第九話 報告連絡相談は、親子でも大事なこと
2016/06/17 誤字修正
貴族たちの粛清は、あっさりと済んだ。
だって私は現場にいなかったのだ。
たとえ犯行に及んだ人たちを集めてから色々と処罰を言い渡すのに数時間かかっていたとしても、後から「終わったよ」と聞くことしかできないわけで。
伝聞だとわりとあっさりしたものだった。
哲人も、今回は部屋で待機していた。
『勇者は、政治には関わらないよ』というアピールらしい。
実際には随分と内側に食い込んでるのに、政治ってめんどくさいのね。
勇人は、久々に両親と遊び倒してすごくご機嫌だった。
ハイハイはまだ遠い。
そして、粛清のあった次の日、3人でお出かけすることにした。
冒険者組合に依頼した件の確認と、魔法の慣らし運転と称して魔獣退治の依頼を受けに。
ベルータさんは、冒険者組合まで案内してくれた。
依頼は、護衛がいたんじゃ訓練にならないし、勇人は抱っこひもから下ろさないから、と帰ってもらった。
まぁ、護衛っていうか見張りなんだろうけど。
確認したいことがあるから仕方ない。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。魔法も大分使えるようになってきましたから、そこらの魔獣は一捻りです」
と、いい人を装って見当違いの方向で言いくるめた。
哲人の警護魔法が完成したのも大きいかな。
私がプログラミングを参考に、条件分岐できることを証明したから、細かく設定したのだ。
詳しくはめんどくさいから任せたけど、何かあっても勇人はまず大丈夫。
自分の意思でなく連れ去られた場合も、私か哲人どっちかの合図ですぐ手元にやってくる。
転移魔法の応用だ。
もちろん、物理的にも魔法的にも傷付けることはほぼできない。
レンズ鏡のように、すべて3倍になって実行主に返る。
細かく分岐するわ何でも跳ね返すわと、そりゃあもう大規模な魔法になったから、私が魔力を分けながらかけた。
魔力を分けるやり方は、ノトさんに教わった。
相性があるらしいけれど、私と哲人に関しては大丈夫だった。
故郷が同じだからか、夫婦だからか分からないけれど、ぶっつけ本番ながら上手くいって良かった。
そのへんも、3倍返しのあたりは伏せつつ王子を通じて国王に伝えて、護衛は要らないよ、と押しきった。
そして冒険者組合に来たわけだが、前よりさらに遠巻きにされている気がする。
なぜだ。
「貴族の粛清のこと、もう噂になってるんじゃないか?」
哲人が周りを見渡しながら言った。
そんなに早く出回るかな?
勇人は抱っこひもの中でキョロキョロしている。
可愛いなぁ。
入り口で立ち止まっていても仕方ないので、受付に向かった。
「すみません、前に依頼した情報提供の件なのですが」
「はい、ヤエ様のご依頼ですね。いくつか応募がありましたので、こちらで絞りました。タツトという冒険者がいます。パーティーでダンジョンに行ったことがあって、一度エルフの村にも踏み込んだことがあるとか」
「それじゃあ、お願いしたいです。ほかには?」
「ほかは、タツトさんたちと同じような内容でしたので」
「なるほど」
受付のおばさまはにこやかに答えてくれた。
タツトさんたちは、今日は夕方に戻る予定らしい。
それなら、私たちも依頼を受けておこう。
魔法の練習と、ちょっとした確認のため。
目についたブラックベアの討伐依頼を受けることにした。
人の来ない森の奥らしいからちょうどいい。
