第二十九話 ロリコンでケモナー?
「ごめんなさいもうしません生意気言って本当にすみませんでしたなんでもしますから命だけは助けてください切に、切に!」
モーニングスターが振り下ろされることは無かった。
何故なら、僕が倒すべき西の守護者はすでにそこにはおらず。
ただただ哀れな図体のでかい虎が、地面に自らの額をこれでもかと擦りつけている姿しか、
僕の目には映っていない。
「……なんでも言うこと聞くの?」
僕が問いかけると、ウェスは、
「はい、もちろん!」
と声を弾ませて答えた。
「じゃあ、その冠の魔力結晶を壊して」
「はい、よろこんで!」
そう言ってウェスは、自らの冠を、魔力結晶事真っ二つにへし折った。
……流石【四死獣禄】最速の男。その行動は疾く速かった。
「……うん、君の誠意は伝わったよ。だから、そのおなかの傷。治しても良いよ」
「はい、よろこんで!」
そう言って、ウェスは自らの傷を治した。
多分、肉体強化の魔法の副次的な効果で、肉体の回復も行えるんだろう。
僕はそう思ってウェスを見ていると、
「あ、なんすか、肩とか凝ってるんすか? 俺様、ガンガンもんじゃいまっせ!?」
これ、大問題でしょ。
だって、僕はこの西の守護者【疾風】のウェスの部下である兵をたくさん殺したっていうのに、その仇にへらへらしてたらダメでしょ。
お客様のありがとうを主食にする居酒屋店員が裸足で逃げ出すほどの献身ぶりをアピールするウェスをみて、僕はそう思いました。
「おのれはほんま……弱い者いじめが大好きやなぁ。ワイ、ほんまにひいてるからな」
「それにしても、【四死獣禄】とは、なぜこうも土下座が好きなのか。解せないな」
アルファールとメイデンが、戦闘を終えた僕の元まで歩み寄ってきた。
アルファールが何を言っているかは分からないけど、メイデンの言葉には同感だった。
どうして彼ら彼女らはそう易々と地面に額を擦りつけたがるんだろうか?
「好き好んでこんなことをするか! 生きるために、仕方なくしているだけだ!」
ウェスが涙声でメイデンに向かって怒鳴った。
僕がそれをとがめる様な視線を送ると、
「あ、サーセン。調子こいてました」
といってまた謝罪をしてくる。
「もういいよ、そこまで卑屈にならなくても。……でも、そうだな。なんでもやってくれるんだったよね?」
「へ、へい! 俺様にできることなら、何でも!」
「なんやねんこいつロリコンの上にケモナーなんか、きっしょ……」
アルファールが目を見開いて僕を罵倒していた。
でも、その誤解はひどすぎる。僕はケモナーじゃない。
……し、ロリコンでもない。
「僕たちと一緒に。君も戦ってくれないか?」
「はい、よろこんで! って、ええ!?」
ウェスは僕の言葉をろくに聞かないまま返事をしていたようで、
その言葉の意味を理解したのか、大層驚いていた。
「「な……!?」」
メイデンとアルファール、同じように口をそろえて驚愕していた。
仕方ないだろう、さっきまで戦っていた敵と共闘の持ちかけなんて、普通は考えられない。
「僕は、この暴力と魔力が支配する、無秩序な世紀末世界を変えるために。
その原因となった魔王を倒したい。
でもそれは、魔人・獣人・亜人を滅ぼしたいと考えているわけではないんだ。
僕は、人間も魔人たちも、仲良く手を取り合って平和に暮らす世界になって欲しい。
そして、その時の魔人達を率いるリーダーも、必要になるでしょ?」
「つまり俺様に、魔王様の後釜になれ、ということなのか?」
「最終的には、そうなると思う」
僕の言葉に、ウェスがまっすぐに見つめてきた。
「「なな……!!??」」
そして、メイデンとアルファールの二人は先程よりも驚いていた。どうしてだろう?
「何をおのれはまともなこと言ってんねん。正気か!?」
「それ、いろいろとおかしくないかな!?」
「ロリペディア、あなたきっと疲れてるのよ」
「メイデンまでなにさ!?」
僕の正気まで疑われてしまった。この二人は、本当に僕を何だと思っているんだろうか!?
「ていうか、それならなんでサースにはそう言わんかったんや?」
「ああ、それね……」
アルファールのもっともな意見。でも、一応直に戦って肌で感じて分かったことがあったからだ。
「僕はサースともウェスとも戦った。
それで思ったのは、サースには、自分の力に絶対の自信を持ちすぎていたこと。
彼女は、他の誰の力も必要としていなかった。
一応、【四死獣禄】として最低限リーダーのようなことをしていたんだろうけど……」
ウェスは驚いたように目を見開いた。
「確かに、闘いになって奴に勝てる奴は、ほとんどいない。だけど、指導者としては話は別だ。
事実、奴の兵を運用していたのは、奴の部下だ」
「その点、キミは別だ。
強がりを見せてはいるものの、自らの弱さを知り、数を使った戦闘を行おうとした」
「ロリペディアが一瞬でその作戦を台無しにしたがな……」
メイデンが口を挟むけど、僕はそのまま続ける。
「弱者の気持ちを、サースは分からない。だけど君には、弱い人の気持ちが分かる。
それが、僕がウェスを仲間にしようと思った、理由だよ」
僕が言うと、メイデンが頷いた。
メイデン自身が言っていたのだ、ウェスは【四死獣禄】最弱だ、と。
だから、もしかしたら、僕の言葉の意味を、深く理解しているのかもしれない。
「ただ一度、刃を交えただけなのに……そんなに分ちまうもんなんだな」
ウェスが震えた声で言う。
「弱者、か。決して認めはしなかったその言葉だけど、そうだな。
俺様は、弱いんだ。どうしようもない弱者なんだ。
だから強気を装い、上から物を言う。……でもそうか。俺様、初めて自分の弱さを誇らしく思うぞ」
そう言って、ウェスは立ち上がった。
「こちらこそ、一緒に戦わせてください」
と、ウェスが頭を下げてくる。
それは、額を地面にこすりつける様な情けない惨めな姿では、決してなかった。




