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虹に届くまで  作者: 爽風
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第九章 4.罠

暴力表現あります。

苦手な方はご覧になるのをお控えください。

あたしはあの後台所に移動して夕食をトキさんと一緒に作っていた。

今日のメニューはいもの煮っ転がしと大根とみず菜のじゃこ和え、小魚の甘露煮だ。

気合い入れて作ろう!

斎藤さんと話して少し元気がでた。

別にやましいことなんて何もない。

あたしは信じてもらえるように自分のできることをするしかないんだ。


夕食もほぼ完成してあとは大部屋に運ぶだけだ。


「うん、われながらいい出来。」


あたしは味見をして顔が綻ぶ。


「じゃあ、まこっちゃん、うち今日は早めに失礼するけど、あとよろしゅうな。」

「はい、わかりました。」


トキさんがたすきと手ぬぐいを外して外へ出ていく。

あたしは完全に油断していた。

自分の夕食の出来に満足して普段なら注意すべき人の呼びかけにも完全に気がつかなかったのだ。


「水瀬」


ふと名前を呼ばれて振り向くとそこには伊東さんと一緒に上洛してきた人が居た。

名前は忘れたけれど、腰巾着みたいに伊東さんについている姿はよく見かける。

小柄でいつも一重の鋭い目と常に眉間にしわを寄せて口を引き結んでいる様子は不機嫌そうで、あまり話したいとは思わない風貌だ。


「何かご用でしょうか?」


あたしは少し警戒した。

こんなに近くに来るまで気がつかなかったなんて。


「そんなに緊張するな。近藤局長がお呼びだ。」

「近藤先生が?」


何の用だろう?


「火急の用だとのことだ。連れてくるように言われておる。」

「承知しました。」


あたしは水のついた手を拭いてたすきをはずし、その人の後について台所を出た。

外はすでに暗くて風が沁みるように冷たい。

もう冬がそこまで迫っていた。

あたしは暗闇に一歩踏み込んだその時、


背中から何者かにはがいじめにされた。

何!!!

あたしはとっさに充て身を食らわせて相手がひるんだすきに裏剣で殴りつける。


「ふぐ!このアマ!なめやがって!」


声のした方とは逆の方から肩口を思い切り殴られる。

何が起きたのかわからない。

ただ相手は複数であたしは圧倒的に不利な状況だということは分かった。


あたしは相手の脛を狙って蹴り上げる。


「ってえ!」


「きゃっ!」


あたしは肩を掴まれその場に押し倒される。

しまった!

間合いを取っていれば柔道の技をかけることもできるけれどこんな風に身体を押さえつけられてたら逃げられない!


「なにす…」


ガツン


顔の左側半分に衝撃が走り、すぐに痺れるような痛みと血の味が広がる。

殴られたんだ。


口を覆うごつい手。

足を、手を抑えられてしまい、標本の蝶のように地面に縫い付けられたあたしは完全に動きを封じられてしまっていた。

この野郎!!

何するんだ!


「ん!んんん!ん~!」


あたしは手足をばたつかせるけど、その手はびくともしない。


「早くっ!くっそ!なめやがって!」


あたしの腰の上に馬乗りになっている男が指示を出すとあたしの口を今度は無理やりこじ開けて素早く白い粉と水を流し込む。

毒だ!!

あたしはそれを飲まないように必死に喉を塞ぐけれど、鼻と口を大きな手で覆われ抵抗むなしく苦い液体が喉を流れていく。


何これ!!

嫌だ、嫌だ!!!

気持ち悪い!!


