第十二話 長老の憂鬱
広まる畑の横にあるテントの中で、僕はこの村の長と話しをすることになった。
長というからよぼよぼの老人をイメージしていたのだが、そんなことはなかった。
まだ30程度の男性(生前の僕と、きっと同年代だ)で、太くはないが引き締まった筋肉に身を纏っていた。
「……君が、娘たちをここまで連れてきてくれたんだね。まずは、お礼を言おう」
そう言って、村長は頭を下げる。
「そんな。頭を上げてください。……その、話があるとは言いましたが、まずはこちらから、いくつか質問をさせていただきたいのですが」
僕の言葉に、村長はいぶかしげな表情を見せる
「質問? ……答えられることなら、答えましょう」
だが、それでも質問に答えてはくれるようだ。
「この村と、蜥蜴人。一体どういう関係なんですか?」
「……この村は、あの方たちの助けがあって、存在出来ているんですよ」
僕は、村長の言葉の意味が、イマイチ分からなかった。
「……それって、小さな女の子を蜥蜴人に差し出すことを条件に、助けられていた、ってことですか?」
僕の言葉を聞いた村長は、どこか不愉快そうに眉を吊り上げ、そして答えた。
「……間違ってはいない。だが、それでも彼らは娘たちを大切にしてくれていた。乱暴をすることは無く、乱雑に扱ったりはしなかった。それどころか、一人一人を大切にしてくれて、月に一度は私たちの元に合わせに来てくれていた。……その時には、手土産と言って貴重な肉や、香辛料を持ってきてくれたりした」
興奮した村長の弁は止まらない。
「それだけじゃない! 彼らは、私たちの村に魔物が寄ってこないように周辺を警備してくれたり、今の時代では貴重である枯れていない土地と、井戸をあてがってくれた。……餓えることなく、そして魔獣や魔物、他の魔人の脅威に怯えることなく生きることができるなんて……普通はあり得ないんだ!」
村長は頭を抱える。
「一体、彼らがいなくなった今……誰が俺たちを守ってくれるというんだ」
崩れ落ちる村長。
僕は、彼を見て、複雑な気持ちになる。
一時の感情に身を任せ、蜥蜴人を倒してしまったのは、間違いではなかったのだろうか?
彼らは、生きるために互いに身を寄せ合っていたのだ。
それを、僕が壊してしまった。
……だけど、それが理想であると言えるのだろうか?
そもそも、こんな世界でなければ、村でみんなで一緒に暮らせていたのでは……なんて、仕方のないことが頭によぎった。
「幼女を産んで、ある程度育てれば守ってあげて、餌もくれる。おのれの生まれ育った国でいうところの、家畜と、なんら変わりないやんけ。……まぁ、力のない人間には、この世界はあまりにも厳しいんでな、同情はするが。だからと言って助けたいとは思わんな」
考える僕の耳に、アルファールの声が耳に届いた。
「え!? 君は、この世界に僕を連れてきたのは、人間を魔王から救うためでしょ!?」
「ちゃうわ。ワイは、息がっとる魔王にプギャー言わすためにここに来ただけであって、人間を助けにここにきたわけやないんやで」
僕は、アルファールの言葉に声を詰まらせる。
でも、そうだ。
魔王を倒せば、この世界も変わるかもしれない。……そう思った。
僕は村長を見る。どうやら、絶望に沈んで僕たちの会話は耳に入っていなかったようだが、こちらと目が合うと、捲し立てるように問いかけてきた。
「君は! 知っているのか!? 蜥蜴人達を殺した、犯人をぉ!」
とてつもない迫力で、ちびりそうになりました。
……知っているけど、答えられない。
僕です、なんて言った日には、何と言われることやら。
「すみません、それは、わかりません」
僕が言うと、村長は一瞬がっかりとした様子を見せたが、すぐに表情を変えた。
「あいつだ……!! あいつに違いない!!」
「あいつ? って、誰ですか?」
興奮する村長に、僕は問いかける。
「ああ、君がここにくる前に、一人の女がこの村に来たんだ」
「女? 一体、どんな女だったんですか?」
僕の質問に、村長の表情が憎しみの色濃く奈多。
「頭のおかしな女だった。なにやら立派な剣を腰に帯びた女だった。奴はこの村によって、1つだけ問いかけたんだ」
「問い掛け、って、何をしたんですか?」
「ここら一帯を取り仕切っている、東の守護者【冷血】のイースの居場所がどこかを、訪ねてきたのだ」
その名前は聞き覚えがある。蜥蜴人たちの上位の存在、魔王軍の幹部である魔人、だったはずだ。
「『奴を殺すのは自分と、手にした聖剣だ』と言って聞かなかった。人間に勝てるわけがないからやめておけ、と言っても、『女神の信託に選ばれた自分に、斬れぬ道理はない』といって聞かなかったからそのままいかせたのだが。……なるほど、奴は既に蜥蜴人達を殺していたのか……くそったれぇぇい!」
なぜだか、僕の罪が見知らぬ女性になすりつけられたようです。
「きっとその人です!」
だから僕は全力で乗っかることにしました。
「マジで屑やんけ…死ね。氏ねじゃなくて死ね」
アルファールは呆れたように呟いた。
「あの、村長。僕達にも教えてください、その東のイーストの場所を!」
「【冷血】のイース、な」
アルファールが要らぬ突っ込みを入れる。
僕が虫も殺せない気弱な童貞じゃなかったら、きっと殺しているんだろうな、と思うほどうっとおしい奴だなぁ。
「……なぜ、そんなことを聞く。君のような小さな女の子には、何もできないよ」
暗い表情でいう村長。
「僕にはできないかもしれない。だけど、このアルファールは、大きな力を秘めた聖獣なんです。だから、その女を連れ戻すくらいは……出来るかもしれない」
すんごいテキトーな嘘をついてみた。
「……聖獣、か。言われて見れば、そこはかとなく神聖な感じをうけなくもない」
こいつ、バカか!? みたいな目でアルファールが村長を見ていたけど……うーん、確実に馬鹿ですねぇ。
「分かった。君に【冷血】のイースの根城を教えよう。そして、女を連れ帰ってきてくれ、恨み言は腐るほどあるのだから! ……だが、無茶はするな。その聖獣の手に負えない相手を見つけたら……それこそ、【冷血】のイースを目の前にしたら、すぐにこの村に戻ってくるんだ。そして、この村を外敵から守ってくれ。ほんと、お願いします!」
メチャクチャ哀れな男が目の前にいた。
他力本願もここまでくると驚きが隠せない、が。
こんな世界なら、そうなってしまうのも仕方ないのかもしれない。
だから、僕は一言告げる。
「大丈夫です。任せてください」
……何が大丈夫か、自分でも分からないのだが、いきおいで言ってみた。




