第二十八話 守護者の意地
ウェスの冠に嵌められた、魔力結晶が黒い輝きを発した。イースの時も用いられた奥の手。
アルファールの言うところのドーピングを、ウェスは行おうとしているのだろう。そして、
「なめるなぁぁぁぁっ! なら、今度こそ本気、全開の全力だ!
反動がきついとか、そんなもん知った事か。俺は全霊をもってここでお前らを殺す!!!」
メイデンに挑発されたウェスが吠えた。
突如、天から光がウェスに向かって落ちてきた。
その後、彼の周囲に凄まじい量の魔力が迸る。その魔力を纏うように従えて、
「第八階位の肉体強化魔法と雷魔法の重ね掛けだ!
今の俺様は、音さえ置き去りにする、光の如き速さとなっている!」
宣言するウェス。バチバチバチ、と纏った魔力が迸る音が聞こえる。
とんでもない魔力量なのは、一目瞭然。
先程メイデンに斬りつけられた傷も、既に完治していた。肉体強化魔法の恩恵だろうか。
「第八位階魔法の重ね掛け、中々お目にかかれるものでは無いな……」
ビリビリとした力の波動を受けて、メイデンも少々額に冷汗をかいているようだった。
「ねぇ、アルファール。そういえば第八位階の魔法って、何なの?」
半端ではない大技を発動したものの、今も魔力の流れを制御しているウェスを見ながら、僕はアルファールに問いかける。
「魔法のランクや。
第一位階から第十位階の魔法があって、あれは大針位階、つまりは上位三つめのランクの魔法っちゅうわけや。
ちなみに自分の魔力砲は、魔法ではなくただの魔力の放出やから、どの位階にも属しておらん」
「んじゃ、魔法の格的には僕の魔力砲の何倍もすごいんだね」
「ただ魔力を垂れ流すおのれの魔力砲と、魔力を練り上げ、
自らの体内に有する魔力変換炉を通して純度を高めた攻撃魔法では、比べるまでもないわ!」
ウェスの纏う魔力が、徐々に研ぎ澄まされていくのが理解できた。
「二人とも、下がっていて!」
僕の言葉に、メイデンとアルファールは即座に身を引いた。
「だけどな、おのれがこれまで叩き潰してきたイースとサースは、第九位階魔法を使ってたんやぞ!」
「イースのあの巨大な氷塊を召喚したのが、第九位階だったのかな?
サースは……どんなのを使ってたかは、覚えてないけど」
離れた位置からアルファールとメイデンが僕を見守っていた。
二人の位置を確認してから、僕は言葉を返していた。
「それに、おのれの魔力砲は、そいつらの第九位階魔法をことごとく葬ってきたわけや」
「つまり?」
ウェスが、狂気に染まった目を僕に向けてくる。
それを、真っ向から受け止め、モーニングスターを持つ手に力を込めなおす。
「第八位階かなんか知らんがな。
そんなしょうもないもんはおのれの力で術者もろとも肉ミンチにかえてやりいや!」
目前に質量を伴った光が迫った。
それは、第八位階魔法の重ね掛けをした、ウェスの攻撃。単純な突進だった。
しかし、その威力はあまりにも莫大。
破壊の渦は瞬きの間に、僕へと衝突した。
ウェスの身体を受け止めたモーニングスターを掴む手に、ことさら力が入る。
「受け止めたか、俺様の全霊を! だが、これで終いではない!」
再び、目の前からウェスが消えた。光の如き速さの彼を見切るのは、やはり至難の業だ。
四方八方から次々と現れては消え、攻撃を叩き込んでくるウェス。
彼の速度に、僕は防戦を強いられている。
どうにかしてこの速度を攻略しなければならない。だけど、無理なのか……いや!
そんなことは無い!
僕は、周囲を駆けるウェスを見る。だけど、それだけでは足りない、こちらも速く。
速く、疾く速く……。
そして、感じた。僕が世界を置き去りにしたことを。
世界から、音が消える。
色が消える。
臭いも、肌を撫でる風も、何も感じない。ただ目の前にいる、傲慢に歪んだウェスの顔が映っていた。
ゆったりとした動きで僕ののど元に食いつこうとしていたウェスの喉元を、
逆に素手で捕まえる。
「……!? んなあ!? 一体、どういうことだ!」
呆然とした様子で驚愕の声を上げるウェス。僕は、無慈悲にモーニングスターを横薙ぎに振る。
彼の腹部はずたずたに引き裂かれた。
「なんてことはないよ」
「な、なぜだぁ!? 光の如き速さの俺様を超えるなんて……ありえない!」
ぜぇぜぇと痛みに喘ぎながら、ウェスは言う。
これで死なないのは、流石の生命力といったところだろう。
「僕は、光すらも置き去りにする。ただ、それだけだよ」
モーニングスターを振り上げる。
ウェスの瞳には、無表情に命を摘み取ろうとしている、少女の姿が映っていた。