ドクンドクン…

心臓の音が妙に大きく聞こえ、胸が苦しくなる。

手足が猛烈に重い。

目の前の視界がぐにゃりと歪み、涙があふれてくる。


あたしを拘束していた手はすでに離されていたけれど、身体がひどく重くて指動かすことすらできなかった。


ダメ…

ダメだ…逃げないと…

逃げなきゃ…


「だいぶ効いてきたようだな。手間取らせやがって。」

「おい、早く運ぶぞ…」


あたしの体ずだ袋のように肩に抱え上げられてしまった。



ドサ


あたしはいつの間にかどこかの部屋に運び込まれていた。

ドクンドクン…

動悸が激しく、息が浅くなる。


「あ…」


あたしはなんとか身体を動かそうとするけど手も足も痙攣が走っていて力さえ入らなかった。


シュッ


誰かがあたしの袴や着物を剥いでいく。

ガサガサ…


「男みたいなのに、肌は案外白いんだな…」

「体つきも華奢だが…こんな格好をしているのは…どいつの趣味だい?」


男たちの嘲るような声が聞こえる。

これは…何の夢なんだろうか?

悪い冗談だと言って欲しい。


さらしが乱暴にずらされて普段現わにならない部分が夜の空気に晒され、鳥肌が立つ。


「おい、水瀬。どうだ?嫌だったら逃げてみろよ。お前は剣にも自信があるんだろ?え?」


顎を持ち上げられ酒臭い顔を近づけられる。

嘲る声に何とか抵抗したいのに、身体がぐにゃぐにゃで痺れて全然力が入らない…


「一体何人の男と寝てんだ?

他の幹部の大先生らにしているように…俺らも楽しませてくれよ。」


暗がりでもわかる男の欲望…


いや


あたしに触らないで…。


重みが体を覆い、耳や首筋をナメクジみたいに気持ち悪い舌が這う。


ハアハア…

荒い男の息遣い…


「女の匂いだ…。たまんねえなあ。」

「おいおい…早くしないと見つかる!俺にもまわせ。」


這い回る手が…

肌の上を手が通る。

あたしの胸やお腹を硬い手のひらが這い回っている。



嫌だ、嫌だ…。

なのに何もできない…。

肌に触れるごつごつした手の感覚があるのに、どこか人ごとみたいですべてが遠かった。


「この体で何人の男くわえ込んだんだ?え?この売女!じゃなきゃ男のカッコしてこんなとこいねえよな?」


あたしの両足のあいだに割って入る暗い影…


あたしは次に襲ってくる痛みに覚悟した…


自分が今までやってきた剣や、任務やいろんなことがひどく穢されて陳腐なものに成り下がっていく。

男女平等なんて誰が言ったんだろう?

この状況で、明らかに女は男から逃げられない。

指いっぽん動かせないこの絶望的な状況は何なんだろう?


知らない…

何これ…

気持ち悪い…

あたしに触らないで!!!


あたしは声の限りに叫んだけど声はかすれて少しも出すことはできず、頭をイヤイヤと振って抵抗しようとしたけど、顔をまた殴られるだけで抵抗を諦めていた。


「うるせえ!何が女でも隊士だ!幹部の性欲処理の癖に!」


ガツン


もう何度目か分からない拳を顔に受けて、喉の奥を鼻血が流れ落ちていくのを感じながら、あたしは意識を手放した。




……!

「…せ!

水瀬!!」


目を開けると斎藤さんと総司があたしを心配そうに覗き込んでいた。


あれ?

なんで、あたし何してたんだっけ?


身体を起こそうとするけれど、全身に痛みが走って顔をしかめる。

「水瀬!」

「まこと!」

二人が同時に声を発し、

総司があたしの手首をつかんだ。


「!」

その瞬間記憶がフラッシュバックする。

ナニガアッタ?

あたしは…

なにをされた…?


這い回る手が…

自分は何も抵抗できなかった…



「…いやっ!」

あたしは思わず総司と斎藤さんを振り払い耳をきつくふさいで痛む体を無視して身体を丸めた。

何も聞きたくない。

何もいらない。

お願いだからあたしをほおっておいて。


「…っっっ!」

あたしは声にならない悲鳴を上げ続けた。

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