第二十六話 開幕! VS西の守護者【疾風】のウェス
「ぎゃふん!」
「ぎゃふんってマジで言う人、僕は初めて見たよ……」
僕は目の前で悔し涙を流しながらこちらを見つめる二足歩行の巨大な虎を視界に入れて、呆れたように呟いた。
巨大な虎は体長五メートルほどか。
足はまるっきり虎のものだったけど、その太さは普通の虎とは比べ物にならない。
腕はどちらかというと人間の物に近い。
だけど、指先に剣のような鋭い爪をみると、やはり人間とは違うのだなと理解する。
頭には華美な装飾をされた冠を付けており、魔力結晶が中央に嵌められている。
もしかしたら、【四死獣禄】の一人かもしれないけど、こんな泣きべそかく奴がなぁ……。
「いや、しゃあないやろ……なんだかぎょうさんおったお仲間を、
おのれはまた魔力砲の一発で消し炭に変えてしもうたんやから」
「あれだけ生い茂っていた木々が、今や草の根も見当たらない荒野になってしまっている。
……流石に、私もあの獣人が気の毒に思うぞ」
アルファールが硬い表情で言い、メイデンも引き気味に言っていた。
「ええ? 馬鹿でかくて、向こうに地の利があるフィールドでなんて戦えるわけないじゃんか。
それに、アルファールだって無策で森の中に入るのは危険かもしれない、
って神妙な顔で言ってたじゃないか」
「いや、確かに言うたけどな。
森の中に25万以上の敵が潜んでいるのが気配で分かっていたし、
遮蔽物が多いから戦いにくいだろうと思うてな。
……ただな、この間の一件で反省したかな、とワイは思っていたんや。
だから、ここまでの虐殺をしないとふんでいたんやが
……ほんま、この殺人衝動の塊みたいやな、おのれは! いつも驚かされるわ」
アルファールが語気を荒くしていた。
「僕もこっちの世界に来てから、変わっちゃったな。……虫くらいは、殺せるようになったんだからね」
「魔人たちを虫扱いとは……ロリペディア、恐るべしっ!」
僕の言葉に、メイデンが驚きの言葉を発していた。
何が何やら分からない僕は、荒野の片隅でわんわん泣いている魔人へと目を向けた。
「ちくしょー、なんだって俺様がこんな目に遭わなければならないんだよ!?
考えてみれば、最初からおかしかった。
イースの兵は、主の仇のはずなのに異常にモチベーションが低かったし、
そもそもサースの兵は一人たりとも生きてはいなかったし!
森の中に仕掛けた様々な罠や策略はすべて無駄になっちまった!
強大な攻撃も、【四死獣禄】最速の俺様が不意打ちとはいえ避けるのがやっと。
おかげで兵は死に、残ったのは俺様だけ……なんて悪夢だ、クソったれめぇ!」
うおおおお、と人目もはばからずに泣いている。
ていうか、やっぱりこの人【四死獣禄】なんだ。
ということは、彼が【疾風】のウェスか。……威厳もなにもないなぁ、と冷ややかに見つめていると。
「……キレたぜ、完全によぉ」
そう言って、泣きはらした目をこちらに向けた。
「ん、何か様子が変わったようだな。なんと言っていたか、聞えたか?」
メイデンが僕に言う。
彼女は一応、普通の人間だから、ここから1キロほど離れた場所にいる相手の言葉は聞き取れなかったんだろう。
「キレたんだってさ」
「……そりゃそうだろうな」
僕がそう言い、視線を【疾風】のウェスへと戻すと。
そこには誰もいなかった。
「へ?」
「あかん、後ろや!」
僕がその声を知覚した瞬間。
体に大きな衝撃が走った。そして、天地がひっくり返り、僕は吹き飛ばされる。
何が起こったか分からない。だけど、体制を立て直して立ち上がると、
「俺様は西の守護者【疾風】のウェス。【四死獣禄】最速の男が、貴様をここで殺す!」
背後から声が聞こえた。僕は振り返り、
咄嗟に出現させたモーニングスターでウェスが振り下ろした爪の一撃を受け止めた。
「やるじゃねぇか」
「君も、凄く速い、ねっ!」
イースよりも、よっぽど早く感じる……。
僕は爪による一撃を弾いてからモーニングスターをウェスに叩き込もうとする。
しかし……それは虚しく宙を切った。
「え!?」
驚きの声を出すと、
「こっちだよ、オチビ!」
ウェスが楽し気に表情を歪める。僕の立ち位置から、既に1キロほどは離れている場所だった。
流石は【四死獣禄】最速を謳うだけはあり、その速度は驚異的の一言に尽きた。
「離れていてもビンビンに感じる、やべぇ魔力……
イースとサースをやったのは、オチビで間違いないよなっ!?」
離れた場所から、僕へと問いかけるウェス。
オチビだなんて失礼な、とは思うものの、その言葉に答える。
「……そうだよ、僕がその二人を倒した。仇討、とかを考えているのかな?」
「仇討? っは、んなわけあるか!
俺様にとっちゃ、お前如きに後れを取った奴の事なんざ、どうとも思ってねぇよ!」
僕の隣に、アルファールとメイデンが駆け寄ってきた。
二人は僕の無事を確認してから、同じようにウェスへと視線を向けた。
「魔力は規格外だが、戦い方はなっちゃいねぇ!
俺様の速度に、全く追いついてねぇじゃねぇか! このままじわじわとなぶり殺しにしてくれる!
ああ、簡単には殺さねぇぜ、恨みはねぇが、てめぇは俺様に無様を晒させたんだから、なぁっ!」
言った後、ウェスの姿がそこから消えた。
僕とメイデン、アルファールは身構えた。




