第三十一話 ワキアセ~神聖なる雫~
僕たちはただひたすらに荒野を歩いていた。
時折現れる魔獣の類をぼろ雑巾みたいにしたり、
人間を奴隷のように扱い酷い拷問をする魔人を肉ミンチに変えたり、
とげとげの肩パッドの人たちがヒャッハーしてたから爆散させたりと、
特筆すべきことは何もない道中を歩いていた。
そして、数日が過ぎて。
僕たちはようやくたどり着いた。
「これが、北の守護者【不動】のノイスがいる砦と、その周辺を囲む湖……。
攻めるのは、とても難しそうだね」
目の前には、とても広く綺麗な澄んだ湖。
たぶんこれ滋賀県の面積の約六分の一を占める琵琶湖と同じくらい広い。
ううん、ごめんなさい流石に琵琶湖の方が広いと思います。
その中心にとても頑丈そうな大きな砦が見える。
「そうっすね。
ノイスの砦を落とそうと思ったら、この【ワキアセ】の湖を魔法で飛び越えなくちゃいけないっすから。
空中を飛んでいる間に、魔法で狙い撃ちをされて落とされると思うっす」
「そうだよね、瞬間移動が出来たら話は違うだろうけど、どうしても飛び越えるってなったらリスクを負わないといけないよね。
……え? 脇汗? この湖、脇汗なの?
その北の守護者の?」
脇汗が湖になるの? それ絶対病気じゃん。
いや病気どころじゃないよこの世界崩壊の危機だよ。
「ん? ……よくわからないが、【ワキアセ】とは、古代語で【神聖なる雫】の意味だ」
メイデンがそう説明してくれた。あ、脇汗ではないんだ、良かった。
と、安堵すると同時に、こいつさては古代語といえば何でも許されると思ってんじゃね?
と勘繰ってしまう。
「確かここは、人間の信仰する女神の一柱【セイカ・ンスプレィ】が邪神を退けた闘いの際にできたクレーターに、自らの脇汗を注いでできた湖と伝えられているんだったよな?」
「その通りだ。故に女神様の神聖な雫の名を冠している」
「へえ、せやったんか。ほんまどうでもいいなぁ」
……やっぱり脇汗だった。
上げてから落とすスタイルは、(自分でやるなら)嫌いじゃないけど(他人にされたら)好きじゃないんだよなぁ。
「さて、と。ほんなら空でも飛んで移動することにしよか。
ウェスがなにやらごちゃごちゃ言うとったけど、空中で移動している最中も、どうせしょうもない攻撃しか来んだろうし、気にせんでええやろ」
アルファールは脇汗の話を脇にどけてから、僕に言う。
だけど、その見当違いな提案に、僕は苦笑する。
「何を言ってるんだよ、アルファール。そんなことする必要なんてないじゃないか」
あっはっは、そう言って僕は瞬時に出したモーニングスターで照準を定めて、
魔力砲を砦に向けてぶっ放した。
すると、瞬時に砦は跡形もなく消し飛んだ。ふう、一仕事終えた。心地よい気分だ。
「まーたか」
アルファールが不満そうに呻いた。
「おのれは、まーたそうやってすぐ楽をしようとする。
命がけで抵抗するボケどもを、自らもまた命を賭けて肉ミンチに変える快感いうんが、おのれのような糞童貞には分からんのやろうなぁ?
敵さんもな、知恵を凝らしておのれをぶち殺そうとしてたんやぞ。
それをな、バカの一つ覚えで魔力砲ドーン、じゃ、何もおもろないやろ?
な、分かるやろ?」
「こちらの対策をせずにただ待ち構えているだけの相手は一つも覚えない馬鹿なので、どう考えても北の守護者さんサイドに問題があると思います」
憤るアルファールに、僕は告げる。
隣で話を聞いていたウェスが気まずそうに眼を逸らしていて、ちょっと申し訳ないなと思った。




