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藤花の舞姫  作者: yuzuki
9/12

闘技場の恐竜退治3

 クエスト開始を前に、三人は簡単な作戦会議を行った。

「はい、リーダー! 私から一つ提案があります」

「ほい、天音くん」

 挙手をする天音に、イヴァンは発言を促した。

「今回の戦いでは、我々は防御力を捨てるべきだと思います」

「ええっ!?」

 驚いたのはルールー。彼は提案者に向かって聞き返した。

「どうしてだ?」

「それはですね、私がいくら万能有能超絶完璧な支援役(バッファー)であったとしても、一度に全部のステータスを上げることはできないからです」

 バランス良く全てのステータスを上昇させるスキルは存在する。しかし、それは今回の作戦にはとても都合が悪い。

「私たちは三人しかいないので、消耗戦となる長期戦は不向きです。短期決戦で一気に決着をつける必要があるんですが……」

 防御力を上昇させるのは悪手である。天音はもちろん紙装甲だし、イヴァンも鎧といっても胸当てだけ、防御力などの他のステータスは全て攻撃力に注ぎ込んでいる。盾役(タンク)のルールーも装備は布鎧で防御力は低く、戦い方も防御力にモノを言わせて防ぐのではなく、体術を駆使して受け流す戦い方を基本としている。三人の弱点を補うという点では、非常に効果的であるが、それでは長期戦となってしまい、今回の戦いでは勝ちきれなくなってしまうだろう。

「では、いったい何のステータスを補えば、私たちは三人で大型ドラゴンに太刀打ちできるでしょうか」

 その他の案として、生命力を上げることも可能だが、それは防御力を上昇させた時と同様に時間稼ぎにしかならないだろう。

 魔力や精神力を上げる作戦は、魔法使いの矛役(アタッカー)が不在のこのチームでは、全く役に立たない。

「また逆に、腕力や攻撃力に関しては、攻撃バカのイヴァンがいるので、まぁ十分だと考えておきます」

 更に攻撃力を上げるという捨て身の作戦も場合によっては有効だが、ドラゴン相手では防御力も生命力も非常に高いので、削り切る前に殺されてしまうだろう。

「そうすると、最も有効な手段は……俺たちの回避性能を底上げすることか」

「そうです」

 ルールーの答えに、天音は頷いた。

 彼ら三人は、初心者などではなくこの〝世界〟のベテランプレイヤーである。今回戦うドラゴンも幾度と戦ってきた魔物であり、行動パターン、攻撃手段も十分に把握できている。回避できるだけのステータスの下地が整えば、集中力が続く限り十分に対応は可能であると考えた。

「というわけで、私は素早さと体力の向上に力を注ぎます。二人は頑張って、自力でドラゴンの攻撃を避け続けてください」

 以前にイヴァンとルールーが二人で戦いを挑んだ時、彼らに足りなかったものは敵の攻撃を避け続けるだけの回避性能と、絶えず走って攻撃をし続けるだけのスタミナだった。この二点を補ってやれば、彼ら三人だけでも戦い抜けると考えた。

 矛役のイヴァンは、ただひたすらにドラゴンの攻撃を掻い潜って攻撃し続ける。

 支援役の天音は、遠距離からスキルを使用して、三人の素早さと体力を補強する。

 そして、盾役のルールーは、できるかぎり敵のヘイトを集め二人の盾となり、場合によっては回復役となって傷ついた仲間をサポートする。

 これが今回の作戦の全てだった。




 グラディウスの中心に位置する闘技場(コロッセオ)には、数多くの観衆が詰めかけていた。

 一年に一度の武道大会の開催。それに向けて、人々は徐々にそのボルテージを上げていく。今現在行われているのは、武道大会の本戦ではなく、その予選となる討伐クエスト。気の早い冒険者たちは、要注意のライバルたちを予選からマークして、戦い方を分析して対抗策を練る。

