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第三話 親はときに子どもに見せないことがある

ゴブリンたちを魔王の国へごっそり転移させてから十数日後。

南の森に入った邪栄やえたちは、すでにゴブリン集団2つを同じ場所へ送っていた。

ゴブ村長がてんやわんやながら頑張っているらしい。

オーグやほかの人型の魔人にはまだ会っていない。

どうやら、ゴブリンたちは南の森付近へと追いやられていて、東の森には入れない状態らしい。

元々そうだったが、知恵がついたため余計に種族の壁が明確になったんだとか。


ゴブリンたちに聞いたところによると、種族によってはっきりした順位がある。

人と全く同じ見た目の魔人>>角や牙があるなど少しだけ違う魔人>>ハーピー(腕が羽、足が鳥の足)やオーグ(頭が豚、全体的に大きめ)のように体の一部が違う魔人>>(超えられない壁)>>大きさや肌の色など全体的に人と違う魔人ゴブリンなど

ということになっているらしい。

つまり、本当にゴブリンは最下層の扱いだ。

確かにあれだけ盲目的に魔王様万歳なのを見ていると、誘導してくれる誰かがいた方がいいのかもしれない。

単純で素直なうえ、そこまで器用でもないから利用しにくいときたら、知恵のある魔人は虐げたくなるのだろう。

人間にもよくある思考だ。



なぜ、そんなことを思い出して遠い目をしているのか?

それは、目の前にある巨大なワームの死体のせいである。

地竜とも呼ばれるが、見た目はでっかいミミズ。

見なかったことにしたい。

「邪栄ちゃん、仕方ないよ。倒しちゃったんだからさ」

「じゃあ、てつくんが持って行ってよ」

「え、めんどくさい……」

「んぶーあ、ぶあばー!」

抱っこひもの中の勇人ゆうとは平常運転だ。


倒した方法は割とシンプル。

私が魔法でがちっと拘束して、哲人が長剣でばっさり首を落とした。

直径1メートルはありそうな首だったが、一刀両断だった。

さすが、レベルアップしただけはある。

物理的な云々は考えたら負けだ。


勇人は、抱っこひもだったから、首ちょんぱを見ないように抱きしめていたけれど、ぎゅっとされて楽しかったらしい。

分からないとはいえ、血の匂いのする中でキャッキャと無邪気な声が響くのはシュールだった。


ワームの持つ毒は、上手く調合すれば毒消しになる。

ワームの肉は、食べられないことはないが、どちらかというと発酵させて畑の肥料にする方が良さそう。

ワームの牙は、武器に加工できる。

ワームの皮は、防具に加工できる。

ワームの骨は、小さい武器や家具に加工できる。

哲人が調べたところ、捨てるところがないらしい。


「どうやって持って行こうかな……」

哲人は、ワームをいくつかのブロックに切り分けた。

それでも、全長20メートルくらいあるのだから、リヤカーなんかじゃ運べない。

この場所は、一番近い街からだと歩いて2日かかる場所。

放っておくと肉が腐って、ほかの魔獣が寄ってきてしまうだろうから、後から取りに来るわけにもいかない。

かといって、私のアイテムボックスで持って行くのもちょっとどうかと思う。


どうしたものかと悩んでいると、哲人が不思議そうに言った。

「アイテムボックスって、隠さないといけないかな?」

「え?」

「だーだ、あうーあ」

私は、あんまり特殊な魔法(アイテムボックスは魔法とは少し違うけれど)を見せると、いろんなところからの囲い込みがめんどくさくなるんじゃないかと思っていたのだけれど。

哲人の意見は違うらしい。

ならどんな主張かと思ったら。

「勇者の魔法は不可解なものが多い、っていうのは一般に出回っている勇者系の本にも書かれていることだから。そこまで気にしないでもいいんじゃない?」

まさかの楽観でした。

いいのか?それで。

「たったー!」

勇人は、キャンピングカーの床を必死に片足立ちハイハイしている。

机の下も椅子の下も気にせず、目標に向かってひたすらまっすぐ進む。

あぁ可愛い。

ワームの輪切りは、とりあえず結解を張って外に放置してある。

「いいのかしら……」

「大丈夫だよ、いざとなったら逃げられるんだし。というか、キャンピングカーの時点でかなりのものだと思うよ?それを隠さないんだから、今更だよ」

「う、まぁそれは確かに」

「勇者は別の世界の人だから、この世界では考え付かないような理論で魔法を使う。だから、一緒にこっちにきた邪栄ちゃんも、不思議な魔法を使う。そういうことでいいと思う」

