第16章 少女と黄金の神 《Ⅴ》
「神様に助けてもらったお礼よ」
そう言って少女は、黄金の神に名前を付けた。
「素敵でしょ?お外でのお名前よ。これで私が誰かわかるでしょ?」
「お外での名前。外の世界で『私と名乗る』ための名前。それは良いのか?間違ってはいないか」
「そんなことないわ!名前が無い方がおかしいもの。今日からあなたは、家の外に出たらそう名乗ればいい。そうすればみんなあなたが誰かわかるもの!」
「ダレか。今はまだ、それで良いのかわからない。だが、面白いぞ。とても面白い。わかった、そなたの礼、その名しかと受け取ろう」
黄金の神は、それで良かったのか、悪いのか、判断が付かなかったが、とてもとても満たされた気持ちだった。それはただ腹だけが満たされるだけの、何か満たされない日々を変えるきっかけになったのだ。
「じゃあお出かけをしましょ」
「何?」
「一緒にお外へお出かけするの」
「急な話だな。お出かけか。良かろう。だが、お出かけというが、どうやって?」
「どうって、おかしな人ね。歩いて行けばいいじゃない」
そう言って少女は、黄金の神の足を指さした。
「そ、それはわかるが。だが何処へ。何処へ向かおうというのだ?」
「どこって、どこでもいいじゃない。お散歩しましょ」
「どこでも!?そなた正気か?目的地も決めないで『どこか』へ向かおうというのか?おかしな話だ!それは間違っている!」
「あなたって本当に変わってるわね。あのお星さまがある、お空から来たのに、その辺をお散歩できないなんて」
「それはこの星が目的地であったから、来ることが出来たのだ。行き先を決めないで何処へ行こうなどと望んだわけではない」
「神様って思ってたより面倒なのね。何でも望みどおりにできるのかと思ってた」
「いやその通りだ。望みを達成するのが神だ。だが目的がはっきりしていなくては、その望みを果たすことができないのも神だ。目的もなく何かを達成することはできない。それが世界の外に出るというのであれば、なおのことだ。外へ出るのは良い。だが、何処へ向かおうと言うのだ?」
どこへ向かうのか?そう聞かれて、少女はふと思い出した。居場所を追われ、ここへたどり着いた自身は、これから一体どこへ行けばいいのだろうか?ただ今ここへいるだけの自身は、これからどうするかなど、決めていなかったのだ。少女はじっと黙ってしまった。もの言わなくなった少女の有様を見て、神は言う。
「そなたの望みはなんだ」
「え?」
「そなたは如何なりたいのかと聞いている。この外の世界から逃げて来たそなたは、何処で如何ありたいと願うのか。そなたの願いを聞きかせよ」
「私は―――」
私は何を望むのか?すぐに思い浮かんだのは家族の顔。自分の家。次に友達に、みんながいる町。日常。自分を追い出した世界―――。
「さあ。何を願うソナタ」
「私は―――。私は、神様の様になりたい!この世界で!自分の思うようにありたい!」
はっきりと意志を述べた少女を見て、黄金の神はゆっくりと頷いた。
「ならば。『庭の庭の奥深く』へ。そなたと共に行こう」




