Jour du chocolat
チョコレートにまつわる・・・振り回される人々の話?
(タイトルは「チョコの日」)
美晴、和歌奈、葵、朋花。
そして
芳彰、聡太、航のバレンタインのお話です。
<追記>(2011.02.15)
『短編』って事で一本で読めるように頑張って修正みようと思ったんですが、
・・・難しい。
「不思議な人。」ありきで書いてるので、どう手をつけていいのか。いやぁ難しい!
とりあえずミスとか細かいとこの修正を・・・
またきちんと形になったら、どーんと修正するかもです。
「不思議な人。」と同時期になりますので、そちらを読んでからでないと、さっぱりかもです(^^;
って、あれに朋花はまともに出てないか・・・(今書いてます)
駄目じゃん!!
*--*--*--*--*--* Side A 大垣美晴
「あ、甘い匂い~。」
「まったく、和歌奈はこういうの早いんだよね。」
「えー、これだけいい匂いがしてるんだから、私じゃなくてもこういう反応するよ?」
今バレンタインのためにチョコチップマフィンを焼いている最中だ。
本命なんかあげたい人いないけど、そういうのじゃなくて、
日頃お世話になったり、迷惑かけてる人に配るためのものだ。
どうせこれからも、利用・・・おっと、迷惑かけるから、その前払いってヤツだな。
・・・何てね、
そして、焼成を始めていい匂いが漂い始めると、
途端に妹が部屋から出てきたというわけだ。
まったく食い意地が張っている。
「そうだ、おねぇちゃん。あのね、お願いがあるんだけど?」
和歌奈は白いビニール袋を手に提げて、お願いのポーズを取る。
「・・・何?」
・・・そんな事をされなくても、相当無理な話で無い限り、
どうせ私は妹のいう事を聞いてしまうのだ。
・・・まったく甘いよな。
「あのね、私の分のチョコも作って。はい、これ材料。」
そう言って渡された袋には、結構な量のお菓子造り用のチョコと、
色とりどりの小さめのアルミのカップ。それとこれはクッキーを砕いた物か?
「・・・多くない?」
「普通のチョコだけのやつと、もう一つこのクッキー混ぜたやつ。
これね、前に食べて美味しかったから作りたいなーって、
30個くらい作るには、このくらいいるよね?」
はぁっ、30個だと???
それに私に作れと言っておいて、何が作りたいだ?
「・・・えーと、30って、これ2種類15、15の30?」
「ううん、30個づつ。30、30の60個に決まってるじゃん。」
何言ってんのとばかりに軽く鼻で笑い、軽い事のように言ってくれるが、
60か・・・一般家庭で作る数ではないと思う。
「・・・あぁ、そう。」
呆気にとられて曖昧な返事をすると、
「じゃぁよろしくね。」
と、いい笑顔でそれだけ言い残して、台所から出て行ってしまった。
どうせ手伝わせても、手間が増えるだけだからいいんだけどさ、
どうせ湯煎で溶かして容器に流すのと、クッキー混ぜて容器に入れて置いとけば、
後は冷えて固まるの待つだけだけどさ・・・場所と手間取るだけだけどさ・・・。
やっぱり私、妹に甘過ぎかな・・・。
しかし、30ってバラ撒き過ぎじゃないか?
・・・和歌奈の感覚が時々理解できない。
*--*--*--*--*--* Side B 石川朋花
高校受験まで一ヶ月を切り、あんまり学校に行く事も無くなった。
が、そのままだと、おそらく若干1名同じ学校に行けそうにないので、
最近はそいつの家に上がり込み、見張り兼、勉強をしている。
そして今日も、私と聡太くんはお昼から航の家に居座っている。
夕方になるとノックの音がしてドアが開いた。
「お疲れさん。頑張ってる?」
あれ・・・お姉さんじゃない。
「おっ、美晴差し入れか?」
「そ、甘い物食べて、頭しっかり働かせな。」
私が春から着るはずの制服を着たお姉さんの友達が、遠慮も何も無く
ズカズカ入って来て青いリボンの付いたクラフト紙の袋を航の前に置いた。
「サンキュー。」
航は早速袋を開けて中身を取り出している。
「おっ、マフィンだ。」
嬉しそうな声を上げると、広げたノートもそのままにそのマフィンに噛り付いた。
「はい、聡太くん日頃の迷惑料。」
「どうも・・・っていうか、だったら迷惑かけないで下さいよ。」
聡太くんは、そう言いながら差し出された袋を受け取った。
「それは聞けない相談だな・・・。」
笑う彼女に、聡太くんは溜息をついた。
「はい、ついでにどうぞ。」
私にも、袋が差し出された。
「私もですか?」