 しかし、この日の闘技場の光景はいつもと少しだけ違っていた。

 いつもライバルをチェックしている出場者たちだけでなく、毎年の大会で上位に食い込む熟練の冒険者たちまでもが、予選クエストの見学に訪れていた。

 闘技場の客席は、いつになくピリピリとした雰囲気を醸し出していた。

 やがて、闘技場の門が開く。

 解き放たれた大きな入場門から現れたのは、三人の冒険者の影。

 先頭を歩くのは、深緑色の鱗に全身覆われた竜人型(ドラゴニュート)の男性。背には巨大な三日月斧(クレセントアクス)を担ぐ、『魔王の戦斧』と呼ばれる冒険者。前回の、そして前々回の大会優勝者、今大会の一番の優勝候補。多くの観戦者の目的は、この男の戦いを見ることにある。

 彼に続いて歩くのは、濃い茶色の毛並みに覆われた人狼型(ライカンスロープ)の男性。武道着のような布鎧に、武器らしいものは何も持っていない。ただ胸につけた銀の十字架(クロス)が、狼男の姿ととてもミスマッチのように感じられた。『魔王の戦斧』の相棒にして、『人狼の聖戦士(クルセイダー)』と呼ばれる冒険者。この男も本戦へ本格的に参加してくるようであれば、要注意の人物となるだろう。

 そして、彼らに続く最後の一人は、見慣れぬ薄紫色の和服姿の女性だった。他の男性二人に比べて小柄に見える人間型(ヒューマン)の女性。しかし、その表情は、頭に被る市女笠(いちめがさ)とその笠から垂れ下がる白い半透明の垂れ衣によって、観客からは隠されていた。

 観客たちはどよめいた。

 三人目の女性の、ひどく場違いな身なりにも驚いたが、何よりたった三人だけということに他の冒険者たちは驚愕する。

 立ち向かう予選のモンスターは、このグラディウスのリージョンにおいて最も悪名轟く凶悪なモンスター『黒炎竜(ディアボロス)』――またの名を『竜王種(ベヒーモス)』と呼ばれるモンスターの一種である。

 通常は上位クラスの冒険者たちが六人ほどでパーティーを組んでの討伐が推奨されている。それをたった三人で立ち向かうのだという。驚愕する者、呆れる者、観客席には鼻で笑う者たちもいる。

