第三十話 ホントのキ・モ・チ
「吾輩一人になっちゃったよ……」
ノイスが、いつもの脳内会議室の中、一人つぶやく。
その声に答える者は、もうここには誰もいない。
魔王が全幅の信頼を寄せる最強の守護者たる【四死獣禄】も、残るは北を守護するノイスただ一人になっていた。
サースは現在も生きているだろう。そして、ウェスも未だに生きていることは分かっている。
彼らの魔力反応は、消失していない。
だが、それは何の気休めにもならない。
ウェスもまた、生きながらにして連絡を取らなくなった、という事だからだ。
捕虜にされ、いたぶられているかもしれない。
悪質な精神操作の魔法によって、もの言わぬ戦闘人形に変えられているのかもしれない。
最悪の想定ばかりがノイスの頭をよぎる。そしてその想定は、大きく外れてはいないだろう。
反逆者は、あまりに強大。【四死獣禄】最強のサースを倒し、【軍神】ウェスの軍略をも上回った。
次は、吾輩の番だ……。ノイスに、暗い絶望が宿る。
「ああ、吾輩。まだ死にたくないなぁ……」
いつの間にか、口から零れていたノイスの想い。
そして、ノイスは今しがた自らが呟いた言葉を理解して……自らを嗤った。
「この世界に生を受け、10000年。永劫にも等しき時を経てなお、吾輩はみっともなく生を望むのか」
この世界に生きる魔人で、ノイス程永く生きた者は、これまでいない。
この世を支配する魔王も、【不死】のサースも、イースもウェスも、実力こそノイスと同等かそれ以上ではあるが。
この世界を誰よりも永く見てきたのは。この世界で誰よりも永く地獄を乗り越えたのは。
他でもないノイスなのだ。
ノイスは、自らが生きるために、人間も魔人も関係なく、蹴散らし殺してきた。
つい100年前まで、魔人と人間は、互いに対等に、殺し合っていた。
だから、ここまで生きてこられたのは。幸運と呼んでも差し支えないかもしれなかった
魔王により争いが終結し、すでに100年が立っていた。
だが、それは10000年生きたうちの、たった100年だけなのだ、人間に怯えずに過ごせた時間は。
だからこそ、なのだろう。ノイスは思わずにはいられない。
吾輩は、まだ死にたくないのだなぁ、と。
自らが生き永らえるために、他者を蹴落とし生きていく。これまでも、これからも。
それは変わらないのだろう。
……ならばこそ、ノイスは反逆者になど、負けてはならない。
「吾輩の秘策、今こそ使うべき時なのだろう」
ノイスは呟く。
覚悟を決めたその老兵に、応える者はやはりいなかった




