第8章 崩壊
極星の神々は自身が何たるかが曖昧になり始めた。一人二人では無い。それは次第に広がり、止まることはなかった。華やかな庭の日々は終わりを告げ、混乱の日々が始まった。一変した庭の有様に極星は戸惑った。
「皆どうしたというのだ」
何故。と神々は議論するが、何物にもわからない。自身が曖昧になる事を恐れた神々は、自身の星へ戻ろうとする。だが、その頃になってそれが最早叶わぬ願いであることに気づいた。いかに神の力を振るおうとしても思うようにいかない。まるで神では無くなったかの様に無力なのである。発狂した神々は極星に救いを求めた。
「この庭で異変が起きている」
「皆己が何たるかがわからなくなっている。己の星に戻ることも叶わない」
「私は恐ろしい。他の神のように、私は己の星を忘れてしまうのが恐ろしい」
「極星よ。そなたの力でこの異変を止めてくれ」
だが、極星がいかに智慧をしぼっても解決策が見つからない。
曖昧になる願望―――。
曇る極彩の瞳―――。
姿が崩壊する―――。
悪化する神々に恐ろしくなった極星は月と太陽に救いを求めた。
「嗚呼。燻銀の月よ。鋼の太陽よ。我らを救いたまえ」
極星の必死の叫びに、燻銀の月が答えた。
「如何した極星」
「燻銀の月よ。私の星で、神々に異変が起きているのだ。皆曖昧に成り崩壊していく。星に戻ることも叶わない」
「知っておる。それが如何かしたのか」
「如何とは。燻銀の月よ神が神では無く成っているのだ。これは大事である。故に救いを求めているのだ」
「そうか。だが極星よ。それは、そなた達が望んだことではないか」
思い当たる極星に、燻銀の月は冷たく。
「極星よ。そなたまで曖昧になったのか?神で無くなること。それをそなた達は望んだではないか。その庭で、神では無くなろうと宴を延々。忘れたのか?」
青ざめる極星に、燻銀の月は更に続けた。
「そなたに一つ聞きたい事がある。ここからはそなたの庭がよく見える。だから私は、そなたの庭造りを永く見てきた。その庭はそなたの願いなのか?」
極星は「いや違う」と言う。
「そうだ。それは願いではない。そなたが夢見た庭だ。叶わないはずの世界をそなたは如何して手にいれた?全てがお前の力なのか?そなたの言う知恵という物か?」
極星は答えなかった。燻銀の月は静かに、怒りを露わにした。
「私は知っている。八百万は気づきもしなかったのだろう。だが、私は知っている。そなたは、あの鋼の太陽の力を使ったのだ。光の粒となって降り注ぐ、太陽の魂を使って夢の世界を創造したのだ。そしてそれが己の世界だと言い、神々を降臨させたのだ。上位の力を使い、己の限界を超えた世界を望んだ。己の地に降臨することを望んだ。神では無くなることを望んだ。そして今、鋼の太陽のみならず、何を救えと私に望む。お前は悉く貪欲な神なのだな」
最後に、怒る燻銀の月は極星が思い違いをしていることを告げた。
「お前は八百万が神で無く成っていくと言ったが、そうではない。己の社を去ったその時、既に神ではないのだ」