 そんな様々な視線が集中する中、当の三人は実に落ち着いた様子で歩を進めていた。

 後ろを歩く女性が、前を行く人狼の男の袖を引く。

「待って」

「なんだ?」

 歩みを止める。前を行く竜人の男も、気づいて後ろを振り返った。

「勝利の女神からのおまじない」

 そう言って、彼の手にポンと何かを握らせる。

 小さな巻紙に包まれた鼈甲飴(べっこうあめ)だった。

「少しだけ精神力を回復する御利益(ごりやく)付き。あ、イヴァンにはあげないよ? だって、攻撃役は精神力必要ないもん」

「がーん!」

 手を差し出していた竜人は、目に見えて落ち込んだ。その様子に思わず噴き出す人狼。

「ありがとう」

 受け取って、飴を口の中に入れる。いじける竜人にも、彼女は仕方ないなぁとクスリと笑って手のひらに飴を握らせてあげた。

「噛み砕いて飲み込むと効果が無くなるから注意してね」

「……というか、食べながら戦うのか?」

「……? 私、いつもそうしてるよ?」

 当然といった様子の彼女。

 アイテムでドーピングして精神力を補強しなければ、戦闘中休みなく歌って踊り続けることは難しい。

「飴舐めながら、歌うのか?」

「できるできる。こう、舌の裏に入れたりとかして」

「天音、お前いつもそんなことしてたのか?」

 慣れれば簡単と言う彼女に、少し呆れた様子の男二人。

 彼女は微笑みながら、白い垂れ衣の幕を閉じた。

「というわけで、私は今から本気(・・)で踊るから。後はよろしく」

 手で合図を送って、彼女は二人から遠ざかった。

 少し離れたところで、天音は周囲を見回した。

 多くの観客が集まる闘技場の客席。こんな舞台の真ん中で披露するのは本当に久しぶりだった。少しだけ心が高鳴る。

 敵の姿はどこにもない。おそらく正面に見えるもう一つの入場門から姿を現すのだろう。敵が現れる前に、下準備を整える必要があった。

 鞘から刀を抜いて、武器を両手に構える。右手に脇差(わきざし)、左手には小刀(こがたな)を持って。

『藤花の舞姫』は舞う。

 最初はゆっくりと、足取りを確かめるように。その<踊り>の効力が現れ始めると、徐々にそのリズムを上げていく。まるで見えない相手と戦う演武のように、クルクルと彼女は舞い踊る。

 笠の下、白い垂れ衣の隙間で、彼女は口元を綻ばせる。

 彼女の表情を覆い隠す白い布は、『虫垂衣(むしのたれぎぬ)』と呼ばれる日よけや虫よけ用の(とばり)。高貴な女性が顔を隠すためのもの。それにあやかり、この垂れ衣には<隠密>スキルの効果があった。

 そして、天音は歌う。

 彼女の美しい歌声が響き渡ると、闘技場のざわめきが少しずつ、波を打つように静かに引いていった。

 まるで魅了の魔法にかけられたように、観客たちは彼女の演武に魅入った。

 歌えば歌うほど、舞えば舞うほどに、そのスキルは高い効力を発揮する。

 <歌>と<踊り>のスキルは、その効果範囲と費用対効果(コストパフォーマンス)の効率性に非常に優れたものだが、その真価は、継続使用時における増幅効果にある。

 一度でも止まってしまえば、増幅効果は一気に無くなる。彼らが勝つためには、彼女は踊り続けるしかない。

 しばらくして、観客たちへ魅了の魔法を打ち消したのは、闘技場を駆け抜ける一陣の風だった。

 戦いの舞台に、黒い影が過る。

「来たぞ!」

 イヴァンは空を見上げた。

 天音の歌声を遮る様にして、竜の激しい咆哮が響き渡った。観衆たちも、一様に上空へと視線を向ける。

 その黒竜は威圧的な王者の風格を持って、滑空するように彼らの前へと舞い降りた。強い風圧に前衛の二人は腕で顔を庇う。

「門から出て来いよ」

 イヴァンが呆れたように呟いた。

 彼らにとってみれば戦い慣れた馴染みの相手。しかし、『黒炎竜(ディアボロス)』と呼ばれるその個体は、竜王種(ベヒーモス)とは比べものにならないほど強烈な存在感をもって冒険者たちを圧倒する。

「でけぇ……」

「相当な、当たりの個体を引いたようだね」

 黒竜を見上げて呟くイヴァンに、ルールーは同意するように答えた。

 同じクエストモンスターであっても、様々な個体差が存在する。体格が大きいもの、小さいもの。気性の荒いもの、魔法攻撃が得意なもの。そういった中でも、今回は飛びきりの当たりクジを引いたようだった。

「カスタマイズし過ぎだろ……」

 リージョンに存在する魔物たちも、リージョンマスターによって手を加えられていることがある。リージョンのコンセプトに合わせて、魔物の姿や行動パターンを調整することが可能だった。

 この黒竜の姿は、原型となっている竜王種(ベヒーモス)とは似ても似つかないほどの、とても凶悪な外見となっていた。全身を覆う漆黒の鱗の鎧に、真紅の瞳。巨大な翼の淵には大きな棘が見える。

「でも、中身は所詮、ベヒーモスなんだろ」

 外観は異なっていようと、モンスターの基本ルーチンは大きく変わることがないので、このディアボロスも、攻略法はベヒーモスと基本的には同じと考えて良い。行動パターンは個体差と言って良い程度でしか差は無く、特殊な攻撃手段を持ち合わせているわけではない。