「説明を求められると困るんだけどなぁ」

「その場合は、俺が対応するから大丈夫。キャンピングカーなら、エンジンのだいたいの説明はできるし。といっても、燃料があること前提の駆動だから、きっとあんまり理解してもらえないだろうけどね」


それなら大丈夫かもしれない。

哲人は、理系らしく順序立ててきちんきちんと全部説明するタイプだ。

だからある程度分かる人には、とっても分かりやすい。

逆に、知らない人にとっては情報が多すぎて訳が分からなくなる。

割と車好きな哲人のことだから、パーツの細かい歴史まで順番に説明することだろう。

研究者的な変人なら、興味を持って作れるようになるかもしれないけれど、それならそれでアリ、かな。


私が懸念しているのは、その知識を搾取するために閉じ込められることと、めんどくさい説明を何度もさせられること。

閉じ込めには魔法で対抗できるから大丈夫だとして。

説明を哲人が引き受けてくれるなら、何も問題はない。


「アイテムボックスは、どう説明するの?」

「まずは、次元の説明から始める。2次元、3次元くらいまでは分かると思うから、そこから4次元を教える。そんで、その4次元と3次元の間にあたる3.5次元に亜空間を作ればできる、とでもしておこうかなぁ」

「うん、4次元の時点でちんぷんかんぷんだと思う」

「やっぱり」

「あうー、たーうぅん」

あ、勇人が手をしゃぶりだしたから、そろそろお昼にしないと。

そろそろ一緒にご飯を食べたそうにしているから、野菜の煮物くらい作ってあげようかな。



結局、説明は哲人に任せることにして、近くの街へ向かった。

街の側にある森の中まで移動して、キャンピングカーを収納。

そこからは、勇人は抱っこ紐で私たちは歩き。

結構重たくなってきたから、長時間抱っこしていたら肩が凝る。

箱型のベビーカーでも出そうかな……色々機能付きの。

走っても平気なレベルの衝撃吸収はもちろん、壁面に収納できる形態の椅子、当然椅子にはベルトもつけて、雨でも使える透明の屋根、お昼寝もできる広さで、おもちゃ入れも横につけて……。




歩きながら哲人と話し合っていたら、街の入り口に着いた。

わりと大きめの街で、門番が2人立っている。

聞けば、ダンジョンから近い大きな街といえばここらしい。

親切に教えてくれた門番さんによると、特に怪しい人以外は何もしないそうだ。

大変なのは、人数を数えるくらいだと言って笑っていた。


素通りできる理由は簡単、この街には冒険者組合に所属する実力者が沢山滞在しているから。

騒ぎを起こしても、冒険者が集まって鎮圧し、すぐ収まるらしい。

実際、そういう警察のような仕事の依頼も常にあるらしく、半分自警団化しているんだとか。

この街、ツィーダヌの冒険者組合にいた受付のお姉さん(・・・・)が教えてくれた。

そうやって雑談をしながら待っていると、ツィーダヌの支部長だという壮年の男性がやってきた。

「お待たせいたしました、勇者様。大型の魔獣をお持ち込みいただいたとお聞きしましたが……?」

ワームは大型だから、組合で引き取ってほしいと頼んだのだ。

そうしたら、なぜか支部長さんが出てきた。

「あぁ、ちょっとした魔法で、邪魔にならないようにして持ってきたんですよ」

哲人が、不思議そうに私たちを見る支部長さんに説明した。

大型だって言いながら、何にも持っていないものね。

すぐそこの戸口から、リアカー的なものも見えないし。

哲人の説明を聞いて、支部長さんが関心したようにこちらを見た。

「さようでございますか。では、とりあえず保管庫へまいりましょう。奥様は待たれますか?」

「いえ、私が行かないとお渡しできませんので」

「それは、魔法の関係ですか?」

「はい」

それを聞いて、支部長さんは頷いた。

「では、こちらです」



着いた先は、組合の建物の裏側にある倉庫だ。

大きさは、20畳くらいかな?

