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虹に届くまで  作者: 爽風
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第八章 12.真実の告白、家族

翌日、あたしは屯所に戻り、幹部以上がいる副長室に入った。

総司や斎藤さんは緊張した面持ちであたしを見て、慌てたように目をそらした。

珍しく山崎さんもいる。

そういえば山崎さんにはあたし本当のことを話しかけたんだった。

あの頃は自分でも真実がつかめないままだったけど。

でも全然信じてもらえなかったっけ。

そのままはぐらかしてしまったけど、今日はどんな反応をされてもあたしのありのままを話そう。


あたしは一番ふすまに近い下座に左肩をかばって座ると一度頭を下げる。


「今日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。

今日こうして集まっていただいたのは、私の本当は何者なのかを皆さんにお話する為です。」

「…続けなさい。」


近藤先生がいつになく厳しい顔であたしを促す。


「今からお話しすることは信じてはもらえないかもしれませんが真実です。」


あたしはそこまで言うと一区切りして深呼吸をし、そして口を開いた。


「…あたしは…この時代の人間じゃないんです。

今から150年先の日本からここに来ました。」


「「「「!」」」」


誰もが目を見開き息をのむ音が聞こえた。


「あたしはもともとは東京…今の江戸で生まれました。母はあたしが小さい頃に亡くなったので、医者の父と3人の兄と一緒に暮らしていました。一番上の兄が結婚することになったので、その報告のために京都の祖父の家に行くことにしたのです。祖父は剣道道場を開いていて、その影響であたしたち兄弟は小さいころから剣道や柔道を習っていて、よく手合わせしてもらってたんです。あの日も祖父と立ち合いをしていました。祖父との立会いの跡、近所の壬生寺へ行くと季節外れの大雨が降り出し、落雷が直撃したんです。

目の前が真っ白で、次に目が覚めたとき、あたしは壬生寺の境内に倒れていました。

そのあとは…総司に助けてもらってここにきました。

今日までこのことを隠していたのは、自分の身を守るためでした。未来から来たことが新撰組にとって都合が悪かったら殺されるかもしれない、と思ったからです。」


皆眉をしかめ息を殺したまま微動だにしない。


「…まさか…そんなことが…」

「うそだろ…」

「時渡り…ってことか?」


みんな当たり前だよね。

突拍子も無さすぎるもの。


「…それから…本当のあたしの身体はまだ150年後で眠ったままなんです。」

「な…!」

「つまり…魂と身体が離れた状態で今ここにいるあたしは仮の身体を持った心だけの存在なんです。だから死ねばなんの痕跡も無く消え去ってしまうのです。この前私の姿が透けて見えたのはそういう事だと思います。」

「…戻れないの?」


総司が沈黙を破る。


「「「!」」」


みんな一斉にあたしに目を向ける。


「たぶん、戻れません。死ぬまで。」


あたしは小さく笑って首を横に振った。


「そんな…!」

「魂が身体を離れるっていうのは、命をすり減らすんじゃないのかい?

死ぬまでってそんなに長く居られるのですか?」


山南さんが言った。

鋭い人。さすが博学な山南さんだと思う。


「…死がいつ訪れるかなんて誰にもわからないでしょう?明日かもしれない、10年後かもしれない、それはみんな同じだから。

でも身体が先か、魂が先か、どちらかが力尽きたとき、もう一人の自分も死ぬんだと思います。」


あたしはきっとそんなに長くは生きられない。

でもそれをここで話す必要はない気がした。

だってみんなだっていつ死ぬのかわからないから。

自分の死よりも仲間の死のほうがずっと堪える。

遺された人のほうが辛いのだから。


「なんという…!!」


皆んな眉根を寄せて一様にしかめっ面をしている。

近藤先生などはうつむいて表情が見えない。


「ただ、皆さんを騙して偽ってきたこと本当に申し訳ありませんでした。どのようなご処断も甘んじて受け入れます。」


あたしは右手をついて頭を深く下げた。

畳の目が近くなってかすかにい草の香りがする。


「水瀬君…顔をあげなさい。」


ふと呼ばれて顔を上げると、近藤先生が近くまで来ていた。

まっすぐにあたしの目を見つめてその瞳には泣きそうなあたしが映りこんでいた。

そしておもむろに口を開いた。


「俺はかなり怒っている。」

「!」


仕方がない。

ずっと黙っていたのだから。


「なぜ、こんな大事なこと、話さなかったんだ!?」

「!?」

「初めに自分の身を守るためと言うのはわかった。しかしそのあといくらでも話す機会はあっただろう?俺たちは君を仲間として、家族のようにも思っている。そんなに俺たちは信用ならなかったのか?」

「!違います!!ただ…怖かったんです。自分の存在も曖昧で、生きているのか死んでいるのかも…今ここにいる自分は何なのか…なにが真実なのかそれすらもわからなくて…。

ただ…ただあたしは…新撰組が、みんなが大好きで、そのことだけは自信を持って真実だと言える。これだけは信じてください!」


あたしは自由の利く右手で近藤先生の着物をつかんだ。


「約束しなさい。」


近藤先生はあたしの背中に手をやり優しい声色で言った。


「もう二度と一人で抱え込むんじゃない。

君は本当に無茶をしすぎる。もう二度と…ご家族には会えぬのだろう?ならば、私たちを家族として思い、甘えてはもらえぬか?」


近藤先生の言葉は乾いた大地に降る恵の雨のようにあたしの心に優しく沁みいる。

ぱた、ぱた…

畳に涙が音を立てて落ちる。

ああ、あたし、本当に幸せ者だ。

あたしのもう一つの家族がここに居る。


「…はい…。」


あたしは喉から声を絞り出すと深く頷いた。

その拍子に両目から涙のしずくがまた一つ畳に音を立てて落ちた。


「よし、皆見ての通りだ。水瀬真実は改めて新撰組の仲間だ。君が死するその時まで、ここを家と思い、家族と思いなさい。」

「はい!」

「「おう!!」」


みんなありがとう。

こんなあたしを受け入れてくれて…。

だからあたしは命尽きるその瞬間まで、みんなと共に有ることを誓います。

きっとみんなの志を何があっても見届ける。

それがあたしの使命なら、きっとやり遂げてみせる。



ねえ、みんな聞こえてる?

あたし、幕末で家族が出来たよ。

みんな優しくて不器用で、でもあったかい。

だからさみしくないよ。

お父さんみたいな近藤先生、

つー兄みたいな永倉さん、

あき兄みたいな総司

斎藤さん、山崎さん、佐之さん、平助くん、山南先生、そして土方さん。

ほかにも家族がいっぱいいる。

親不孝者でごめんなさい。

もう二度と会えないけど、

あたしはここで自分のなすべき事を果たすよ。

だから心配しないで。

悲しまないで。


遙か彼方の幕末から真実より

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