第十話 幼女が幼女に声を掛ける事案発生
すんごい勢いで突進されたなぁ。
はは、道理で腰が痛いわけだ。
僕は軽く腰をさすりながら、そんなアルファールに反論する。
「彼女たちが怖がっているのは、君が悪いよ。だって、いきなり、大声で怒鳴り散らすんだもん!」
「ちょいまちや!? まさかおのれ、自分のヤバさに気が付いてないんか!? こっわ、ほんまに……こっわ! ぼそぼそと女児の身体的特徴について考察する己は、ほんな妖怪の一種か何かと思うくらい恐ろしかったで! ……何が君が悪いや、おのれは気味が悪いんや!」
「ええ? ……そんなこと、ないとおもうけどなぁ」
そう呟いて、僕は幼女ちゃんたちを改めて見る。
……ものすごい怯えた目を僕に向けていた。
なんでそんな眼を向けるんだろう?
今の僕は、彼女たちと同じ可愛い可愛い幼女の姿をしているというのに、全く心外だ。
「……でも、そんな風に怯えた表情をする幼女ちゃんたちも、かわいいねえ」
僕が呟くと、
「うわ~ん、こわいよぉ~! 助けて、蜥蜴のおじちゃん! はやく、かえってきてよぉ~!!」
と、茶髪の女の子が鳴きはじめる。
それを、藍色の髪の女の子が、
「だ、だめよしずかにしていなくちゃ……。殺されちゃうかもしれないから、気分を損ねないように、静かにしていなくちゃ」
自らも体を震わせているのに、泣きわめく幼女をぎゅっと抱きしめて慰めようとするお姉さん幼女ちゃん。
……ふふ、とっても絵になる幼女ちゃんたちだねぇ。
僕は心中で舌なめずりをした。
「あかん。こいつはやばいでぇ。いっぺん死んだ方がいいで、おのれみたいな変態は」
「だからさぁ、僕は一度君に殺されたんじゃないか」
「せやった……ロリコンは死んでも治らないんやな……」
なにやらアルファールさんは衝撃を受けているようだった。
僕はそれを流して、幼女たちに声をかける。
「そんなに、怯えないで。僕は、蜥蜴のおじちゃんたちに頼まれて、君たちを保護しに来たんだ」
僕の、「蜥蜴のおじちゃん」というセリフに、2人の幼女の震えが止まった。
「え……蜥蜴のおじちゃんをしってるの?」
茶髪の女の子が、僕を上目遣いに見て言ってくる。
「うん。知っているよ。おじちゃんたちは、君たちを本当に愛していたことも、ね」
僕の言葉に、2人の幼女は、頬を朱く染めて嬉しそうに、笑った。
その笑顔を向けている相手は、蜥蜴人の彼らなのだろう。
僕の想像以上によっぽど良い関係を築いていたんだな、と思うと同時に……どうしても嫉妬の念を抱いてしまう。
……って、いけないいけない!
ここで僕がなにかしらのリアクションをとったら、何故かはわからないけれどまた怖がらせてしまうかもしれない。
そうならないためにも、僕はまた言葉をつづける。
「それでね、僕たちは蜥蜴のおじちゃんたちに頼まれたんだ。
どうやらここは、近い内に大きな危険が訪れることが分かったみたいなんだ。
でも、蜥蜴のおじちゃんたちは、その危険を調べるのに忙しい。
だから、僕に君たちを生まれ故郷に一時的に返すように、って頼んできたんだ」
僕の言葉は、偽りだらけだった。
蜥蜴人とこの幼女たちの関係は、分からないまま。
だけど、決して悪いものでは無かったのだろう。
それを、利用させてもらった。
「己が殺したくせに、いけしゃあしゃあとなにを抜かしとんねん」
隣の、アルファールが僕にだけ聞える様な小声でささやきかけてきたから、とりあえず肘を入れて黙らせる。
彼はジト目で僕を見ていたけど、この嘘で円滑に事が済むのならば致し方ないだろう。
「……それ、本当なの?」
藍色の髪の女の子が、僕に不安そうに尋ねる。
「うん、本当だよ。
……蜥蜴のおじちゃんたちは、自分たちで君たちを生まれ故郷に帰したかったみたいだけど……。
どうしてもそれができなかったみたいなんだ。
だから、どうか。彼らに頼まれた僕の言葉を信じてほしい」
必要最低限の脚色はあったが、それでも彼女たちを頼まれたのは本当だ。
「……うん、分かった。貴女の言葉を信じる。ちょっと、まってて」
そう言って、藍色の髪の女の子は、茶髪の女の子に目配せをした。
そしてテントから出て行き、他のテントの中にいた幼女たちに声を掛けて言った。
どうやら、他の子を説得してくれているようだった。
「おのれは、ほんま悪党やな……」
アルファールの声が聞こえる。
「……蜥蜴人達は、きっと本当に彼女たちを愛していたんだろうね。……羨ましいよ」
僕の答えに、
「……ほんま、おのれには呆れるわ」
という答えが返ってきた。