 熟練者である彼らには、予備動作から攻撃を予測することが十分に可能であった。

 黒竜は、彼らをギロリ睨みつけると僅かに息を吸い込む。

「<咆哮>、来るぞ!」

 ルールーは両腕をクロスさせガードの体制を取る。イヴァンも斧を前に構え、防御に徹する。

 ディアボロスは、耳をつんざくような叫び声をあげた。その振動が衝撃波となって彼らを襲う。ドラゴンの<咆哮>スキル、攻撃力は低いものの、まともに受ければ硬直を免れないやっかいな特殊攻撃である。

 慣れたように<咆哮>の第一波を受け流した二人は、左右に散って反撃の狼煙(のろし)を上げる。

「でけぇ図体で、騒ぐんじゃねーよ!」

 イヴァンが切りかかる。巨大な三日月斧(クレセントアクス)を黒竜の死角から振り下ろした。

 彼の小手調べのような軽い斬撃は、固い鱗に弾かれて空を滑る。

「うおっ! かてぇ!」

 黒竜は身を(よじ)るようにして、イヴァンへ向けて鉤爪(かぎづめ)を振るう。彼は慌てて身を引いて攻撃を避けた。

「バカッ! お前がヘイト集めんな!」

 ルールーは、そうイヴァンに向かって怒鳴り、黒竜の顎下へ滑り込むと回し蹴りを喉元へとぶち込んだ。ディアボロスは一瞬怯んだように見えたが、ダメージはほとんど無いようだった。その隙にルールーも離れて、一端、敵から間合いを取った。

「相変わらず、防御力はガッチガチだなぁ」

「だからイヴァン、お前は素直に<溜め切り>しとけっての!」

 生半可な攻撃ではダメージが通らないので、強力な攻撃を確実に与えていく必要があった。そのためのイヴァンだ。

「それにしても、さすがは天音だよなぁ。全然体力が減らねぇ」

 楽しそうな様子で呟くイヴァン。ルールーも頷いて、後方で舞い続ける彼女をチラリと眺めて答える。

「確かに……。やはり本物のバッファーがいると、全然違うな」

 まず、彼らの速度が違った。支援役に補助された彼らの素早さは、黒竜の鉤爪を振るう速度を易々と上回る。油断さえしなければ大きな一撃をもらうことはない。

 そして何より、体力の増加量、回復速度が違った。

 基本ステータスの一つである体力は、走る、攻撃するといった基本動作に直結する、所謂スタミナに関する数値である。それ自体が防御力にも関わるステータスであり、何よりスタミナが切れれば、攻撃を行うことも避けることも出来なくなってしまう。息を整えるように少し待てば自然回復するものだが、戦闘ではそれさえも致命的な隙となってしまう。

「天音がいれば、全力で切り続けることができるぜ!」

 そう言って、イヴァンは斧を下げて、まるで地面へ引き摺るようにして身を構えた。斧の刀身には、徐々に赤いエフェクトのような光が灯り始めた。

 斧スキル<溜め切り>の発動。溜めれば溜めるほどにその威力は増すが、同時に使用者の体力を一気に食いつぶすスキルでもある。体力を使いきってしまえば、その後の攻撃に支障を来たすこともある諸刃の剣。

 おそらくイヴァンの視界には、<溜め切り>による体力の減少と、天音の補助スキルによる体力の増加、そのせめぎ合いが見えているのだろう。ニヤリと口元を歪ませて、黒竜に向かって身構える。

 いくら天音の補助があっても、<溜め切り>を行うイヴァンは大きく移動を行うことはできない。

 そこへターゲットを誘導するもの、盾役のルールーの重要な仕事の一つ。

「来いよ!」

 黒竜を挑発して、敵意を引き寄せる。

 ディアボロスはその巨体からは想像も付かないほどの瞬発力をもって、ルールーへと襲いかかった。大きな顎と牙で、小さな狼を狙う。

 しかし、身軽さが売りの人狼は、更に天音の補助を受けて、恐るべき速度で黒竜の動きを捉える。

 ヒラリとかわし、その巨体を後方へと受け流した。

「イヴァン!」

「おおぅ!!」

 待ち構えるように立つ竜人。

 深緑の鱗を持つ小柄な竜は、漆黒の鱗を持つ強大な竜へと雄叫びを上げて切りかかる。

 赤いエフェクトが弾け、凄まじい速度のその一撃は黒竜の身を抉った。黒い鱗を易々と弾き飛ばし、竜の巨体が僅かに傾いだ。その衝撃は、黒竜の肌だけでなく地面までも大きく削り取る。