ブラックベア3頭は早々に倒した。
捕獲して檻の中に詰め込まれている。
さて、では本日の目的の1つ。
この間から機会がなくて哲人には見てもらってない、キャンピングカーの確認だ。
人払いの魔法を使って、開けた場所でアイテムボックスから取り出す。
「いつも思うんだけど、これもうボックスって規模じゃないよね」
「確かに……アイテムルームの域かも」
目の前には、落ち着いたグリーンの軽四が1台。
後ろは扉を大きく上に開くタイプで、車高もあまり高くない。
横はでっかいスライドドアで、後ろのキャンプスペースにも出入りできる。
その、キャンプスペースがおかしいことになっている。
外から見ると真っ暗で、窓からもドアからも中を覗けない。
中に入ると明るく、窓の外も見えるマジックミラー仕様。
「ひっろくない?」
「いいでしょう、ゆっくり休めそうで」
「高さもそうだけど、これはもはや家だね……」
中は、幅が狭めの細長い8畳ワンルームのような感じ。
間取りもそんなだ。
キッチンはギチギチだけど3口コンロ、調理スペースもあるし、料理はしやすそう。
シンクも広めで使いやすい。
やっぱり空間をいじった、見た目は小さな冷蔵庫も置いてある。
ダイニングテーブルと椅子が並び、仕切りがあってベッドスペース。
キッチンの向かい側にはトイレとお風呂。
もちろんお風呂はセパレートで、バスタブもたっぷり広めにした。
お客さんは呼べないが、そもそも生活するためだけの空間だから、これでいい。
勇人が小さいから、充分だ。
運転席は、3人並べるようになっていて、真ん中に勇人のベビーシートだ。
席の隙間から後ろに行くと、すぐにキッチンの前に出るくらいだから、運転する場所は少し狭いかもしれない。
まぁ、勇人が飽きたり疲れたりしたら、後ろのスペースで休ませればいいから構わないだろう。
運転は、もちろん交代で。
生活スペースだけじゃなく、車を動かす動力も魔法。
だから、私が運転する時間の方が長いかもしれないけれど、哲人にも運転できるように魔力消費量を抑えた省エネ設計だ。
「邪栄ちゃんの好きそうな見た目で、俺の好みの内装だね。ボディは若干保護色?」
「そうよ。色はね、くすんだ緑だから、森でも草原でも岩場でも砂漠でも、わりと目立たないかなーと思って」
「……こっちにはないものだから、どう頑張っても目立つと思うけど」
「だーたーた!」
ダイニングの椅子に座ると、哲人が感想を言い、勇人は嬉しそうな声をあげた。
ダイニングテーブルは、地球にあるはずの家の机を再現したから、多分見覚えがあるんだと思う。
中を確認して、起動も試してもらった。
動かすのは私も初めてだ。
エンジン音はしない。
だって魔法で動いているから。
だいだいさ、エンジンそのものの機構なんて覚えているわけがないもの。
向こうにあるものを出すとしても、車種とか分からない。
勝手に持ってきたら泥棒だしね。
だから、私のイメージした車をこっちで作り出すことにした。
そしたらこうなった。
運転する感覚は、普通のオートマ車と同じ。
小回りも効くし多少の岩場も平気。
タイヤで地面を蹴っているけれど、車体は魔法で支えている。
さすがに、崖とか壁は登るのが大変。
哲人では無理だ。
私なら、魔法で浮かして上昇できるだろう。
魔力の限界があるから、どこまで上がれるかは分からないけれど。
水の上も、私ならいけるはず。
……魔王の島へは、私が頑張るしかないかな?