「うん、一人だけ無いのも嫌でしょ? みんなで食べて。」
「ありがとうございます。」
礼を添えて受け取ると、用事があるからとさっさと部屋を出て行った。
「えっ、ちょっと美晴もう帰るの?」
「うん、じゃぁね。」
すぐ後ろでお姉さんの声がした。
カップの載ったお盆を持ったまま、横を向いて立ち尽くしている。
きっと、見えなくなった友達の後ろ姿を見ているのだろう。
「何だ、美晴忙しいな。」
「本当どうしたんだろうね? 去年はしっかり遊んでったのに。」
「最近付き合い悪いのよ、学校終わるとすぐ帰っちゃうのよね。」
私以外の人達は、航のお姉さんの友人である美晴さんと相当親しい仲らしい。
一人蚊帳の外の私は、みんなの会話を聞きながらマフィンに噛り付いた。
「あ、美味しい。」
「だろう? 美晴は無茶苦茶だけど料理は上手いんだ。」
そう言う航のマフィンはもう半分以上消えていた。
「そうだね、毎年色々貰ってるもんね。去年は小さいケーキだったっけ?」
「へー手作りなんだ。」
「そ、家事全般器用にこなすのよね・・・。」
お姉さんは紅茶をそれぞれに置いてくれた後、
「私は手作りじゃないけどね。」
と、ピンクの包装紙に包まれた小さな箱を、それぞれに配った。
航のだけ格段に小さく、聡太くんのが僅かに大きい。
「ねーちゃん贔屓はよくないぞっ!!」
「あんたはそれで十分、貰えるだけで十分だと思いなさい。」
姉は弟に厳しい。
「葵姉・・・ありがとう。」
「ううん、いつもありがとね。」
さっきとは打って変わって笑顔を浮かべるお姉さん、聡太くん幸せそうだな・・・
そうだ、私もお礼言わなきゃ。
「私までありがとうございます。」
「ううん、こっちこそ、航が迷惑かけてばっかでごめんね、」
本当にきれいな人だよな・・・面と向かってしまうと、同性の私まで赤面しそうだ。
「じゃぁ、勉強頑張ってね。」
そう残して部屋から出て行った。
「・・・所でさ、朋花からのチョコは?」
航は三人に戻った途端に、催促してきた。
・・・実は来た時からずっと気になってたけど、
今まできっかけが無かったって事なのかな?
そんな雰囲気がバンバン出ている。
「欲しい?」
「もちろん欲しい! 本命チョコは男のロマンなんだ! ・・・こいつと違ってさ。」
急に振られた聡太くんは、途端に嫌そうな顔になった。
「そっか、聡太くんは大量の本命より、この義理チョコの方がうれしいもんね。」
「・・・そんな事確認しなくていい。」
迷惑そうに言うと、照れ隠しにマフィンに噛り付く。
こんないい反応してくれるから、もっとやりたくなるんだよ。
「いーじゃねーか、欲しい人からちゃんと毎年貰ってんだから、義理だけど。」
「義理だけど、きっとしっかりお返しするんだよね?」
「どうせこの義理チョコは、大事に持って帰るんだろ?」
「・・・義理、義理うるさい。」
「悔しかったら、本命に昇格させてみろ。」
航の最後の一撃で完全に不貞腐れてしまい、機嫌を直すのに結構時間を費やした。
「はい、じゃぁこれあげる。」
航の催促から結構経ち、やっと二つの箱をカバンから出してそれぞれに渡した。
「聡太がピンクか?」
「朋ちゃんありがと、空けていい?」
「どぞ、航も拗ねてないで、早く開けて。」
急かすと、口を尖らせながらもやたらと丁寧に緑の包装紙を開け始めた。
「あ、抹茶だ。」
「おおっ、小さなケーキだ!!」
そう、可愛らしい小さなケーキの形をしたチョコレートだ。
お店で見かけて一目惚れしてしまった。
「これ食べたかったんだ。」
航より先に狙っていた一個を奪って、口に入れた。
「うん、美味しい。」
「自分で食うのかよ・・・。」
航は顔赤くして不満を漏らした。
*--*--*--*--*--* Side C 史稀(P.N)
玄関で音がする・・・また来たな。
まったく、いつもチャイムも鳴らさず勝手に上がりこんでくる。
だが、いつも飯を持って来てくれているので、俺には何も言えない。
描き上げた冬の絵を前にしてコーヒーを飲んでいた。
寒い冬、雪の下の凍える地中で
硬く閉じた種の中で春を待ちわびる花を描いた。
再生、誕生のイメージが有り、遥か地の底からという意味で雪面から種までの
地面をモノトーンのグラデーションと、子宮を表す丸みを帯びた種の中は
温かいオレンジやピンクにした。
中で眠る菫の花も、胎児のように丸くなっている。
『Shiki』と名を入れたから、もうこれで終わりだ。
・・・だが、本当にこれでいいのか? いや、俺はすべて描き切った!
