第1章 若い神
その昔、一つの星があった。鋼の星だ。それはどの星よりも巨大で重く強い星だった。その神は凄まじく強大な魂から成っていた。そして、星の神は若かった。
若い神は、古い神々から多くを学んだ。古い神々は多くを知っていた。だが神としての全てを学ぶことはできなかった。それは古い神曰く。
「神の役目は己の願いを果たすこと。そして、願いとそれを叶えるすべは、己しか知り得ないことなのだ」
自身しか知りえない願いとは一体何か。鋼の星の神は、古い神々の星の輝きと、果てのない深淵の闇を眺めながら考えた。そして、長い年月をかけて答えを出した。
「私は己の願いを見つけた」
若い神の言葉に古い神々は尋ねた。
「それは何か」
若い神は答えた。
「古い神々でさえ知り得なかった神智を願う」
その言葉の意味がわからなかった古い神々は「どういうことだ」と更に尋ねた。
「私は古い神々から多くを学んだ。多くを知った。だが己の願う世界だけは古い神々の知り得ないものであった。故に、神智の至らない願いをこの世界に求める」
「それは何だ。どんな世界だ」という神々に、若い神は答えた。
「私は願いの他にも神々が知り得ぬものを見つけた。それはこの深淵の果てである。この星々のある深淵の世界というものは、果ての知りえぬものだ。そして、如何なる星にも無いものだ。それが、この世界にある私が、己の世界に願うものだ」
その願いを聞いた古い神々は驚愕し、怒った。そして若い神を止めようとした。
だが願いを始めた若い神を誰も止めることはできなかった。如何なる星よりも強大故に、神としての願う力も強かったのだ。
若い神は鋼の星に火を放った。未灯の地へ。まだ知らぬ世界へ。深淵の果てを照らすため。その力を使って強く燃え盛った。
願いで照らせば照らすほど、深淵が神々の星で輝いていく。若い神はどの神よりも広く、深く、多くを見た。
「この先に私が求める神智がある」
そう思えば思うほど、強く、大きく燃え挙がった。
限界まで沸き立ち。そして限界に到達した。
そこで暗闇を見た。
若い神のそれは手が届かない様な気分だった。
どんなに手を伸ばしても、暗闇で指が踠くばかりで、遂に何も攫めない。
そして星から動けない神の身では、それ以上先へ行くことも、知ることも叶わなかった。
この深淵は神智の至らぬものだと思い知った。
若い神の願いは叶わなかったのだ。
若い神は、自身の限界を知り、叶わぬ願いに絶望した。そしてようやく自身の星を見た。そこは燃え盛る世界。深淵を照らすことばかりに夢中になって、自身の星を全く見ていなかった若い神は『鋼の太陽』に成っていた。