第18章 庭の庭の奥深く
二人を乗せた玉座は、風を切るようにどこまでも疾走った。深い森の木々を物ともせず、草原を超え、雄大な水面を駆け抜ける。荒れた岩場に、聳える断崖さえ玉座は足を緩めない。しかし、玉座の動きは、まるで氷の上を滑っているかのように滑らかだった。二人は風と共に移り変わる景色の流れを大いに楽しんだ。そして、あっという間の長い散歩の果てに、遂に目的地へたどり着いた。
「ここが庭の庭だ。この奥深くに神がいる」
木漏れ日がさす暗い森の中で、入り口とも言えないようなアーチが二人を出迎えた。永く放棄された庭園が、森に飲み込まれたようなそんな場所で、とても歪であった。とても神がいるようには思えない。
「あなたのお家とは全く違うのね。町の幽霊屋敷みたい」
「かつてはこの様な有様ではなかった」
「あなたはお家の外に出られないと言っていたけど、来たことがあるの?」
「わからない。古い話だ。だがどこか懐かしく思うのだ」
入り口らしきアーチは、玉座が通れそうなほど大きかったが、枝や蔓で塞がっていて通れそうにない。
「どうするの?」
黄金の神は黙ったまま、アーチに向かって手をひらつかせた。すると、塞いでいた枝と蔓がひとりでに動き出し、美しい網目を作りながらアーチに絡まって行く。見事な入り口に様変わりをしたアーチをくぐって、玉座は庭園の中へ進んでいく。
「すごい」
「何もしてはいない。主の許しを得たのだ」
庭園がどこまでも荒れていた。あらゆる植物が好きほうだいに育ち、咲き乱れる花は海の様にうごめいている。その中を玉座が進むと、植物達は避けるように道を開けた。
「いろんな花があるよ。すごくきれい」
「触るでない。体に障る」
黄金の神は、どこからともなく『黄金の手袋』を創りだし、少女に渡した。
「ありがとう」
「良い。間違えて触てはいけない。それを付けておれ」
手袋は少女の手にぴったりとハマり、まるで素手の様な付け心地だった。
「不思議な手袋。付けているのを忘れてしまいそう」
「そなたは不思議なことを言うな。手袋とはそういう物ではないか?」
「え?」
「え?」
玉座はゆっくり庭を進んだ。しばらくすると、目の前に屋敷の様に大きな、折れた大樹が姿を現した。根元に洞窟の様な穴が口を開けて二人を見ている。
「ここが庭の庭の奥深く?」
「そうだ。この世界の神がいる場所だ。行くぞ」
玉座は大樹の中に進み始めた。暗い穴の先に光が見える。光に照らされる何かがある。最初はそれが何なのかわからなかったが、次第にそれの全貌が明らかになり、少女は言葉を失った。大樹に棲んでいたモノを見て、少女にはそれが神ではなく、怪物にしか見えなかったのだ。
「ようこそ―――」




