共に、新しい集落、いや。国を作らないといけないんだからな」
「この戦いが終われば、今みたいな無秩序の世紀末じゃなくなるもんね。
君がいろいろと考えてくれていて、頼もしいよ。ウェス」
僕がウェスに言うと、
「えへへ、照れるっス」
と頬を指先で掻きながら言った。
「そう言われると、私が何も考えてないと思われているみたいで、いい気はしないな」
メイデンがむっつりとした表情で言うと、今度はアルファールが、
「なんや、考えなしと思うてたんやが。違うんか?」
と、にやにやと下卑た笑いを浮かべる。
「ああ、もちろん私にだって考えはある!」
どん、と大きな胸を張って、メイデンがいう。
全然興味はないんだけど、メイデンの胸は十代とは思えないほど大きいなぁ、といつも思う。
「へぇ、どんな考えがあるんだよ?」
ウェスが興味深そうに聞いた。
「やだ……恥ずかしいから言いたくない」
さっきまで自信満々だったのに、今は恥じらうように答えるのを拒絶したメイデン。
彼女がここまで恥ずかしがる、ということは。
ははぁ、どうせ幼女をたくさん集めて、その子たちの全身の汗を煮込んで作ったスープが食べたいとかそんなところだろう。
低俗な野望を抱いているなぁ。いや、その気持ち、分からなくもないんだけどね?
「何をカマトトぶっとんねん。さっさといいや」
「そうだ。はやく言え」
アルファールとウェスが、責める。
「僕も、聞きたいな」
僕が言うと、
「……笑うなよ」
と、メイデンが顔を真っ赤にしながら言った。
僕は笑顔で。アルファールはにやけ面で。ウェスは興味無さそうに。それぞれ頷いた。
それを確認してから、一度大きく深呼吸をするメイデン。そして、覚悟を決めた。
「私はこの世界が平和になったら……先生になりたいのだ」
「……え、先生?」
僕は、メイデンの言葉が意外で、つい繰り返し問いかけていた。
見れば、アルファールとウェスも、同じように首を傾げている。
「なんでまた、先生になりたいと思ったの?」
僕は問いかける。
メイデンは、笑われなかったことに安心したのか、滑舌良く答える。
「聞いた事があるのだ。私の村にいたばあさんのそのまたばあさんが先生という、たくさんの子供に、知識や生き方を教える存在があったという事を。
……私は、あまりにものを知らない。あまりに、見てきたものがすくない。
剣を交えたノイスは、10000年の時を生きて、相応に存在の厚みを持っていた。
だが、私は剣を振ること以外脳のない薄い女だ」
ぶ厚すぎる胸元に手を置きながら、メイデンは言う。
「だが、これから先を生きる子供たちには、その厚みを得てほしい。
たかだか数十年しか生きられない人間だとしても。
得た知識を、培った経験を引き継いで自分の糧にできれば。
10000年を生きたノイスのように。立派に生きることができる、と私は思う」
僕は、メイデンの言葉に耳を傾けていた。
そして、彼女のことをすごい、と思った。
まだ、僕の半分程度しか生きていない彼女が、次の世代にバトンを託すことを考えていたからだ。
……そんなことなど一度も考えたことなく、ただ漫然と生きていた僕は、そんな彼女がとても眩しく感じられた。
「すごいね、メイデンは」
僕が言うと、彼女は首を横に振った。
何を謙遜しているのか。僕は彼女にそう言おうと思ったが、
「すごくなどはない。ただ、そうできたらいいなと、想っているだけなのだから。
それに、先生になったらたくさんの幼女が私を先生と呼び慕ってくれるはずだ。
信頼関係が築けたら、あんなことやこんなことを幼女ちゃんたちと一緒に……ぐへへ」
やめた。
もうこの痴女、ホントクズ! 性犯罪者! ロリコン! あと五年時よ戻れ!
「……もう寝ようか」
「私のここ、空いているからな、ロリペディア!」
といって、有名芸人のネタをパクるメイデンを無視して僕たちはぐっすり眠りましたとさ。




