第三十二話 あわわ! アルファール先生怒り心頭! の巻
「……【ワキアセ】の語源について話している時から気になっていたのだが。
【ワキアセ】にはまだついていないぞ?」
そう言って、メイデンは今しがた僕が魔力砲をぶっ放して塵も残っていない場所へと指を向けている。
「え、そんなわけないでしょ、こんなおっきな湖、見間違いようがないでしょ……って、あれ!?
本当に何もない?」
僕は目の前の光景に驚きの声を漏らす。
「何を驚いてるんや、今しがたおのれが更地にしたったんやろが、白々しいわぁ。
……ってほんまやぁー!
何もないやんけ!?」
アルファールも高速手の平返しを披露してから驚きの声を上げた。
そう、何もないのだ。
今しがた僕は、湖の中央に浮かぶ砦を塵1つ残さずに吹き飛ばした。
そのはずだ。
しかし、今目の前には、何の変哲もない、何処までも続く地平線だけが映っていた。
つまり……どういうことなの? さっきまで目の前にあった湖は、一体どこに消えたの?
僕とアルファールが呆けていると、
「……まさか、これは!?」
何かに思い当たったのか、ウェスが慌てた様子で叫んだ。
「気付くのが遅いぞ、ウェスよ」
聞き覚えのない声が聞こえた。
その声が誰のものか、確認することはできなかった。
なぜなら、その声を聴いた直後には体に奇妙な浮遊感を覚え、そして瞬きの後に夜のように暗い、四方八方を黒い壁に覆われた場所へと移動していたからだった。
「……え!? なにここ!!」
僕は驚きの声を上げた。
周囲を確認しても、先程見ていた荒野はないし、消えたと思った湖は、やはりない。
「なんやねんこの陰気な湿っぽい場所は!?
アルファールさんも今なら怒らんから、これやった奴は早いとこ手ぇ上げて名乗り出てきいや
ぶち殺したるさかい!」
アルファール先生は、大きな声で周囲に言う。
怒ってもないのにぶち殺しちゃうのかよこの人……おっかないなぁ。
アルファールへ返す言葉はどこからも聞こえてこなかった。
そんなアルファールの隣には、額に汗をかいたウェスがいた。
……あれ?
「メイデンは?」
ウェスの隣を見ても、メイデンはいない。周囲を見渡しても、やはり彼女の姿は見当たらない。
一体、どういう事だろうか?
そう考えている僕に、悔しそうに歯噛みをするウェスが答えた。
「いないっす。……ちくしょう、やられた」
何か知っていそうなウェスに、僕は問いかける。
「一体、どういうことなの? 正直僕は、この状況もよくわかっていないんだけど」
そして、アルファールも同じようにうんうんと頷いていた。
そんな様子を見て、ウェスは、
「……きっと、さっきロリ様が吹き飛ばしたのはノイスの魔法によって浮かび上がった幻想です。
奴はあれで俺っちたちの居場所を補足、そして気付かれない内に空間転移魔法を仕掛けてきて、まんまと俺っちたちはここにいるって事だと思うっす」
「魔法……でも、それならなんでメイデンはここにいないの?」
僕の言葉に答えたのは、アルファールだった。
「察しが悪いやっちゃなあ。あいつの聖剣は、魔法を無効化する。
せやから、幻想魔法とも間転移魔法というやつも、あいつにだけはきかんかったんやろな」
「俺っちも、アルファールと同意見っす。ノイスもそれは予想外だったとは思うっす。
だから、その隙をついていればメイデンも逃げることができているかもしれないっす」
「うう、そっか。それならそうと早く教えてくれていたら、こんなに慌てずに済んだかもしれないのになぁ……でも、やっぱり心配だよ。
すぐにメイデンのところに戻らなくっちゃ。……そのためには」
僕はモーニングスターを壁の一点に向け、そして魔力砲を放った。
莫大な破壊の渦が一直線に解き放たれて壁に激突した。
そして……何ともならなかった。
「あれ、確かに壁に衝突したと思ったのに、なんで壊れないの? ……そんなに頑丈なの、この壁って?」
「おのれが寝ぼけてたからやないか? もっと気合込めろや、タコこらぁっ!」
能天気に僕を批判するアルファールに向かって魔力砲を放とうかどうか真剣に思案する僕に向かって、
「元いた場所の空を壊すことができないように、断絶されたこの空間の壁を壊すこともできないっす。
それは多分、ロリ様の魔力砲でも同じことっす。……だから、メイデンの心配をするのもいいっすけど。
こっちもやばいと思うんっす」
とウェスが言うと、何もない空間から、次々と角と牙が生え、手に物騒なビジュアルの武器を持った、やっばい目をした何者かが現れてきたのだった。




