第一話 こんなの絶対おかしいと思います
TS物の連載をしていきます。
そして魔法少女ものです!
皆さんに楽しんでいただけるように更新していきますので、ぜひご一読お願いします。
「ワイと契約して、魔法少女になったらええと思うで、自分」
目の前の、可愛らしい外見をした小動物のようなサムシングが、僕に言った。
様々な疑問が、脳裏に浮かんでは消え……はしなかった。浮かぶだけ浮かんで、言葉にしきれないので言葉にしなかった。
酔いの残る頭を抱えた僕は、どうしてこうなったのかを、しばし振り返ることにした。
※※※
しょんぼりと肩を落としながら、僕はアルコール混じりの大きなため息を一つ吐いた。
時刻は23時30分過ぎ。
今日は僕の20代最後の日だった。
そして、その日も残るところ僅か30分足らずだ。
思えば、これまでの人生は散々だった。
真面目に過ごした学生時代。
楽しい色恋沙汰なんて、全くなかった。
女子からの僕に対する評価は、
優しい、けど……良いお友達、以上にはなれないかなみたいな、あからさまに一歩引いたかんじであった。
男子からはお姉っぽい、なよなよしてる、掘りたくなるなどといった一部トチ狂った感情を抱かれていたし。
そして社会に出てからは、少ない賃金にも関わらず、会社に尽くした数年間だった。
会社に尽くしながら彼女を探すなどという要領の良さはなかったため、結婚適齢期になっても彼女がいないままだ。
そして……最悪なことに、僕の所属していた会社は経営悪化のため、社長一族が夜逃げ。
技術を持っていた人間は全て他社に移籍。
僕にも声は掛けられていたのだけれど……何だかばかばかしくなってしまい、その誘いを受けないでいた。
どれだけ真面目に尽くしても、報われない。
どれだけ真面目でいても、誰も好意を向けてはくれない。
つまりはそれが、無職童貞(29)の僕が、これまでの人生で得た数少ない真実だった。
流石にやばいと、危機感を覚える。
何がやばいって、社会的にやばい。
そんなことを思いながらも、今もこうして、ビール瓶片手に町を徘徊していた。
やるせなさを誤魔化すために、酒におぼれているのだった。
『だ……す……て……』
アルコールと眠気で朦朧とする意識の中、何かが聞こえた気がした。
……何が聞こえたのか、僕は気になっていたのだけれど、その後耳に届く音は何もなかった。
だけど……。
『誰か助けて……』
確かに、聞こえた。
誰かが、僕を呼ぶ声が。
でもそれは、耳に届いたわけではなかった。
脳内に響くような、そんな不思議な声だった。
僕は意識を集中して、その声を聴きとろうとする。
『……その先の路地を右に曲がって……』
……なんだろう、道案内をされ始めた。
胡散臭い、とは思うものの、アルコールの酔いとヤケクソ気味の現状から、その指示に従い路地を進んでいくことにする。
『そのまま真っ直ぐ歩いて……』
まっすぐに歩くとコンビニが。
『そこでマイセンを1カートン買ってきてや……』
まさかここで煙草をかわされるとは。
僕はその言葉を無視して踵を返し、お家に帰ろうとする、
『嘘嘘、ちょっとした冗談やんけ! 分かってるて、今はメビウスやもんな、な!?」
「帰らせていただきます」
『ああ~分かった、分かった! タバコはええから、さっさと助けたってヤ!』
僕の脳裏には、胡散臭い似非関西弁が届く。
僕が酔っぱらっていなければ、絶対に無視していたことだろう。
だけど、今の僕はただの酔っ払い。どれだけ胡散臭くても、好奇心には勝てなかった。
というわけで、脳内の声に従い路地を進んでいくことにした。
「……ここで行き止まり?」
声に従い進んだ結果、ほんの数分で行き止まりへと到着した。
……って、緊急っぽく助けを求めてきたのなら、案内くらいしっかりしてもらいたい。
って、ああ……いつの間にか深夜0時を過ぎて、僕の誕生日になっていた。無職童貞30歳の僕は、なんて無駄な20代最後の日を過ごしたんだろう、と凹んでいると、
『ここで合ってるで』
そんな声が脳内に響いて。
そして僕の視界は一瞬で暗転した。