浮力を利用するから、魔力の消費量は多分少ない。
でも、さすがに試してみてからだ。
海へ出たら試して、無理そうなら船を用意しよう。
「ねぇ邪栄ちゃん、父さんたち、心配してるだろうね」
一通り試して、昼食をとった。
そしてキャンピングカーをアイテムボックスにしまったとき、ふと哲人が言った。
これまでは、考えないようにしていたんだろう。
忙しかったし、守るのに必死だったからね。
私は、たまに心の中であやまっていた。
多分、どっちの両親も心配しているだろうから。
「そうだね、きっと心配してる。捜索願くらいは出してるかも」
「だよね……」
みんな勇人を可愛がってくれていたから、探してくれているに違いない。
「魔法で帰れたらいいんだけどね。せめて、スマホで連絡だけでもできれば安心させられるんだけど……」
手元にスマホはないけれど、あったとしても多分圏外だろう。
スマホが使えればいいのに。
「スマホかぁ……ちょっと待って、調べてみるよ」
哲人が何か閃いたらしい。
何を調べているのやら。
勇人はご飯を食べてお昼寝中だ。
抱っこひもが重くなってきているから、また成長してるんだろうな。
あ、今度実現魔法でベビースケール出そう。
待っていると、哲人がくたびれたように座り込んだ。
少し多目に魔法を消費したらしい。
「いけるよ」
「何が?」
私は魔力を哲人に分けながら聞いた。
「『こっちで快適に過ごす』ためなら、実現魔法が使えるから、調べたんだ。そしたらいけるって。スマホ」
「そりゃ、スマホだけなら出せるだろうけど」
「もちろん、魔法でWi-Fiつなぐんだよ。地球と繋いで検索するのも、『快適に生活するため』になるから」
「マジで?!」
「……うぁー」
しまった、声が大きすぎた。
勇人が起きかけてしまっている。
「大丈夫よー、寝てていいのよー、はいはい」
揺すってポンポン背中を叩いたら寝てくれた。
良かった、昼寝から起きちゃったら夜寝るのが早くなりすぎる。
そしたら夜中に起きてしまって、私が大変だ。
哲人によると、繋がるスマホなら出せるらしい。
Wi-Fiのあれこれはよく分からないが、そこはイメージだそうだ。
利用料金とかは気にしてはいけない。
だって自分の魔力を消費するんだから。
「<実現魔法、邪栄の使っていたスマホ、地球との通信可能状態、充電と基地局は魔力でカバーする、劣化防止及び防水機能も追加、ロック解除は私か哲人の魔力でのみ可能>」
こんなもんだろう。
気になることがあれば、また機能追加すればいい。
哲人のスマホは出さない。
何せ、よく無くすのだ。
なんでそこら辺にポイと置いておくのかしらね?
こっちにはない機械だから、誰にも知られたくはない。
すぐ、手元に見覚えのあるスマホが現れた。
魔力を流し込んで起動してみると、着信が大量、メールや会話アプリも、メッセージがすごいことになっている。
母が見たのだろうか、友人からのメッセージのいくつかは既読になっていた。
両親たちに連絡しよう。
友人たちは、混乱させるから当面はなにもしない。
まずは、哲人の両親、お義母さんの方に通話アプリで電話だ。
念のため、人払いの魔法をもう一度かけてから。
トゥルルルル……
懐かしい音。
しばらくして、コール音が止んだ。
[あの、……もしもし?]
「あ、お義母さんですか?私、邪栄です。哲人に代わりますね」
すぐにスマホを哲人に渡した。
自分の親には自分で知らせたいよね?
「母さん?俺おれ。詐欺じゃなくて。え?ちょっと、本物だって。うん、そう、哲人だってば。勇人も邪栄ちゃんも無事。実はさ、異世界に呼び出されて。……そうだよ、異世界。いやいや、ほんとだってば。外国に拉致されたとかじゃないよ。似たようなもんだけど、帰れなくてさ。うん、とにかく無事。帰る方法を探してるとこ。混乱してるだろうけど、とにかく生きてることと、日本にいないってことだけ理解して。うん。……」
しばらく長々と話していたが、あんな唐突な話でお義母さんは理解してくれたらしい。
すごいな。
お義父さんは、仕事でいなかったようだが、夜にまた連絡することになった。
連絡したら、絶対ビックリして仕事どころじゃなくなっちゃう。
仕事の邪魔しちゃ悪いものね。
次は、私の母に連絡か。
トゥル……
[あら、出ちゃったわ。どなた?]
母はすぐに出た。
今の言葉から察するに、何かしていてうっかり通話ボタンを押したのだろう。
「お母さん、邪栄よ」
[へ?邪栄?何してるのあなた?!今どこ、どうして連絡してこなかったの?いえいえ、そんな、おかしいわ。携帯は引き出しにしまっておいたはず……な、ない?!やだどこいったの?今朝はあったのに邪栄何したの?!]
母はわりと立て板に水タイプだ。
私の仕業だと決めつけているがその通り。
「こめん、お母さんたちに連絡取りたかったから、スマホだけこっちに呼び出した」
[こっち?どこにいるの?勇人ちゃんは、哲人くんは?!]
