第二十三話 四死獣禄
「イースがやられたようだな」
「そのようね。……まさかあのイースがやられるなんて、相手は相当の手練れのようね」
ロリペディアが東の守護者【冷血】のイースを打ち破ったその瞬間。
同じく守護者である【四死獣禄】のメンバーは、それを特殊な魔力の流れによって共有していた。
彼らが集うのは、現実の世界ではない。
思念が空間を無視し、互いの言葉をやり取りしている。
この異世界には全く似つかわしくない上にそのように例えられたらシュールなことこの上ないが、分かりやすく例えると彼らの頭の中にはスマホがあって、それを使ってテレビ電話をしているようなものだ。
テレパシー? うーん、ちょっと違うかなぁ。
つまり【四死獣禄】は、魔王から与えられた領地の守護者であり、それぞれがメル友みたいなものなのだ!
「へんっ、驚くことはあるめぇ。
【冷血】は、俺様達【四死獣禄】にて最弱。
全く、何処の馬の骨にやられたかは知らねぇが、とんだ面汚しだぜ!
なぁ、お前らもそう思うだろ!?」
その言葉を放ったのは、西の守護者【疾風】のウェスだった。
彼の言葉を聞いた残りの二者が、返答をする。
「そのような言葉、力を尽くして戦ったであろう仲間にむけるものではないな。
吾輩は、残念に思うぞ」
ウェスの言葉を窘めたのは、北の守護者【不動】のノイスだった。
「そうね、私も同感だわ。……ていうか、ウェス。あんたのそれってただの強がりでしょう?」
南の守護者【不死】のサースは、からかうように言う。
「あ、それはどういう意味だよ!?」
「【四死獣禄】最弱は、あんたじゃないの。
強がりのあんたは、そういう風に自らを奮い立たせないとビビっちゃうんでしょう?」
「……おい、誰がビビっているって?」
ウェスの怒りが滲んだ声が聞こえる。
「あんたよ。何、怒っているの? それだったら、やる? この妾と?」
「……ふざけるな、【四死獣禄】同士の決闘は、魔王様に禁止されているだろう」
「あら、そんなにビビらなくてもいいのに。冗談なんだからさ」
クスクス、と妖艶に笑うサース。
「っち、糞が」
ウェスが悪態を吐く。しかし、サースはそれを気にしない。
ただの負け惜しみだと分かっているからだ。
【四死獣禄】最弱が誰かなど、サースは興味がない。なぜなら、彼女は知っているから。
自分こそが、魔王に次ぐ強者なのだと。故に3位以下の争いに、興味が持てないのだ。
「そういじめてやるな、サース」
ノイスが言う。
友人が喧嘩をしていると気をまわしてしまうタイプなのだ、ノイスってやつは。
「うるせぇ! 俺はいじめられてなんかいねぇ!」
震え声でノイスに怒鳴るウェス。
気を回した結果、友人にうっとおしがられて気まずくなってしまうやつなのだ、ノイスってやつは。
「そう吠えなさんな。不安なのはわかるけど、それもすぐに消えてなくなるわ」
そんな二人をよそに、サースはゆっくりとした口調で言う。
「何が言いてぇんだ、てめぇ?」
ウェスが問いかける。
するとサースは、嗜虐的な笑みを口元に浮かべて、言うのだ。
「魔王様に歯向かう愚か者は。何人だろうとこの妾が消し炭に変えてやるのだから」
ウェスとノイスは息を呑む。
そう、彼女こそは【四死獣禄】最強にして最狂。
自らが慕い従う主のためならば、どんな敵も血祭りにあげてきた。
もしも次、イースを倒した者たちが南へと向かい、サースと相対するのであれば。
……きっと、死よりも恐ろしい目に遭わされるのだろう。
彼女の前では、戦いは成り立たない。……そういう次元なのだ。
サースにとって、相手が誰なのかは関係ない。
ただ、相手がどのような末路を迎えるのか。
自らの主を除いて世界最強の彼女の前に立つ敵が、ほんの少しだけ哀れだと。
ウェスとノイスは、同時に思っていたのだった。