区切りの無い平屋で、高さが少しある。

中に入るとひんやりしているから、でっかい冷蔵庫なのかもしれない。

「ここが保管庫です。空いているところならどこでもお使いください」

端っこに箱があるけれど、広々と空いている。

よし、これなら全部出してもいいかな。

「では、少し離れていてくださいね。<アイテムボックスオープン、ワームの輪切りを全部並べて置く>」

どすん、どすん、どすん、どすん……

ワームの輪切りが順番に並べられていく。

そして支部長さんの口がぱかり。

一緒についてきたお姉さんの口もぱかり。

あぁ、やっぱりアイテムボックスってびっくりするような魔法なのね。

「ゆ、ゆぅうー、しや、ゆうしゃさ、ま。こ、これ、は……」

「ワームですよね。2人でどうにか倒しましたよ」

うん、哲人が脳内図書的な何かで検索した結果そうなっていたらしいから、間違いはないはず。

「わ、ワーム……いえ、そうです、ワームではあります。ですが、これは、グレートワームです」

あ、ワームの方に気を取られていたのね。

すっごい視線でワームをガン見してるけど、そんなに見開いてたら目が乾かない?

っていうか、アイテムボックススルーされた。

「グレートワーム?」

「はい。普通は、この半分ほどの大きさしかありません。繁殖期に入ると、強い個体がより強くなるためその体を大きくするのです。ちょうど見かけたという報告があったので、緊急依頼を出そうとしていたところで……」

「あぁ、それなら、もしかして抜け駆けしちゃった感じですか」

すまなそうに哲人が言ったが、支部長さんはとんでもない、と両手を振って否定し、土下座せんばかりに頭を下げた。

「いえ、もう、それどころか、ありがとうございますっ!!!グレートワームといえば、ランク7以上の冒険者を10名以上は集め、大がかりな罠を使って拘束した上で魔法をぶち込んで倒すのが通常の方法です。こんなにきれいな状態で討伐できるなんて、本当に、素晴らしいとしか言いようがありません」

「さすが、英知の勇者様と豪烈の魔導士様……」

支部長さんの言葉に続けて、お姉さんがつぶやいた。

えっ?

なにその厨二っぽいあだ名。

いやまぁ、哲人に英知ってつくのは、宰相さんの仕事を手伝っていたから分かるよ。

能筋じゃないっぽくていいと思うし。

でも、豪烈って、それはやめないか?

豪はとても強い。

烈は激しい。

ものすっごく強いと言いたいわけ?

なにその二つ名。

豪烈だと?

どこの兄弟だよ!

短パンは眼福です!!

いえすろりしょたのーたっち!!

違う、そうじゃない。

勇者より強そうなあだ名がつくってどういうこと?

ちょっとそこ、肩を震わせて笑うな。

「いたっ?!ちょ、邪栄ちゃ、ひどっ、ぷぷぅっ」

ばれないように高速で哲人の脛を蹴ってやったけれど、堪えていない。

ちっ、蹴りが軽かったか。

誰だよこんなあだ名考えたの。

見つけたらただじゃ置かねぇからな。

遠くの王都で、とある王子がくしゃみをしたとかしていないとか……。




「指名依頼とは?」

「はい、依頼する側が担当する冒険者を決めるのです」

折り入って頼みがある、と支部長さんに言われて連れてこられたのは応接室。

机には温かい紅茶が並んでいる。

いやいや、指名依頼の意味はなんとなく分かるよ。

聞きたいのは依頼内容だ。

「なぜ私たちに?」

「はい、それが……現在、この街には高ランクの冒険者があまりいないのです。いても、高齢の者が多く……。実は、ダンジョンが活性化していて、普段下層にいるはずの魔獣が上層に上がってきているのです。そして、上層にいる比較的弱い魔獣が外に出てきています。弱いと言っても、基本的にランク5以上の冒険者が対応できる程度の強さはありますから、村などに行けば被害は甚大です」

