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第十六話 通りすがりの魔法少女

「何ボーっとしとんねん! 敵さん、こちらに気付いたで!」

「え、あ……ご、ごめん」


 僕は、アルファールに無効脛をチョップされ、呆然とした状態から脱却した。

 大きく、邪悪な姿をした異形。

 蜥蜴人のような敵が、一瞬ホールに入ってきた僕たちに気を取られた美しい女性に尾の一撃を加えて壁まで吹き飛ばし、その後に僕たちに向かって手を振るった。

 空間が歪み、そこから幾多もの拳大の氷柱が現れ、それが僕たちに向かって飛来する。


「危ない!」


 僕は飛来する氷柱をアルファールを盾にして防いだ。

 アルファールはずたずたに切り裂かれたものの、何とか息はあるようだった。


「っち」


「って、おいおいおーい!

 生きているのを確認してから舌打ちするって己はどこまで卑劣なんや!?

 ほんでなによりも! 何を当然のようにワイを盾にしてくれてるんやねーん」


 楽しそうに突っ込みを入れ……


「楽しくないわ! 何を都合のいいように解釈してんねんアホンダラ!

 怒髪天を衝く勢いで怒ってますが何か!?」


 うっとおしいな、僕はアルファールの言葉を無視して、彼女の姿をみた。


 動きに合わせて流れる金色の、髪の毛。

 歳は10代半ばから後半ごろか。

 未だ愛らしさが残る顔立ちではあるが、あと二、三年もすれば完成された美を体現するだろうことがうかがえる。

 皮鎧の上からでも分かる、スタイルの良さ。

 彼女の容姿は、この世界で出会った誰よりも幻想的で、何よりも美しかった。


 ……一つだけ、惜しむべき点があるとすれば、彼女の年齢だろう。

 せめてあと五年……いや、三年早く彼女と出会えていたならば。

 僕の人生は変わっていたことだろう。


 ……未完成の可愛らしさという点では、この僕の方がはるか上だろうから。


「おおーい、何無視してんねん。てか、顔きしょ!」


 僕が思案していることに腹を立てたのか、ボロ雑巾が声を荒げていた。


「誰がボロ雑巾やねん……」


 僕の心の声に突っ込みを入れたあと、


「それにしても、女の自称勇者が、まさか竜人やったなんてな……」


 しみじみと呟くアルファール。


「え!? 今攻撃を加えてきた方が、どう考えても敵の方でしょ!?」

「いやいや、あっちの女は、日朝的に考えて、悪の女幹部と言ったところやろ。

 全国のパパさんたちの視線は釘付けやで。

 ほんで、あの竜人が女だとしたら、ニッチな需要にもこたえられるっちゅー寸法や」


「そんなお約束、異世界には通用しません! ていうかニッチ過ぎるでしょ誰得なの!?」


 僕は叫んでから、アルファールの尻尾を掴み、床にたたきつけてからつっこんだ。


「て、言うのはじょうだんとして、やな」


 アルファールは床の上でビクンビクンと愉快に痙攣しながら、言う。


「割とあの女も、ぎりぎりっぽいやんな」


 遠い目をしながら呟くアルファール。

 僕は彼の視線の先で戦う2人を見る。


 金髪の女の子は、華美な装飾が施された剣を手に戦い、時に魔法みたいなものを繰り出して、自らよりも強大な竜人と戦っている。


 ……が、その相手の竜人は、それらの攻撃を氷の魔法や硬い鱗を用いた防御。

 そして禍々しく変異した、極大の爪で繰り出す攻撃は、絶大な威力を誇っている。

 そこかしこに、本来は華美な装飾の施された豪華な場所だったことが分かるのだが、今は戦闘の影響で、あちこちがボロボロになっている。


 そして、2人の戦いは、終始竜人が有利に戦いを進めているのだ。

 こんな風に見守っているうちにも、竜人の攻撃を躱しきれずに、足に傷を負った女騎士が、その場に蹲った。


 身動きが取れない彼女に向かい、竜人は氷魔法を繰り出す。

 それを彼女は何かしらの魔法で打ち消した。

 が、それだけでは竜人の攻撃は終わらなかった。

 高速で彼女の背後に回り込み、無防備な背中を狙った一撃を、今振りかざそうとしていた。


 僕の身体は、勝手に動いていた。


 体に走る重い衝撃。

 目の前には、竜人が振るった鋭い爪。

 僕は彼の攻撃を受けるため移動し、咄嗟に創造させたモーニングスターで受け止めていたのだ。


「あなたは、何なの?」


 僕の背後から、不安そうな声が聞こえた。


「通りすがりの……ただの魔法少女だよ」

 



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