第22章 運命を賭けろ
「さあ言ってみて。つまらなくない神様の願い事を!」
その問いに極星の神は答えることが出来ない。
「どうしたの!さあ、言ってみて!」
「いかがしたのだ極星よ。まさか答えることが出来ぬのか?」
答えないのか。答えることが出来ないのか。極星はしばらく沈黙した。そしてどういう訳か、仕方ないと言わんばかりにおれだした。
「わかった。良いか、よく聞け。いくら己がそれを望んだとしても、それを叶える力が無ければ、それは願いではないのだ」
「だから私は、神様にお願いをしに来たの」
「わかっておる。黙って最後まで聞け。今しがた申したように、神が叶えるのは己の願いだ。他ではない―――。良いか、叶わない願いを望むということは、それは夢を見るという事だ。お前が我に望んでいるのは、願いではなく、お前の夢物語を叶えろという事なのだ。わかるか?」
「うーん・・・」
「わからんか。まあいい・・・そんな事も知りもせずに、ここまでやってきた小娘に・・・馬鹿な話だ。だから率直に言おう。我が、お前の夢を叶えてやる!」
急な希望に、少女の表情は明るくなるが、黄金の神はそうではなかった。
「待て。夢を叶えるだと?叶わぬモノを、叶えると、そう言うのか?可笑しな。極星よ教えてくれ。どうして、どの様にしてそれが出来ると言うのだ?」
「その者の使命と引き換えに夢を叶える」
「なんだと?」
これで望み通りになると思っていた少女は、黄金の神がどうして難色を示しているのかわからなかった。
「それでは命と引き換えではないか」
「そうだ。これを見よ」
極星が大きく呼吸をすると、体が熱を帯びて光だし、火の粉が舞い上がった。体の内が赤熱したことで、極星の秘密が露わになる。今まで植物とわずかに残った肉体に隠れて気づかなかったが、その体の奥深くは、呼吸に合わせて発熱するドス黒くひび割れた鋼で出来ていた。極星は自身の腹に手を深々と突き込むと、何かを一気に引きずり出した。その手にはドス黒い鋼の球体が握られていた。
「それは、太陽の鋼・・・」
「ほう。黄金の者よ、これが何かわかるのか」
極星はその球体を娘の前に突き出す。
「娘よ。これは天から降り注ぐ鋼の太陽の恵み。その結晶だ。これに祈りを捧げれば、お前の夢は叶う」
「ならん。この者は人だぞ。神の身でない者がそれをすれば、ただ命を失ってしまう」
「そうだ。だから今回は娘と半分。我と半分。それで一つを叶えるのだ」
「そなたも一緒に夢を叶えるというのか?それは神のすることではないのではないか?」
「うるさい奴だ。気安く神などと口にしおって。ならば一つ聞こう!お前らはこの姿を見て何に見える!」
その問いに、二人は答えない。
「この様な神がいると思うか?この姿を見て神に見えるか?どう見ても怪物だ。昔はこんな姿では無かった。この様な不細工な肉体に縛られてなどもいなかった。我はな、このまま何かに成ってしまうであろう運命に、従うのがもううんざりなのだ。だからこんなクソったれな運命を賭けて、もう一度やり直したいのだ」
「何を言っているのかわかっているのか?それではこの世界から神がいなくなってしまうではないか。そなたが神でなく成れば、この世界はどうする?誰がこの世界を維持する?」
「世界の維持など必要ない。そんな放棄された星々が、この頭上で延々と輝いているではないか。また一つ増えたところで何だというのだ?違うか?」
「確かにそうではあるが―――!?」
「ならもういいだろう。では始めるぞ!」
極星の神は、少女に詰め寄った。少女の瞳は決意で漲っていた。
「良いか娘。これは賭けだ。お互いに夢を叶えるための賭けだ。だから互いに同じ物を、賭ける相手が必要なのだ。わかるな?」
「わかるよ」
「いいだろう。だが賭け事とは言っても、今回我らが行うのは勝敗を決しての奪い合いではない。等価交換だ。だからどちらかが得するような事があってはならない。わかるな?」
「わかるよ」
「いいだろう。ではこの『太陽の珠玉』に手を置け、決して離してはならん。良いか?手を置けば賭けが始まる。降りることは出来ん。だから今一度そなたの覚悟を聞きたい。力無きそなたは、己の限界を否定し、己の使命を否定し、己の命をも否定して、己の運命を賭けるか?」
聞かれるまでもなかった。少女の思いは決していた。だが、少女は極星の問いにすぐには答えなかった。
「どうした?怖気づいたか」
「いいえ。でもね、この賭けを始める前に、ちゃんとお礼をしておきたいの」
「礼・・・?」
少女は黄金の神へと振り返った。そして、今までで一番の笑顔を贈った。
「黄金の神様。 黄金の神殿、黄金のご馳走、たくさんのお話、素敵なお散歩、どれもどれもすごく楽しかった。あなたは私の大事なお友達よ!神様!私をここまで連れて来てくれてありがとう!」
「ソナタ・・・。余も同じ思―――」
黄金の神も何かを伝えようとしたが、凄まじい閃光がそれを遮った。少女が『太陽の珠玉』に触れたのだ。
「貴様!」
「いい?神様。私は夢を叶える。だからあなたには運命を賭けてもらう。降りることは許さない」
「ぬかすな!身の程知らずめ!貴様こそ触れたからには、賭けるのであろうな!」
「賭ける!私は、私の限界も、使命も、命をも否定して!私の運命を賭ける!」
「良かろう!ならば我が限界を、使命を、命を否定し!我が運命を賭けよう!」
珠玉が太陽の如く輝き、地響きがはじまる。
「賭けは成立だ!ならば娘よ!お前の願いを言うがいい!」
「私は!神様の様に成りたい!」




