プロローグ
薄く世界を照らす満月は、雲に隠れ輝きを失っていた。
かろうじて残った光が照らし出すのは、廃墟と化した都市。そこに、かつて政令都市の中で最も人口が多いと言われていた面影は微塵もない。ただただ砕けたコンクリートと割れたガラス、錆びた車が残っているだけだった。
その滅びた都市の中にある、一際高い廃墟ビル。
そこの最上階付近にあるのは宴会場だ。
とは言っても、赤いシートは厚い埃をかぶり、あちこちが破けている。まばらにある机や椅子はすべて倒れており、ここも外と同じくまるで竜巻がぶつかった後のような惨状であった。
そんな本来は誰もいないはずの場所に、彼らはいた。
「二十年……二十年だ」
一人がそう口火を切った。
廃墟の中に一か所、明かりが灯されているところがあった。
光源は三又に分かれた燭台に立つ蝋燭。燭台は丸いテーブルに置かれていた。
テーブルには四人座っていた。皆一様に黒いローブを頭から羽織っており、傍から見ると黒ミサや怪しい儀式をする宗教のように見える。
口火を切ったのは、一番窓に近い席に座った者であった。声だけしかわからないが、それだけでもかなり歳の若い青年であるということがうかがえた。
「長かった。本当に長かった……けれども、こんな日々はもう終わりを迎える。僕たちが、進化を認めない猿どもに裁きを下し、新たな世界を作り上げるんだ」
青年の言葉に、テーブルに座る者全員が頷いた。
青年は立ち上がる。同時、彼の背後で雲に隠れていた満月が顔を出した。
光は、綺麗だったときは窓があったであろう吹きさらしの場所から容赦なく入ってきた。
荒れ果てた室内が映し出される中、青年のわずかに除く顔も照らし出される。
そこから除く皮膚の色は、白でも黄色でも黒でもなく――青かった。
明らかにただの人ではない彼は、自身の頬を撫でながら言った。
「さあ、同志達よ、共に行こう」
水色の唇を大きく歪めて、彼は宣告した。
「僕たち、神に選ばれた人類のみが住むことを許される、理想郷を作る戦いに。理不尽な責め苦を受け、もがき苦しむ神の子を助ける戦いに」
窓から外を見る青年。その瞳がとらえるのは、光あふれる猿たちの生息域。
青年が同志と言った机に座る者たちも、その光を瞳に捉える。彼らの瞳は、怒りで打ち震えていた。