第三十四話 自分へのご褒美
ロリペディアたちが異空間で【鬼】達と戦い始めるより、少し前。
自らが従う魔王に仇を成す反逆者を思惑通りに罠に嵌めた北の守護者【不動】のノイスは、愉快そうに笑っていた。
「くははは。思ったよりも、よっぽど上手くいった。
亀の甲と年の功を併せ持った吾輩だからこそ、ここまでうまくいったのだろうな」
ノイスは晴れやかな顔をして、呟いた。
前日まで段取りを入念に行い、万が一にも失敗しないようにと練り上げていた計画だ。
想定通りに事が進んで、喜びが隠せないのだろう。
二足歩行する亀の化物、尻尾は蛇。そのおどろおどろしい姿には似合わぬ、晴れやかな表情だった。
「よぉし、今日はお祝いだ!」
自分の計画が上手いこといったため、ノイスは機嫌よく言った。
頑張った自分へのご褒美は欠かさないOLのようだ。ノイスってのは、そういうやつなんだ。
「貴様……ロリペディアたちを、どこにやった?」
そして、そんな上機嫌のノイスへと、怒りに震えた声を掛ける少女がいた。
「……どちら様ですか?」
初対面の相手には、あくまで丁寧に接する。
ノイスがまだおこちゃまだった時に、ママから教わった事だ。
三つ子の魂百まで、とはいうものの、ノイスの場合は万を超えてなお続いている。
「……っつ! 私は聖剣【シャッキリ・ポン】を携える信託の勇者、メイデン。
もう一度貴様に問おう! ロリペディアたちをどこにやった!?」
メイデンは声を荒げ、帯びていた【シャッキリ・ポン】を抜き、構えた。
相手が【四死獣禄】でも、関係ない。仲間に危害を加えたのなら、叩き斬るのみ。
メイデンからはその気迫が感じられる。
その様子を見て、ノイスは思案する。
(むむ、この口ぶりは、反逆者一味の者か? ……しかし、なぜこの場に残っている?
吾輩の時空間魔法〈暗黒空間〉は、この一帯にいた反逆者全員を異空間へと飛ばしたはず……解せぬな)
「何を黙っている!? 答えろ!」
メイデンにみちる魔力。それが、彼女がただの少女でないことをノイスに知らせた。
「なるほど、中々の魔力量。勇者と自称するだけあり、相応の実力者なのだろう。
我等【四死獣禄】以外の魔人で、お主を相手に戦えるものは魔王様以外にはおらぬだろうな。
……だが、勘違いはするな」
そう言って、ノイスは第七位階の土魔法【土の従者】を発動した。
荒野から現れる、土くれの巨人【ゴーレム】。
生き物では無く、魔力と土によって形作られたその巨人は、知能はないが術者の意のままに動く。
その巨人は、巨躯を誇るノイスよりもなお大きく、メイデンとは比べようがなかった。
「吾輩らと比べ、お主はまだ格下だ。
勇者と名乗るのは、相応の覚悟を持ってのことだろうが、それは蛮勇だったな。
その名を名乗ったがために、お主はここで死ぬのだから」
ノイスが手を振ると、【ゴーレム】が鈍く低いうねりを上げて、拳を振るった。
圧倒的質量により生じる、出鱈目な破壊をノイスは予感した。
しかし……。
「格落ち? ……それがどうした?」
メイデンが、振り下ろされた【ゴーレム】の腕を【シャッキリ・ポン】で切り落とす。
本来なら、圧倒的な質量の前に剣が砕かれるはずだ。
しかし、結果は真逆だった。
メイデンの一太刀を受けた【ゴーレム】は、不自然に挙動を停止し、そして音を立てて崩れ去っていった。
「格上だろうと、それが魔の者であるならば……私は斬り伏せてみせる!」
剣の切っ先を向け、メイデンは宣言する。
砂埃が舞い、メイデンの姿がノイスの目から隠れた。
「むむっ! これはしたり!」
ノイスは唸り声をあげる。
(吾輩の【暗黒空間】で転移しなかったのは、その魔を打ち払う聖剣のおかげか。
……全く、厄介な奴がいたものだ)
嘆息しつつ、前方の気配に神経を澄ませる。
そして、舞い上がった砂埃の一部が不自然に晴れる。
そこから現れたのは、メイデン。
彼女は裂帛の気迫を込め、ノイス目掛けて【聖剣】を振り下ろした。
「なるほど、勇者か。その名を名乗るに値する強者と認めよう。
……勇者の少女よ。吾輩を倒せば、我が魔法は効力を失い、お主の仲間は戻ってくるだろう」
ノイスは振り下ろされた剣を、自らの獲物である禍々しき大戦斧【魔斧・ィア】で受け止めた。
「ほう、それは良いことを聞いた。貴様の首、もらい受ける!」
斧を弾き、メイデンはさらに一歩踏み込む。
そして、必殺の間合いで放つ、最速の一撃を加えようと、剣を振るった。
……しかし、その剣が届くことはなかった。
メイデンの剣が届くよりも早く、ノイスの尾の蛇が彼女へと迫り、そして吹き飛ばしたからだ。
「残念だが、それはあり得ない。なぜならお主は、ここで吾輩に倒されるからだ」
地に伏せるメイデンに、ノイスは冷酷に言う。
【不動】のノイスの心は、敵を前にしても昂ることは無く。
淡々と自らの力を示すだけだ。




