第9章 人
時は流れ、大半の神々は姿もろとも曖昧となった。無数在る一頭の神という強烈無比な個が崩壊し、極星の魂に混濁する。しかし、ただ形だけではあったが、存在を神に似た姿として留めることは出来た。人という形である。神では無く成る事を望んだ世界で、それが極星の力と八百万の意志で出来る精一杯であった。
神に近い人の姿になった八百万は「我々は神であった」と、ただ漠然と自身に神性を抱いた。それがその者たちの誇りであり、手元に残ったかつての栄華である。
神であった人々は、人として生きるため庭に世界を作り始める。その姿に命を繋ぎとめるため、庭の命を狩り、種を残すために子を作った。しかしそれは人の営みの様でそうではなかった。神々に残った僅かな神性が、かつての存在に戻ろうと、知らぬ内に作用しているのである。かつて備わっていたであろう物を狩り、腹に流し込む。互いにかつての面影を感じ、交わり生み出す。
延々と食べる。
多くと交わる。
ただ混ざるばかりで、元へ戻らない。
深淵には魂の流れがある。それは時の流れである。強大な魂の流れの内で、元へ戻るという時の逆流は起きはしない。遂に、八百万は神から遠い人へと成った。
極星は、そんな神々の有様を永く見守っていた。しかし、見るに忍びなくなり、極星は『庭の庭の奥深く』へと姿を消した。
世代が進み、神々から自身が神であるという意識が薄れていく。次第にそれは言い伝えに聞く神話に変わりつつあった。古い人々は神であったという事実が夢物語と忘れ去られない様に、記録という形に残す。
そして歴史が始まったのだ。