グレートワームを倒せる2人組だから、頼めると踏んだわけか。

それはいいから内容を教えなさいよね。

「なるほど。だから冒険者が足りていないんですね。依頼はダンジョンの?」

「いえ、そちらはどうにか抑えているので。依頼したいのは、ワイバーンです」

「ワイバーン?」


支部長さんの説明をまとめると、ワイバーンの集団をバラバラにしてほしいそうだ。

普段一個体で行動するワイバーンは、繁殖期になると集団を形成する。

要するに、集団お見合いだ。

そして、強いオス同士が、メスへのアピールのために喧嘩をする。

強い方がモテるから。

今回依頼のあった集団は、特に大きく強いオスが数頭いて、喧嘩の余波で森の中にある人の村に被害が出たらしい。

森の奥からこちらに移動しつつあるのも懸念材料だ。

「そこで、強いオスを1頭、できれば2頭は倒していただき、集団を崩してほしいのです」

オスが減れば、メスの方が数が増えてハーレム状態になる。

ハーレムになれば、争う必要がないからさっさと巣にこもる。

ということらしい。


「間引けばいいということですか」

「そういうことになります、ね」

簡単そうに言う哲人に、支部長さんは少し顔をひきつらせた。

飛ぶからめんどくさいけれども、強さ自体はグレートワームの方が強いとか。

高さは5メートル~7メートルほどあり、翼も広げると同じくらいになる。

スピードはそこそこで、個体によっては炎を吐くが、力は強くない方らしい。

多分、倒すこと自体は難しくないだろう。


問題は、依頼達成までにかかる時間だ。

私たちとしては、早いところ勇者の剣を見つけて手に入れたい。

前の勇者の日記によると、ダンジョンの最奥の部屋に、勇者の剣の部屋が現れたそうだ。

守っていたのはベヒモス。

そりゃもう死闘をくりひろげて……ドカンと一発で倒したとか。

どっちだよ。

あれ?

もしかして、もしかする?

「ねぇ哲くん、勇者の剣の魔獣……」

「あー、そういうことか。」

「え??あの?」

分かりあう2人。

置いてけぼりの支部長さん。


「な、なるほど、ベヒモスですか……」

支部長さんの顔色は白い。

お姉さんが、気を利かせて温かい紅茶を入れなおして差し出したくらいだ。

「ほかの魔獣の可能性もありますが、強さは同等でしょうね」

「っ……」

息を飲んだ支部長さんに、哲人は笑顔を向けた。

余計怖いよ、きっと。

「ダンジョンの活性化は、勇者の剣の部屋が原因でしょう。それより、どうします?」

「へ?」

うんうん、私たちとしてはどっちでもいいけれども。

衝撃で理解が追い付いていない支部長さんに、哲人は追撃した。

「ワイバーンと、ダンジョン。どちらを先にしますか?」

「あ、あぁ、そうだ、ワイバーンも……」

支部長さんは、とうとう頭を抱えた。


しばらくして、逆に冷静になったのか、顔色は悪いまま、それでも決心した顔を上げて言った。

「まずは、ワイバーンの集団をお願いしたいです。報告によると、少しずつですが人里の方へ出てきているらしいので。その途中で、わりと近くでグレートワームも見かけたと聞いたため、まずそちらをと思ったのです」

「そうだったんですね」

「これまでの繁殖期とは、規模がまったく違いますので、気をおつけください。ダンジョンの方は、現状きちんと抑えているらしいです。中に入らず、外に出る魔獣だけを殲滅するなら、10日でも20日でももつでしょう」

