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虹に届くまで  作者: 爽風
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第八章 2.池田屋事件、武者震い

「では二手に分かれて行動する。

近藤局長、沖田、永倉、藤堂、奥澤、新田、安藤、谷、武田、浅野以上の10名。

山南さん、山崎は屯所を固めてくれ。残りを土方隊とする。

倒幕派の会合が開かれるのが濃厚な四国屋と池田屋を中心に探索を行う。」


池田屋!

これが世に有名な池田屋事件なんだ。

ああ、あたしってなんて使えない。

名前だけしか知らなかったなんて…こんな経緯で起こった事件だなんて!

そうだ!総司…

総司が結核になるのもここ?

そんなの…ダメだ!!


「土方副長!!」

「何だ水瀬?」

「私は?」

「お前は残れ。倒幕派に顔が割れてる。危険だ。」

「私も連れて行ってください。お願いしま「水瀬。」」


土方さんはあたしをさえぎって言った。


「そう言っても無駄だということはわかってた。いいだろう。死ぬかもしれねえぜ。」

「もとより覚悟の上です。」

「…フン、ただし近藤さんのほうについていけ。四国屋のほうが濃厚らしいからな。」

「!…はい。」


あたしは知ってる。

池田屋で起きることが。

でも本当に?

歴史は変わるかも知れない。



「土方君、すまない。この大事な時に…。」


山南さんが青くなって言う。

昨日から山南さんは身体の調子を崩して寝込んでいるのだ。

熱と嘔吐で、だいぶやせてしまった。


「いや、あんたはここで屯所をしっかり固めてくれよな。」


土方さんは山南さんの肩を叩いて言った。





夜がすっかり更けあたしたちは探索に出発した。

武具は予想以上に重くて暑い。

熱中症になりそうだ。


「ご武運を。」

「武運を。」

「新撰組、いざ!!」


みんな腕をからませたり、刀を抜いたりしてその健闘を祈っている。

死ぬかもしれないのに…。

みんなまっすぐな目をしていて、恐怖などは微塵も感じられなかった。

”ご無事で”じゃないんだな。

無事で帰ることよりも、死んででも志を達成しろってことなんだ。

総司に特に体調の変化はみられない。

ただ厳しい顔でいつもの穏やかさはなくて、冴え冴えとした月のように冷たい表情だった。

初めて総司と立ち会ったときに似ている。

あの時もこんな風に殺気を身にまとっていて、触れることのできないほどの凄烈な空気を身にまとっていた。


子の刻。

あたしたちがしらみつぶしの捜索を始めてからかなりの時間がたった。

汗で武具の中の着物はぐっしょり濡れている。


”池田屋”

そう書いてある提灯の前に立つ。

ついに来たんだ。

歴史の中にみを置いていることに改めてその重みを感じ、あたしは全身が総毛立つのを感じた。


「どうやら土方の予想は外れたらしいな。

では中に入る。先駆けとして切りこむのは沖田、永倉、藤堂、そして水瀬。」

近藤先生があたしをみて不敵に笑った。

「!」

「先生!水瀬は外のほうが…。」

皆が意外そうな顔をし、あわてて口を挟む。

「水瀬君の剣の腕と強運はこの中の誰にも負けてはいないからな。」

「でも…!」

「これはわれわれが勝つための布陣だよ。勝つために水瀬の先駆けが必要だ。危険だとしても。

ここに居る以上安全な者は一人もいない。

それぞれが自分の役割を果たすのだ。いいな。」

「…」


みんな一瞬目を見開き、そして互いに頷き合った。

あたしはうれしかった。

近藤先生は一人の隊士としてあたしを買ってくださっている。

みんなが認めてくれた。

あたしは一人の人間としてここに居ることを認められている。

全身にふるえが走った。

怖さと緊張感はもちろんある。

でもこれは武者震いなのだと自分に言い聞かせる。

「「武運を。」」

みな小声で言いあった。



近藤先生が池田屋の暖簾をくぐる。

「新撰組でござる。旅客改めをされたし。」

「し、新撰組だ!!逃げろ!!」

私たちは池田屋になだれ込んだ。


歴史の大舞台の幕が今、上がった。

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