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虹に届くまで  作者: 爽風
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第七章 1.交錯、現代と過去

違和感を覚えた。

目の前にあるのは白い天井。

ガラスの窓の向こうには青い空が見える。


そしてベッドに横たわるのは


…あたし自身。


人工呼吸器をつけられ、点滴やらなんやら体にチューブが何本も取り付けられていている。

顔は青白くて、生きているとは思えない。

プシュー、プシュー

器械からは規則的な音が響いている。



何これ?

なんで?

あたしは五条大橋から川に落ちたはずなのに。

なのにあたしは明らかに現代の病院にいる。


あたしは夢を見ているんだろうか。


ガラガラ


病室のドアが開くと、すー兄が入ってきた。

(すー兄!あたしここにいるよ。)

あたしは声をかけるけれど、届かない。

すー兄はあたしの枕元の椅子に腰かけると、髪をなでながら言った。


「まこ、もう一か月だぞ。お前が雷に遭ってから。早く戻ってこいよ。お前の飯がないとおやじも明も調子でねえんだよ。」


そのとき病室のドアが開いて白衣を着たお医者さんが入ってきた。

お医者さんはすー兄の隣に立ち、そして声をかけた。


「水瀬さん、雷の直撃を受けて今こうして生きているのは奇跡的です。しかし脳に相当な損傷を受けています。意識を戻す確率は0に近いでしょう。生命維持装置をつけていても、余命は長くて半年ほどだと覚悟してください。もしも急変した時延命措置を行うかどうかご家族でよくご相談なさってください。」


医師はつとめて淡々と言う。


「…わかりました。」


すー兄は苦しそうに頷いた。

(すー兄…ごめん!あたしここにいるよ。心配掛けてごめん!!)

あたしはどんなに叫んでもすー兄にそれが届くことはなかった。


これは夢?

でも夢と言うには余りにリアルでつじつまが合いすぎた。

あたしが幕末にタイムスリップしたことが夢なのか、

それとも、今ここに居ること自体が夢なのか、

あたしには測りかねた。

あんなふうに幕末で、新撰組に身を置いていたあたしは何?

新撰組でのことはあたしが生み出した妄想なんだろうか?

もしあたしの身体は雷に遭ってからずっと眠り続けているのに、

魂だけは幕末に飛んでいたとしたら?

そんなことってあるだろうか?

確かにあたしは血を流したりするのに。

あたしは…何者なんだろう?

それに余命半年?

だったら余計早く戻らないと。

あたしは目の前で眠っている自身の身体を触ってみようと手を伸ばした

その瞬間


不意に景色がぐらりと揺らが、

あたしの意識は闇に飲み込まれた。









…苦しい。

何?

誰?


「…」

「…っ!」

「しっかりしいっ!!」


胸をものすごい力でたたかれる。

痛い。

苦しい。


ゲホッ!ゴホッゴホッ!


あたしは胸の奥からせりあがってくるものを抑えきれなくて、せき込んだ。

次の瞬間には大量の水をはきだした。


「ああ、生き返ったわ。ホンマに阿呆か!!

なんで身投げなんかしたんや!

せっかく親からもらった命粗末にして罰あたんで!!」


ものすごい剣幕で怒っているこの人は誰?

お坊さん…?


「っと…」


あたしは喉がひりひりしてうまく声が出せなかった。


「こうして生き返ったんも仏さんの思し召しや。とにかく今はゆっくり休み。」


誤解です。と理由を説明したかったけど、とにかく眠くて、身体が重くてあたしは吸い込まれるように目を瞑った。


助かったって言っていいのかな?

あたしまた幕末に戻ってきたのかな…


あの病院でのあたしは夢だったんだろうか。

とにかく、今は何も考えられない。

眠りたい。

何も考えずに。


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