「勇人も哲人も、一緒にいるし、元気よ。ここは、地球とは別の世界らしいわ。魔法が使えるから」
[なに寝ぼけてるの、薬でも打たれてるの?!]
「本当だよ。後で写真送るから確認して。それと、私たちの扱いってどうなってるの?捜索願出しちゃってる?」
[訳が分からないわ……とにかく無事なのね?あなたたちは、一月もいなくなってるんたもの、当然行方不明ってことになってるわ。荷物なんかも全部置きっぱなしだったし]
「やっぱりそうよね」
[帰ってこれそう?]
「すぐには難しいかも。今方法を探してるところだから」
[私もそっちに行けないかしら]
「え?」
[だって信じられないもの。そっちに行けば、信じざるをえないわ]
「さぁ、それは、どうかしら……」
[スマホを引っ張り込めるんなら、お母さんくらい簡単そうじゃない。試してみてよ]
そういえば、私の母は変なところで現実主義の人だった。
「えっと、魔法も万能じゃないからすぐには無理だわ」
[えぇー?不便ねぇ。できそうならまた教えてちょうだい。私も魔法使ってみたいわー]
そして、ファンタジーが大好きだ。
信じたかどうかは分からないが、とりあえず3人とも無事なこと、帰れないことは伝えた。
あとはなんだっけ?
「通話はあんまりできないから、メールか何かのテキストメッセージで連絡をちょうだい。スマホとかこっちにはないから、見つかったらめんどくさいと思うの」
[あらそうなの?仕方ないわねぇ……後で、勇人ちゃんと哲人くんの写真を送ってよ?お母さんは、いつでも通話に出られるようにしておくから、気にせずかけていらっしゃい]
「分かった。とりあえず、捜索願はそのままにしておいて。帰れたら取り下げればいいんだし」
[はいはい。私にもだけど、竹峯さんの方にも毎日連絡しなさいよ?心配かけてるんだから]
「うん、先に連絡したわ。あ、それから、ほかの人には私たちのこと黙っていてね。言っても信じてもらえそうにない内容だけどさ」
[ええ、そうするわ。よく分からないところだろうから、しっかり勇人ちゃんを守るのよ]
「もちろんそのつもり。任せといて」
「だっだぅー」
勇人が寝言を言った。
この子、わりと寝言を言うのよね。
誰に似たのかしら。
[あら、元気そうな声ね。少しは安心したわ。とにかく、毎日連絡よ?お母さん、寿命が50年は縮まったわ]
「何歳まで生きるつもりなの……」
[あなただって、勇人ちゃんが行方不明になったらそう感じるわよ]
「……そうかも」
まだまだ話したいことはあるけれど、そろそろ帰らないといけない。
母に連絡することをもう一度約束してから通話を切った。
父には、母から話しておくらしい。
私の父は、母の言うことなら大体信じてくれるだろうから安心だ。
そうよね、親だものね。
子どもを心配して当たり前か。
とにかく、連絡できたから良しとしよう。
今日はこのまま冒険者組合に行って、タツトさんから話を聞かないと。
とりあえず、自撮りで3人の写真を撮って、両親たちに送っておいた。
返信が帰ってきてるけど、ここからはアイテムボックスに入れてしまう。
念のため、人払いできる部屋でだけ出すことにしたのだ。
夜にまた返事しよう。
「じゃあ、ダンジョンよりも森を抜ける方が難しいくらいなんですね」
「はい、魔獣は決まった部屋には出ないので、きっちり休憩できますし、下に降りるほど強くなるので無理をしなければある程度の攻略は簡単です」
「問題は、森の魔獣とエルフの村ですか」
「ええ。しかし、魔獣の方は、勇者様たちならば問題ないでしょう。あまりに大きいものならば、転移などで逃げてしまう手もあります。もしかすると、倒してしまわれるかもしれませんが」
「まぁ、臨機応変に行動すれば良さそうですね」
「エルフの方は、私も詳しくは分からなくて……独自のルールがあるらしいのです」
タツトさんは、困ったように言った。
話を聞けば、どういうわけか、パーティーから一人はぐれて歩いていたら、エルフの村に行き着いたらしい。
そして、声を出さないことを条件に、一晩滞在を許されたそうだ。
家の中で、小声なら構わないようだったとか。
エルフのコミュニケーションはどうなっているんだろう。
毎回家で綿密に打ち合わせしてから出かけるのかしら。
そして、帰るときには後ろを振り向かないよう強く言われ、仲間と再会するまで振り向けなかった、とも語った。
何らかの魔法を使ったんだろう。
誰かに特定の行動をさせない魔法とか、なかなか高度だ。
噂に違わず、長いトンガリ耳に、美しい容姿の者ばかりだったようだ。
いいなぁ。
私も会ってみたい。
でも、友好的じゃなかったら会っても楽しくないかな?