その間で、いつも心が揺らぎ、終わりだという決心がつかない。
プロの絵描きならこんな事で悩まないんだろうな・・・まぁ、趣味の域を超えない俺が
そんな事を悩んでも仕方が無いのか、いや、こんな事を考えてるから俺は・・・
目を閉じて頭を振った。
よし・・・終わりだ。
もうこの絵の事は頭から切り離して、次の事を考えよう。
「あー寒かったー。」
彼女は上着も着ずに来たらしく・・・と言っても、
一階分上がって来るだけなので面倒だったのだろう。
紙の袋をテーブルに置くと、俺の後ろに立って覗き込んできた。
「あっ、名前入ってる。完成?」
さっきまでの俺の物思いを知らないくせに、見事に触れてくる。
「あぁ、終わりもうこぉっ!?」
彼女は大笑いだ。
「冷てぇよ!! 小学生かお前は!?」
冷たい手が首筋に当てられた。
あー、くそっ、少しコーヒーが足にかかったじゃないか。
まだ笑っている彼女に苛っときながらカップを置いて、ティッシュに手を伸ばした。
「・・・お前、今まで家に居たんじゃないのか?」
「あぁ、洗い物してそのまま来たから、やっぱ温めずに来て正解だった。」
両手を開いてヒラヒラさせながら、怒り難い理由を挙げる。
再び笑い始めた彼女に少々苛つくものの、俺はいつもこいつに勝てる気がしない。
溜息を一つ吐いて、その手を捕まえた。
「本当に冷たいな、余計な事しなくていいから温めてから来い。」
「・・・あ、ぁうん。」
それきり何も喋らなくなった。
すっかり大人しくなってしまった彼女を不審に思い、顔を見上げると固まっていた。
・・・あぁ。
手を離して、飲みかけのコーヒーのカップを渡した。
もう熱くもないが、ぬるくも無い。
「これでも持っとけ、温まるだろ?」
「別にいいのに・・・。」
まだ赤い顔をしているが、口を利けるようにはなったらしい。
「俺がよくない。また冷たい手で触られたくない。」
「・・・じゃぁ、手を背中に入れるのは?」
何を言い出したのかと、一瞬考えてしまった。
手を握られたくらいで固まるやつが、背中だと?
「・・・駄目に決まってんだろ?」
「ちぇっ、」
少し離れたところで、口を尖らせている。
「何が『ちぇっ』だ。」
・・・まったく、こいつのこういう所はまるでガキだな。
彼女が帰ってから、テーブルの袋の中を覗いた。
腹が減ってきたので、ありがたく弁当を頂こうと思ったからだ。
弁当代わりのいつもの容器の上に、今日は見慣れないものが乗っている。
青いリボンのついたシールで封のされた、小さな茶色い紙袋だ。
携帯を開いて日付を確認すると『02/14』と表示されていた。
・・・なるほど。
袋を取り出すと、下に一枚のメモがあった。
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史稀へおすそわけ。
それと この間泣いた事は
きれいさっぱり忘れてくれ!
美晴
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おすそわけ?
あー、泣かれたのは別に・・・
忘れろと言われても、忘れられるものでもないし・・・
おすそわけ・・・
・・・何だ、このがっかりしたような感覚は?
弁当もマフィンも美味しく頂いたのだが、
何となく・・・そう何となく面白くない気分が拭えず、苛つくのは何故だ?
*--*--*--*--*--* Side A 大垣美晴
「ねぇ和歌奈、あれ本当に全部配ったの?」
ソファの上にあぐらでテレビを見ていた妹に、気になっていた事を尋ねた。
「うん、もっちろん! もうホワイトデーが楽しみぃ~。」
・・・バレンタインっていうより、そういうのは撒き餌って言うんじゃないのか?
「自分は何もしてないくせに・・・。」
正しくは『させなかった』が正解だが、そこは問題にしない。
「えーっ、ラッピングはやったよ? それに、一人一人配るのって大変なんだよ?」
ならしなきゃいいのに・・・妹はおかしな理由で胸を張る。
確かに袋に入れたのは妹だが、モールで閉じたのは私だ。
・・・そう、結局しっかり手伝わされたのだ。
思いっきりボランティア的な、『義理です!』ってチョコに、
一体どれだけのお返しが期待できたものか。
・・・あ、メモにお返しいらないって入れるの忘れてた。
明日にでも言っておこう。
読んで頂いて、ありがとうございます。
思いつきでやっちゃったんですが、
「不思議な人。」の、延々美晴語りだったとこが、
思わぬ事で、芳彰(この時点では史稀)目線で書けてかなり(自己)満足です。
芳彰の描いた絵は挿絵の通りです。
油絵じゃなくって色鉛筆で描きました。
ケーキの形のチョコは存在してて、近いうちに買おうと思っております。
そして、朋花のように1個奪って食べる気満々です!
そもそもは、朋花と美晴の接点が無いので、先で困るなって、
間を埋める話を考えてたんですが、作中の11月~9月までの間にそこそこ仲良くなっててくれないと。
と、まぁとりあえずバレンタインだし、それで行っちゃえっていう軽いノリで♪
楽しんで頂けたら幸いです。