一章 フォーゼ 1
『高エネルギー反応が観測されました。フォーゼによる可能性が極めて高いです。近隣住民は、危険ですので近くの建物にすぐに避難して、必ず外に出ないようにしてください』
夜の繁華街。
そこで、そんなアナウンスが響いた。人に落ち着きを与える周波数で喋る、人口声帯によって紡がれた緊急用アナウンスだ。
繰り返します、と一拍おいた後、再び同じセリフを繰り返すアナウンス。
その声をBGMに、黒いつなぎの様な戦闘服を着た青年は、夜の繁華街を駆け抜けていた。
駆け抜ける、とは言っても走っているわけではない。
彼は銃器のようなものからワイヤーを発射し、映画に出てくる某クモ男のように振り子の原理で空中を飛ぶように駆け抜けていた。
1.5Lのペットボトルとほぼ同じ大きさで、黒い銃身から黄色い閃光を放つその
銃器から発射されるワイヤーは、使い捨てと言うわけではない。
青年が接着していた場所から離れると、銃器の中に掃除機のコードのようにしまい込まれる仕組みである。
彼の後ろには、同じ格好をした人物が十人ほどいた。
皆、彼のように壁、看板、街頭、信号機などを使い、街がただの黄色い線にしか見えなくなるほどのすさまじいスピードで移動していた。
彼らの名はファクト。
とある怪物を討伐するため、組織されたチームである。
『目標は池袋三丁目の交差点にある、大型商業店、710の屋上に降り立つと思われます! 経路ドローンを飛ばしているので、それを使って到達してください!』
「了解したぜ!」
彼は無線から聞こえた声に礼を述べると、街灯の一つにワイヤーを発射し、車の屋根に触れるか触れないかの距離を通る。
沿道で近くの建物に避難する人々が、そんな彼の姿を指さし、黄色い声援を上げながら「ファクトだ!」と口々に叫んでいた。
『ショウジ、通行の邪魔はするなよ』
「わーってるよ。ファンサービスだ」
ショウジと呼ばれた青年は、夜風に揺れる自慢の金髪を押さえるために被っているニット帽の上から頭を掻いた後、看板に向かって銃口を向けた。
――全く、ハルトは相変わらず頭固いな。
同僚に文句をつけながら、ショウジは引き金を引いた。
発射されたワイヤーを器用に使い、徐々に引き金を引く対象の高度を上げる形で上へ戻る。
そうして元の高さまで戻ろうというときに、ショウジは思い出したように呟いた。