第十五話 メスゴリラ……?
一切の邪魔も抵抗もなく、僕たちは一層及び地下一層を駆けおりていた。
誰一人として、僕たちを阻まなかった。
それは、すでにこの洞窟内にいる者を、自称勇者の女がことごとく殺し尽くしていたからだ。
すべての死体は、目も当てられぬ姿になっていた。
現在僕とアルファールがいる地下二層。
その先には、敵の親玉である【冷血】のイースが待っているのは当然として、もう一人。
自称勇者のイカレポンチがいる。
そのことに、不安を覚える。
……いきなり襲い掛かられたら、どうしよう?
人の言葉は……多分通じるとは思うけど。
すんごい凶暴な奴だったら、嫌だなぁ。
「何うんうんうなっとんねん! ……この力の波動、おのれにももう感じ取るやろ。
誤算やったで、まさかここまでの奴がおるなんてな……」
アルファールが珍しくシリアスな声で言っている。
額に汗を流しながら……震えている!?
「いいえ、全く気付かないけど」
僕は、何にも感じない。本当に。
アルファールは、便利スカウターを内蔵しているから、そんな風に気とかオーラ的なものを感じることが、出来るんじゃないかな?
アルファールは驚いた表情を見せたあと、不敵な表情を見せてから、
「……はは、頼もしいやんけ。
ま、考えてみれば、いくら相手が化物じみてはいても、おのれの方がよっぽど化物やったな」
とニヒルに呟いていた。
僕はよく分からなくって、
「あ、……はい」
とだけ答えていた。
ドオォン!
と、いきなり大きな音が耳に届き、衝撃が全身を貫いた。
気配、何という曖昧な物は全く分からないけど、これならばわかる。
この先で、【冷血】のイースと自称勇者が、戦っているんだ。
「急ごう」
僕の呟きに、
「ああ、せやな」
アルファールも答えた。
僕はアルファールを抱えて、駆ける。
せまい洞窟内の通路を進むと、徐々に道は広く大きくなる。
そして、戦闘の音もより正確に分かるようになっていた。
「あそこや!」
アルファールの声が聞こえる。
「うん。分かってる!」
僕も一言返す。
「ちなみに、アルファールは自称勇者、どんな人だと思う?」
唐突だけど、プロファイリングは重要だと思うんだ。
「なんや、藪から棒に。まぁ、せやな。
敵の肉ミンチぐあいから考えるに……人語を介する、メスゴリラ、っちゅうのが妥当な線やろな」
「人ですらないの!?」
僕は叫びをあげる。
でも、そうかもしれない。
ここにくるまで、とても多くの殺された敵を見続けてきた。
……か弱く可愛らしい女の子では、決してできないような惨状。
きっと、ゴリラのような女もしくはメスゴリラが、敵のボスと戦っているんだろうなぁ。
僕ははぁ、と疲れた息をついた。
そして、一時足を止める。
「この扉の向こうで、今も戦っているんだね」
僕は、目の前に現れた、大きな扉に手を賭ける。
「これまでの相手よりかは、骨があるで。
余裕なことに変わりはないとはおもうけど……気を引き締めていけや」
「うん。それに、女勇者も気になるしね。……それじゃ、いくよ」
僕はそう言いながら、扉を開いた。
扉の向こうに広がっているのは、大きなホールだった。
その中央で戦っている一人の異形と一人の少女がいた。
……そんな余裕はないはずなのに。
僕は、その中央で剣を振るう、美しい少女に。
目を奪われていた。