「なるほど……」

哲人が、考えるように眉を寄せた。

支部長さんの両手が、ぎりり、と握りしめられている。

大丈夫よ、わりと哲人はお人よしだから。

ただあれね、条件がね。

「ねぇ哲くん、お金はぶっちゃけそんなにいらないと思うの」

「うん、俺もそこは迷ってるとこ」

「あっても困らないけど、ね。それより、お願いがあるのよ」

「ん?」

私は、哲人の耳に小声で条件を言った。

すると、哲人は苦笑いした。

「それは、説明が難しいなぁ」

聞こえないよう、こそこそと話す。

ちょこっとだけ防音魔法も使って、と。

「だって重要なことよ?いいじゃない、私が実験したいから傷つけるなとか、そういうのでいいからさ」

「うぅん、いけるかなぁ、それで」

「ここまでに討伐しちゃったのは仕方ないから。これからの被害を減らしたいの」

「邪栄ちゃん、なんだかんだ気に入ったんだね」

「や、まぁ、なんていうか……あんな風になつかれると、ねぇ」

「……わかった。それでいこうか。多分処理もめんどくさいし、ちょうどいいかも」

「ありがとう、哲くん。大好き!」

「現金だなぁ」

「てへっ」

「くっそ、かわいいな」

そういうことをペロッと言わないでほしい、今絶対顔赤くなった。

いちゃつく私たちを、支部長さんがあきれたように見ていた。



「だーう!」

ちょうど勇人が起きたので、いちゃつく時間はさくっと終わった。

今は、哲人の膝の上に座って木のコップをゆらゆらさせている。

親子かわいいなぁ。

「そ、それは……」

「無理ですか?」

にこり、と哲人。

できないはずねぇよな?

わりと簡単だよな?

勇人との対比がすごいことになっている。

私も無言でにっこりしていたら、支部長さんの顔色がさっきより悪くなった。

「しかし、その、ご、ゴブリンに、手を出さないというのは……」

「いえ、正確には、人を見ると逃げるゴブリンを追わない、攻撃してこなければ何もしない、というだけです」

「……なぜ、とお聞きしてもよろしいですか?」

ちらり、と哲人が私を見た。

「実は、この間見かけたゴブリンが、何か言葉を話していました」

「こ、言葉……?しかし、あれらは言葉など……」

「はい、私も言葉には聞こえませんでした。しかし、妻には言葉に聞こえたのです。多分、魔力が高いために、無意識に翻訳したのだろうと」

「ふむ……」

「で、妻としては、気になるから実験してみたいそうです。話が通じるのであれば人里から遠ざけることができるかもしれませんし、敵対するなら殲滅すればいいだけですから」

「うぅむ……しかし、ですな……」

支部長さんは、ものすごく悩んでいる。

そうだよねぇ、結構常識はずれなことを頼んでいるよね。

魔獣の中でもやっかいとされるゴブリンを、見かけても討伐するなって。

でも、これくらいならきいてくれてもいいよね?

だって、こっちの予定を10日もずらすんだよ?

ただ深追いしないだけならできるでしょう?

ゴブリンから攻撃してきたら、さすがに反撃すればいいけどさ。

あのゴブリンたちの言い分を聞いた感じだと、そういうことはしないはずだから。


当然ながら、支部長さんは哲人に負けた。

勇者と妻の魔導士からの願いであることを強調し、どうにかすると言ってくれた。

よかったよかった。

宰相さんにお願いしようかとも思ったけど、そもそも冒険者の仕事だもんね?

きちんと組合を通すべきだよね。

「では、『ゴブリンを討伐しない、逃げたら追わない』という、『依頼』の形で、高ランクの冒険者全員に通達いたします」

「依頼料はそこそこ出してくださいね。その全額が、今回ワイバーンの集団を解体する謝礼金ということで」

「はい、それくらいの金額にはなりますから……。本当に、よろしいので?」

こちらには、一銭も入らないことになるからね。

でも、すでにわりとお金持ちだから。

今日確認したら、私が開発して教えた浄化魔法の謝礼もどかんと入っていたし。

「えぇ。万が一攻撃してきた場合は、反撃することを禁じてはいませんし、そういう意味では、冒険者にとって悪い条件ではないでしょうから」

「かしこまりました。では、そのように依頼を出します」

土気色の顔のまま、支部長さんは書類を書き上げた。

もし、攻撃させるために追い回したとかいうことになったら、後で残ったゴブリンに聞けば分かるものね。

そんな人には、涙が出るほどいい夢を見させてあげるわ。

強制的に、長時間。


ふふふ、と笑ったら支部長さんが身震いした。

ちょっと哲人、なに笑ってるの?

座ったまま蹴りを繰り出したけど、さっと避けられた。

勇人を膝に乗せているはずなのに素早いわね。

ちっ、今日手に入れたお酒、アイテムボックスから出してやらないわよ!

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