第12章 少女と黄金の神 《Ⅰ》
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―――どれくらい歩いただろうか。
深い森の中で、白髪の少女は疲れ果てていた。衣服は痛み、失った靴の代わりに服の切れ端を足に巻いている。泥まみれの足に血が滲み、歪んだ表情は涙が枯れ、脂汗で溢れていた。後ろを見ると、大好きだった家族がいる家は遥遠く、もう帰り道も定かではない。だが少女にとって、もはや家は帰る場所ではなく、それは些細な問題だった。
―――全て失った。
星々の民は神属としての素質を見定めるため、ある年齢おきに検めを行う。そして少女の素質は、大人達が望むモノを実現出来ぬほど乏しかった。それが今こうして死に損なっている理由だった。
―――どうして。
訳が分からなかった。分らぬまま乏しい者達と一緒に少女が連れて行かれたのは園の境に聳える高い壁であった。見上げても果ての見えない壁が少女には恐ろしかった。その壁の向こうに追いやられるのが嫌だった。だから少女は必死で逃げ出したのだ、大人達が恐れる悪魔の神殿を目指して。
―――ずっと大人達に言い聞かされてきた古い神の話。
それは絶対に探してはいけない場所。『何処にも無い深い森の底』にある『黄金神殿』。そこには人に成らず、人を贄とし、悪魔と呼ばれた『黄金の神』が棲んでいるのだという。
―――きっとこの森にある。
ただ追われることから逃れるためであったが、正気を失った少女はそんな子供だましの話にある悪魔の神殿を目指すかのように、デタラメに走り続けた。そしていつの間にか、この深い森に少女はいた。
―――悪魔と呼ばれた神様の黄金卿。
狂って走り続けた時は、神殿が安息の場所になると、きっと助かると漠然と思っていた。だが森の中で、今こうして力尽きそうになった少女は、正気を取り戻した。
―――嗚呼、私は。私は結局どうにもならないのだ。
追放する大人と、あるとも知れぬ人喰い神殿。どちらにせずとも、もう助からなくなったと少女は遂に絶望した。
―――もういい。疲れた。しばらく眠ろう。
せめて夢の中では幸せでありたいと白髪の少女は気を失うのであった。
―――。
どれほど眠ったであろうか。夢を見た心地もしない。少女は身の毛もよだつ死臭に目が覚めた。そこには今まで見たどれよりも黒い『臓物の沼』が広がっていた。少女がいる緑の森に現れた白い霧と黒い沼。そして、その中で輝いていたのは、あの伝説の黄金神殿であった。
―――たどり着いたんだ。




