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虹に届くまで  作者: 爽風
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第七章 7.任務報告、帰る場所

帰ってきた。

新撰組。

あたしの心が求めてやまない場所。


みんなが出迎えてくれてすごくうれしかった。

総司が、近藤先生が、山南先生が、佐之さんが、永倉さんが、平助君が、斎藤さんが…そして土方さんが…迎えてくれた。

帰ってきたんだ。

ここがあたしの生きる場所だ。

身体は平成の現代にあるのかもしれない。

本当はここに居ないのかもしれない。

でも、今こうしてみんなに逢えて、みんなのことが大好きで…

心のそこからうれしいと思う。

この気持だけは本物だって胸を張れる。

あたしがずっとここに居れば現代にあるあたしの身体は確実に寿命をすり減らすだろう。

そしてあたしの身体の寿命が尽きたとき幕末のこの時代を生きるあたしの存在はここから居なくなるだろう。

それは予感、ううん、確信だ。

あの夢はきっとそういうことなんだと思う。

でも、それでもあたしはここで、新撰組で生きたい。

みんなと一緒に走っていきたい。

みんなが、新撰組が…土方さんが…好きだから。





あたしは帰ってきた翌日、局長室で、近藤先生と土方さんと向かい合っていた。

近藤先生は相変わらずいかつい顔にえくぼを作って笑っていて下さっていて、土方さんは眉をしかめてやっぱり難しい顔をしていた。

でもそれでも大好きだと思う。

あの日”こいつに指一本でも触れてみろ”そう言ってくれたこと、すごくうれしかった。

あたしを送りだした罪悪感でも、なんでもいい。

ただ全身で守ろうとしてくれた土方さんの優しさが、ただそれだけで、あたしをこの上なく幸福を感じられる。


「よく眠れたかい?」

「はい、久々にぐっすりです。いろいろご迷惑おかけして申し訳ありません。」

「いや、本当によく帰ってきてくれた。いろいろ辛いこともあっただろうに…」

近藤先生は本当に涙もろい。

目頭を押さえる近藤先生を見て、土方さんが口を開いた。

「水瀬、任務ご苦労だった、お前が残した情報の”マスヤ、フルタカ、カヤク”は今山崎に調べさせているが、ほかに何かつかんで来た情報はあるのか?」

「はい。マスヤのフルタカと言う人が今回のたくらみの一端を担っている様子でした。その計画には火薬や武器が必要とのこと。あとはこれは私にはよくわからなかったのですが肥後守様と中川の宮様の暗殺、それから玉を奪うのだと話していました。」

「「なんだと!!」」

二人は気色ばんで身を乗り出した。

「…畜生、あいつらここで一気に佐幕派の要人を排除して、帝を奪う気か!」

「火薬とはもしや御所か都を焼き討ちにするつもりではないのか?何ということだ!断固阻止する!!」


要人暗殺!?

帝…天皇ってことだよね…。

天皇の誘拐!?

ヤバいでしょ、いくらなんでも!


「山崎、聞いているか?」

土方さんが天井に声をかけると、天井の板がずれて音もなく山崎さんが下りてきた。


「うわ!」


あたしは驚いて後ろによろける。

山崎さんって忍者なの?!


「枡屋の調べは付いとります。ただフルタカという人物についてはまだ…」

「ああ、では監察方をあげて走急に頼む。」

「承知。」


そういうと山崎さんはふすまを開けて静かに局長室を出ようとして振り返った。


「…ああ、副長。言い忘れたことが。」

「なんだ?」

「水瀬の出自が分かりましたよ。」

「え?」

山崎さん何を言い出すの?

あたしの存在の痕跡がどこにもないことを言うの?

待って、まだ心の準備が!

万事休す。


「江戸に水瀬という医者が2年前まで居たそうです。一人娘が居たそうですが、父親が病死した後京都へ向かった後、娘の行方はそのあとわかっていないと近所の人間が言っていました。」


山崎さん…うそついてくれるの?

あたしのために…


「…そうか。山崎ご苦労だった。」


土方さんは安堵したように表情を和らげて言った。


「辛い思いをしたのだな、水瀬君…。安心しなさい。ここが君の居場所だ。」


近藤先生は柔らかく笑いあたしの肩をポンと叩いた。

その拍子に涙が一粒目からこぼれた。


山崎さんは満足そうに去って行った。


ああ、ごめんなさい。

こんなにいい人たちに嘘ついていて。

いつかちゃんと話そう。

信じてもらえるかどうか怖いけどやっぱり言おう。


あたしたちの季節はまだまだ始まったばかり。

きっとたくさんのことがまっている。

でも…あたしは大好きなこの人たちのためにきっと走ろう。


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