第七章 4.君の笑顔、再び:沖田総司
日増しに緑が濃くなっていて、気付くと驚くほど日差しがきつくなっていた。
季節は足早にまことを置いてきぼりにして素知らぬ顔をして日々が通りすぎていくのだ。
今朝、まことの夢を見た。
美しく女髪を結い上げ、控えめな薄紅の着物を着て、微笑みながらたたずんでいる。
何を話すわけでもなくただ笑ってこちらを見ているだけなのだけれど私は泣きたくなるくらいに幸せだった。夢の中でも会えたから。
目が覚めたとき頬に涙のあとがあって、そんな自分が女々しくて苦笑いが浮かんだ。
会いたかった。
ただ会いたかった。
巡察から帰って井戸で手や足を洗いながら、そんな物思いに沈んでいると「何者!?怪しいやつ!」という声で現実に引き戻された。
声の方へ歩み寄ると小柄で墨染の法衣を纏い笠を目深に被った人間が屯所の前にいる。
門番の当番の隊士がその人物を睨んだ。
その人が笠を徐に取り払ったその時、黒髪がふわりと夏の風に舞った。
そこに立っていたのは、
柔らかな笑みを浮かべた
…まことだった。
!
なんで…
これは夢?
幸せな夢の続きなのだろうか?
ドクン
心臓が高鳴るのを感じた。
「水瀬!」
「水瀬!おかえり!」
「もう体はいいのか!?」
わらわらと隊士たちがまことを囲み帰還を喜んだ。まことが密偵に行っていたことを知っているのは幹部以上だからみなは江戸に療養していたと思っているのだ。
「…」
私は喉に舌が張り付いてしまったようで声一つ出せなかった。
何か少しでも言葉を発してしまったら、きっと全てが溢れてしまう。
私はその場に呆然と立ち尽くすしかなかった。
まことは人垣の中で皆に挨拶して会釈しながらそこを離れた。
そしてふとこちらを見た瞬間、私はその真っ直ぐな眼差しとぶつかった。
!
ドクン
心臓がまた一つ大きく跳ねる。
まことは一瞬目を見開き、そして泣き笑いみたいな表情になった。
そしてその刹那、私に向かって一気に駆け出してきた。
「総司!!」
柔らかい衝撃。
まことは私に抱きつくと、一度胸に顔を埋め、顔を上げ、輝くような笑みを浮かべて言った。
「ただいま!」
ああ、私はこの笑顔に会いたかったんだ。
日陰に日の光が当たったように急速に心が暖かくなっていく。
私は不覚にも鼻の奥がつんと痛くなったけれど、まことの背中にそっと手をまわし一度だけしっかりと力を込め、そして震えそうになる声をどうにか押し込めて言った。
「おかえり…。」
手のひらから確かに伝わるぬくもり。
ああ、生きている。
確かに生きて、今ここで輝く笑顔を見せてくれている。
華奢なこの身体のどこにこんな強靭な精神力を秘めているのか。
引き裂かれるように辛い痛みもあったにちがいない。
でも、まことがこうして生きて、笑ってくれている。
今この瞬間に勝る喜びと安堵は後にも先にも私の人生に無いように思えた。