第24章 友
どれくらい眠っていただろうか。白髪の少女は目を醒ました。むくりと体を起こした少女は辺りを見回す。そこは少女が住んでいた町の近くにある草原だった。
―――どうしてここに。
訳が分からなかったが、ただ目覚めた少女の中でハッキリとは言えないが、何かが変わった。
極星と賭けをしたところまではハッキリと覚えていたが、その後がわからない。どうやってここへ戻って来たのかも、黄金の神様はあれからどうなったのかも、全く思い出せなかった。
―――全て悪い夢だったのだろうか。
そう思ったが、少女は自分が何かを握っていることに気づいた。右手を見ると、その手にはあの『神秘の珠玉』が握られていた。
「これは・・・私のお星さま」
と呟いて、両手で自分の世界を包み込んだ。
「あ!」
神秘の珠玉に添えた左手を見て少女は驚いた。小さな左手に『黄金の手袋』をしている。
―――夢じゃなかったんだ。
確信した少女は、そっと神秘の珠玉を胸に抱きしめた。
そして、年月は流れた。ここは神之園から人里離れた雪の舞降りる地。
そこには名匠と称えられる魔女の工房『創造絶倫堂』がある。
工房からは今日も賑やかな物づくりの機械音が鳴っていた。工房でただ一人、物創りに没頭する白い髪の女は左手に『黄金の手袋』をしている。作業が一段落した女は、道具を置いて一息ついた。
寒い工房にはあったかいストーブがあり、その上でポットが沸いている。女は熱いコーヒーを淹れると、ひとりがけのソファーに腰を下ろした。すりガラスの窓の向こうで雪が優しく舞っている。落ち着く眺めに、コーヒーをすする。女は幸せだった。だが、そんな幸せな時間に、聞きなれない音が紛れ込んだ。何事かと女は立ち上がった。館の外からカサカサという音が忙しなく聞こえてくる。最初は不気味に思ったが、次第にその音を懐かしく感じはじめた。
―――まさか!
そう思ってコーヒーを置き、女は部屋の周りを見回した。館にいくつかある窓の外を、何かが横切っている。すりガラスでハッキリ見えないが、目にも止まらぬ何かは大きくて金色をしていた。その動きはゆっくりとなり、何かをしゃべりだした。
「むむむ・・・!どこも塞がっておるではないか。全く・・・人の住む場所とはどうしてこう閉ざされておるのだ。トビラはどれだ・・・これか・・・いやこれはマドか・・・。あ!これは話に聞いた呼鈴というモノではないか!?間違いないこれが入り口だ」
呼鈴を鳴らすまでもない。小さな館に言ってることが筒抜けで、すでに白い髪の女は館の扉の前に立っていた。扉のすりガラスの向こうで大きな黄金の何かがソワソワしている。その何かが、女には何かがわかっていたのだが、ちょっと可笑し気に女は何かの動きを待つことにした。
〝チリーン、チリンチリーン〟
呼鈴が鳴って、沈黙が続いた。呼鈴を鳴らした黄金の何かは「あれ?」っと思い、更に呼鈴を鳴らす。
「あ、あら・・・。ま、間違えたか・・・。これで良いのだと思ったのだがな・・・」
扉の向こうで慌てふためくそれに、女は可笑しくなって遂に扉を開けた。
「おお!やはりここが入り口であったか!難儀したぞ」
「久しぶりね。黄金の神様」
十数年ぶりの再会だった。大きく成長した少女の前に、玉座に乗った黄金の神が、あの日と変わらず微笑んでいる。
「嗚呼、あの日以来、そなたにまた会う日を待ち望んでいた。だが如何しても待ちきれなくてな。今度は一人で、そなたを探しに、散歩に出たのだ」
「私もずっとあなたに会いたかった。とても、とてもうれしいわ」
「余も、また会えてうれしいぞ。とてもな」
ずっと会いたかった黄金の神に、白い髪の女はあの日の笑顔を贈った。
「さあ、お茶会にしましょう」
「―――お茶会?食事か?あいにく腹は常に満たされておるが・・・」
「違う違う!食事じゃなくて、お茶と御菓子を食べながらお話をするの」
「おお。お話しかそれは良いな!だが何故食事でもないお話をするのに、お茶と御菓子を食べるのだ?」
「いい?黄金の神様。あなたは私のお友達なの。お茶会っていうのはね。そのお友達と楽しくお茶をしながら、お話をする遊びなの」
「おお!そうなのか。それは素晴らしいな。遊びとは、面白そうだ。如何したら良い?教えてくれ」
と喜ぶ黄金の神は、輝く黄金の声で最後に大切な言葉を贈った。
「友よ」
白い髪の友は、それは丁寧なお辞儀をして黄金の友を招き入れる。
「ようこそ。創造絶倫堂へ」