 また敵から離れてから、イヴァンは言う。

「思ったより浅いな」

 見ると、竜の脇にかすり傷が見える程度だった。竜は身体を傷つけられたことに、ますます怒りを募らせている。

「生命力高そうだし、地道に削るしかないさ」

 ルールーは諦めたようにそう話した。

 ディアボロスは、今度は低空飛行をするように大きく翼を羽ばたいた。

「……げっ!」

 黒竜の次の行動に気づいたイヴァン。

「早く、俺の後ろへ!」

 同じく気づいた様子のルールーは、後ろへとやってきたイヴァンを庇うように、竜に向かって身構えた。

 攻撃力へとステータスを大きく割いているイヴァンは、いくつか苦手とする敵の攻撃があった。その驚異から矛役を守るのも、盾役の重要な役割の一つ。

 竜が大きく息を吸う。

 同時に、人狼も息を吸い込んだ。

 彼らの視界を埋め尽くすほどの火炎、<竜の息吹>。

 その炎の壁に向かって解き放たれるルールーのスキル<真空波>。本来であれば、カマイタチの斬撃を飛ばす攻撃スキルだが、今回は炎から身を守るために使用する。

 強力無比のアタッカーも、射程の広い範囲スキルは避け切ることが難しく、この時ばかりは優秀なタンクの壁に隠れることとなる。

 炎の勢いが鎮まると、今度は黒竜自身が滑空するように、イヴァンたちの頭を掠めて上空へと飛び立っていった。

「うわっ!」

 強い風圧に、彼らは思わず身を屈めた。

 敵が離れると、周囲には僅かな静けさが戻り、また天音の歌声がBGMとなって彼らの心を落ち着かせる。

 まぁこんなものだろうと首を捻った。ルールーが天音に視線を送ると、彼女はそれに気づいているのかいないのか、気にした様子もなくゆったりと踊り続けている。

「天音さんも、マイペースなもんだな」

「まぁ、アレは昔からあんな感じだし。ベヒーモスだったら戦い慣れてるだろうから。それよりも、二人で確実に引きつけないと」

 一番の問題はそこだった。

 今の<竜の息吹>も、天音が離れていたから楽に対処することができた。これがもっと近い距離であったなら、盾役は矛役を見捨てて支援役を守らなければならない。

 今の天音には、自身の身を守る手段が一切ない。

 通常、技のスキルを使用する時は、それ以外の動きができなくなってしまう。もし、それ以外の行動を行った場合、スキルはキャンセルされて<歌>や<踊り>の増幅効果がなくなってしまう。戦いを有利に進められるのも、その増幅効果があってこそなので、彼女の舞を止めるわけにはいかない。戦闘開始からしばらく経って、ルールーはますます身が軽くなっていることを実感していた。

 ディアボロスは、その黒い巨大な翼を広げて、闘技場の上空を悠々と旋回している。まるで獲物を狙う猛禽のような姿。

「引き続き、俺が(まと)になって引きつけるから。イヴァンは遠慮なく攻撃を入れていけ」

「了解」

 ルールーは、一人闘技場のフィールドの中央へと進む。

 一番の絶好のポイントから、上空の獲物を眺める。空の黒炎竜は、やがて彼を中心に旋回を始め、徐々にその角度を落として闘技場の外壁に身体半分を隠れるようにして標的を定める。

「さぁ。来いっ!」

 『人狼の聖戦士(クルセイダー)』は十字架(クロス)を両手で握りしめ、まるで祈るように身構えて、漆黒の竜を遠く見据えた。




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