話を聞いた限りでは、私がエルフに会おうと思えば会える気がした。
私が無理やり魔法で押せば、きっとなんとかなるだろう。
そこまでして会うつもりはないけど。
情報をしっかり聞き、謝礼を支払った。
「ありがとうございました。助かります」
「とんでもありません!勇者様のため、さらにはこの世界のために役立つならいくらでも!」
「そ、そうですか」
「ええ!それから、冒険者たちが絡んできたらうるさいでしょう。私が邪魔をしないように伝えておきましたから」
お前が犯人か。
どうやら、タツトさんは勇者様に心酔しているらしい。
そして暑苦しい。
ちなみに、私は哲人の斜め後ろで座って聞いていただけだ。
めんどくさかったから割と誰とでも話せる哲人に任せたんだけど、タツトさん的にもそれで正解だったようだ。
さて、勇人も飽きてきているし、そろそろ帰りたい。
私は哲人に目配せし、タツトさんににっこり笑顔を向けた。
「では、そろそろ……」
哲人が締めにかかると、タツトさんは笑顔でさえぎった。
「そうだ、良かったから、このあと私たちのパーティーと一緒に夕食でもいかがですか?すぐそこの食堂なんですが」
「へぇ、いいですね」
哲人は乗り気だ。
こいつめ……
でもまぁ、たまには息抜きも必要かな。
しかし私は帰らせてもらうよ。
「私は今は飲めませんし、この子も夕食を取ったらすぐ寝る時間なので、申し訳ないですけど帰りますね」
先に宣言しておこう。
私は酒が好きだ。
そんなに強くないけど、あの空間が好きだ。
でもそれよりも、勇人と一緒にいる方が好きだし大切だ。
哲人は、含んだものに気づかずに笑顔だ。
「そっか。そうだね。じゃあ俺も帰ろうかな」
違った。
私に任せるつもりだったらしい。
うん、でもいいよ、飲みに行ってくれても。
そして追加で情報を仕入れてくれたらなおよし。
「いいわよ?哲人は飲みに行っても。私は、ブラックベア3頭捕まえて、さすがにくたびれたし」
主に黙らせるのに魔法を使ってね。
檻の中でガウガウ煩かったのよ。
人払いしたいのに邪魔でしかなかったわ。
何度もお仕置きして黙らせたら、私が見ただけで黙るようになってくれた。
見事な躾ね。
「うーん、それなら行ってこようかな。こっちの居酒屋は初めてだしね」
うんうん、ついでに食堂のお会計システムとかも理解してきてちょうだい。
「せっかく誘ってくださるんだし、ね。私は、めんどくさいからこのまま部屋に転移するわ」
「分かった。そんなに遅くはならないから」
「はいはい」
そんなやり取りを見て、タツトさんが感心したように言った。
「奥様は、できた方ですね。普通は一人だけ飲みにいくなんて!と怒る女性が多いですよ」
そうかな?
家にいない方が気楽だわーっていう人もいると思うけど。
「たまには、息抜きも必要ですから」
「いやぁ、さすが勇者様の奥様だ」
手綱を離すわけじゃないんだけどね。
そのへんを分かっている哲人は、曖昧に笑ってごまかした。
さて、今日はさっさと帰って、ご飯とお風呂を済ませたら寝よう。
あ、その前に、両親たちに連絡しないと。
今日一日何をしたのかと、哲人が飲みにいくことくらいでいいかな。
……あ。
勇人が勇者で、哲人が賢者で、私が魔王様だっていつ言おう。




