第2章 鋼の太陽
太陽の神とは、神々の中核をなす上位の存在である。その世界は偉大だ。
そして鋼の太陽もまた、太陽である。
だがそれは、鋼と燃え盛る太陽。願いが叶わなかった世界。目的を失った神である。
その存在は太陽としても、神としても、歪であった。
古い神々の忠告を聞き入れず、神としての役目を果たすことができなくなった鋼の太陽は途方に暮れた。自身の在り方を正しく理解できなかった鋼の太陽は、取り囲む八百万の神々に意見を求めた。
「私の星は何なのだ。私の社は太陽なのか」
すると、一頭の神が答えた。
「断じて違う。太陽とは、彼方で輝く神などを太陽と言うのだ」
神は遥か彼方で煌々と輝く一頭の神を示した。その神は紛れも無く太陽だった。鋼の太陽はその輝きに圧倒された。
「彼の神は、己の星に何を願ったのだろうか」
その時、鋼の太陽は気付いた。多くの星々を見はしたが、その神々の願いを知りはしなかったのだと。
太陽を示した神は言った。
「お前の星の姿は確かに太陽に見える。強大な力を持ち、燃え盛る様は太陽と大差ない。だが、その星は鋼で出来ている。それも燃えない鋼だ。その様な太陽はない。故に、お前の社は、太陽とは似て非なるものなのだ」
鋼で出来ているから太陽ではない。だが、その在り方は太陽と大差がない。
では何なのかと鋼の太陽は聞いた。神は答えた。
「鋼の太陽だ」
やはり太陽ではないか。と、思ったがどうも違うらしい。
困惑する鋼の太陽に、他の神が聞いてきた。
「お前は、己の願いを知っているのか」
鋼の太陽は知っていると答えた。
「私の願いは、如何なる神も知り得ぬ神智。深淵の果てに求めたのだ」
その答えに神は問う。
「それが何なのか。お前は知っているのか」
さらに神は続けた。
「私は、この深淵の果てを知らない。限りがあるものなのかさえ、私にはわからない。そこで知り得ると言う神智など更なるものだ。これがお前の願いだ。そして、お前はそれを知っていると答えた。ならば教えてくれ、お前は己の願いの何を知っているのだ」
鋼の太陽は答えることが出来なかった。自身の願いさえ知りはしなかったのだ。
そして、神々は諭す。
「目的地を知りもしないで到達することはできない。これは我々、神々の願いを叶える力に備わる絶対である。鋼の太陽よ、お前は願いを知りもせずして、如何して願いを果たすことができようか。結局お前は何一つ願いなどしなかったのだ。ただ己の内に、星の外に、その狭間で夢を見ていたのだ。その成れの果てが、不燃の鋼と燃え盛るお前の星だ。ただ目的もなく輝き、光の鋼の粒を放つ。強大な力で創り上げた夢の社だ。願いの社に君臨する力こそが神。故に、何も願わず。ただ夢にあるお前は神でもなければ、太陽ですらないのだ」