第十九話 呪術
戦いを終え、訪れた静寂を破ったのは、アルファールだった。
「なんでや!?
おのれは全っ然! その力の使い方分かっとらんやんけ!!
今のが魔法の使い方のつもりなんか!?」
……え、いま僕怒られてるの?
「そうだけど……。
今の魔法、結構すごかったでしょ?」
「何もすごくあらへんわ!
今のは魔法やなく、おのれの魔力を勢いよく放っただけやんけ!
魔法っちゅう高度な代物やなく、言うならただの【魔力砲】や!」
「それだって、魔法みたいなものじゃんか……」
「ちゃうわい!
言うならばおのれは魔法少女としては出来損ない……
魔法少女の劣等生やぞ!」
「なんで今言い直したの!?」
「ッチ。いちいち突っかかるなや。
ま、言いたいことはそんだけやし、さっさとここから出るで。
……なにやら、物騒な物音も聞こえてくるしの」
アルファールは言いたいことだけ言ってすっきりしたらしい。
僕は全くすっきりしないもやもやする。
彼の言葉の通り、洞窟の天井が音を立てて軋んでいる。
それは、おそらく地上にまで達しているであろう大きな風穴が、この洞窟内の均衡を破り、崩れ去ろうとしている予兆なのだろう。
今しがた僕が魔力砲をぶっぱしたことでできた風穴。
これまで来た道を戻るよりも、この穴を通って行った方が、ずっと時間の短縮になるだろうなぁ。
それじゃ、アルファールを肩に乗せて、こちらを見ている金髪の女の子も一緒に出て行こう。
そう思い、彼女に僕は手を差し伸べた。
「ここはもう崩れてしまいそうだから。いっしょに、ここから出よう」
と、告げた。
彼女は、驚いたように僕の手を眺めてから、そして手を取った。
「あなたのような可愛らしいお嬢さんに助けられるなんて、光栄だ。ぜひ、ご一緒させてもらう」
素敵な微笑みを浮かべて、少女は言った。
そうと決まれば話は早い。
僕は彼女とアルファールと、三人で洞窟を抜け出そうとした。
しかし……瞬間的に、とてつもなく嫌な予感――殺気というのだろうか
――その気配を感じ取り、僕は振り返った。
すると、首だけになり息絶えたはずのイースの頭部から、なにか禍々しき気配がこちらに向かって突き進んできていた。
それは、目にも留まらぬ速度でこちらに向かってきていた。
咄嗟の回避は、間に合わないっ!?
……それならば、と。とっさに肩に乗っていたアルファールを盾にして防いでみた。
「え? なにしとんねん? え? ていうか……え?
……う、うわあぁぁぁぁぁぁ。なんじゃこりゃーー!!」
アルファールの叫びに、呼応する声が聞こえる、
『これは呪いだ。我が無念を晴らすために、死力を振り絞って放った、最後の呪い。
小さき少女自身にかけられなかったことは口惜しいが……まぁ、よい。
大切な仲間が苦しむのを、貴様は指をくわえてみているがよい!』
イースの顔が、影のような形となって僕の目の前に現れ、そう告げる。
「な、なんだって!?」
僕は驚愕の声を上げた。
それに反応して、徐々に薄く、消えゆくその顔は、満足そうに口元を歪めた。
「……ま、アルファールだからいっか」
僕は苦しみ、何故だか暗闇に包まれ始めたアルファールを抱えながらそう呟いた。
正味、アルファールが苦しむのとか、どうでも良いんだよね……。
消える一瞬前、イースは心底残念そうな表情を残していった。
「って、なんやねんこれ、マジで! どないせいっちゅうんや、これは!?」
得体のしれない呪い。流石のアルファールも慌てふためくが、今はそれどころではない。
僕は一人の少女と一匹の靄に包まれた小動物を小脇に抱えて、先程開けた風穴から、この洞窟を脱出した。
☆☆☆
そして、跳躍を繰り返し、行きはそれなりにかかった道中も、数十秒、もしくは十数秒ほどで脱出できた。
日の光が、瞳を突き刺す。
そのまぶしさに、思わず目を背けた。
お姫様抱っこ状態だった少女を降ろした後、いまだ黒い靄に包まれたままのアルファールを地面に叩きつけた。
「なんでや! おのれ、ほんまあたまどうかしてるで!」
地面に叩きつけられたアルファールの抗議の声が聞こえ、僕は彼の方をみる・
そして、絶句した。
「……ええ? それ、なんなの!?」
アルファールを覆っていた黒い靄は消えていた。
そして、現れたのは、イタチのような可愛らしいルックスのアルファール、ではなく。
イタチの胴体から人間の手足が生えた、奇怪な生物だった。
「うっわ、きっしょ」
僕の呟きに、一緒にいた少女が神妙そうに頷いた。
「これは、酷く醜いな」
「なんか、小学生が書いた落書きをそのまま実在させたような不安定さがある。……まじで、こわいなぁ」
僕の呟きに、
「うっわ、ホンマやん!? ワイのパーフェクトなプリティーボディは、どうなってしまったん!?」
なんて、アルファールも驚きの声を上げていた。
これが、呪い。
……確かに精神的なダメージはくらったけど、思ったよりもしょうもない呪いだった。
と、ほっと一息つきかけた瞬間。
「え、な、なんやこれ!?」
なんと、再びアルファールの全身を靄が覆い始めたのだった。
その黒い靄が全身を包みこむまで、そう長い時間はかからなかった。
「な、なにかがワイの中に、入ってくる!? なんやこれ、一体、何が……う、うわぁ!
やめろ、来るな!! こっちに…… あ、アアッー!!」
「そういえば、まだご飯食べてなかったな。さっきの村で、何か食べさせて、もらえないか……」
僕は隣で、ポカーン顔の少女を見ながら、彼女を連れて村に行くわけには行かないよなぁ、と考え直した。
「って、ちょっとはこっちも気にせんか、アホたれが!」
などと、わけのわからない供述をするアルファール。精神鑑定の結果が待たれる彼に目を向ける。
どうせまたSAN値が下がりそうな姿になっているんだろうなぁ、なんて思いつつ振りむええええええええええ!?
「な、な、な、あ、アルファ、え!? ……幼女!?」
「はぁ、なにきっしょいこといってんねん、10の肉片におのれを変えてやろうか……って、えええええええ!?」
僕の言葉に、アルファールは自らの体を見下ろした。
細く華奢な手足。
小さな体。
そしてクリッと可愛らしい瞳、小振りな唇。
一切のくすみのない、白い髪と、真紅の瞳。そして、吸い付きたくなりそうな小振りな唇。
そこにいたのは、可愛らしい幼女だった。




