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虹に届くまで  作者: 爽風
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第一章 5.1863年京都:壬生浪士組屯所

降りしきる雨の中をコスプレの人に支えられながら、しばらく歩くと大きな門が見えてきて、その人はそこで立ち止った。

門の前には「壬生浪士組」と書かれた看板がかかっている。


壬生浪士組…ってなんかきいたことがある気がするけどなんだっけ。

それにこの門構え、どこかで見たことある気がする…。

あたしは自分の見知ったものを探そうと頭を必死に働かそうとしたけれど、寒さと心細さでうまく考えられなかった。

このコスプレの人にもすごい迷惑かけて申し訳ないな。


「さあつきましたよ。とにかく中に入って冷えた体をどうにかしましょう。」

「すみません…。」


寒くて歯の根があわなず、あまり言葉が続かない。



屋敷に入るとそこは中庭も含めかなり大きくて和室が何部屋もある。

くねくねいろんな所を回ってふすまを開けて部屋に入る。

ものは置かない主義なのか余計なものは一切ない。

その人は奇麗にたたまれた着物をあたしの前に置いた。


「ここは私の部屋です。とにかくこれに着替えてここで待っていてください。

副長に報告してきますから。」


ふくちょう?


「あ、申し遅れましたが、私は壬生浪士組副長助勤沖田総司です。

とにかく安心して今日はゆっくり休みなさい」


あたしはそれを聞いて瞠目する。

その人はそこまで言うとあたしに背を向けて出ていこうとするのを思わず呼び止める。


「待って…!」


沖田…総司?!

新撰組の?!

そんなのありえない。

あるはずない!

だって沖田総司は幕末の人だもん。

こんなとこにいるはずがない。


でも


どこを探して見当たらないおじいちゃんち


現代のものが一切ない見なれない京都の町並み


着物に刀の時代劇みたいなかっこ


壬生浪士組と書かれた看板


沖田総司と名乗る男



不意に頭に浮かんだ馬鹿げた想像を振り払いたくてあたしはどうにか声を絞り出した。


「今は…西暦…何年?」


お願い…どうか…

どうか…

神様…!


沖田総司と名乗る男はあたしの呼びかけに振り向き、少し首をかしげて口を開いた。


「おかしなことを聞きますね?

セイレキというものがなんなのかはわかりませんが、今は、文久三年の如月ですよ。

では失礼しますね。」


その人はふすまを開けて出て行った。


文久3年…

如月…


資料館で見た年表は何年から始まってた?

あたしの脳裏にパンフレットの無機質な文字が浮かび上がる。

”文久3年 試衛館派、水戸派上洛。”


「…ぶんきゅう…3年…。」


文久3年、1865年…


そこから導き出される符号…


…タイムトリップ…


頭に浮かんだフレーズを振り払おうとしたけど、どうにも今いる自分の状況はタイムスリップ以外に説明がつかなくて、あたしは目の前が真っ暗になった。


マジか!!

まるで漫画の世界じゃん。

ていうより、あたしこれからどうすればいいの??

元の世界に帰らなきゃ。

でもどうやって!?

それよりも仮に帰れるとしてもそれまでどうやって…ここで生きていけばいいの?

新撰組なんて幕末なんて…怖いよ…


ホントのこと言う?


でも未来から来たなんて絶対信じてもらえない。

もし仮に、目の前に150年先の未来から来ましたなんて言う人が現れたら、あたしだったら確実に110番(警察)するし絶対関わりたくない。

怪しすぎるし、頭がおかしいって思われるだけよ。

第一信じてもらえたらそれはそれで危ない。

未来から来たってことは歴史を知っていることと同義だととられるだろう。

あたしが歴史に弱いとかそんなことは関係ない。

あたしが新撰組がたどるこれからの未来を知ってることはものすごい危険なことだわ。

あき兄が言ってたけど新撰組は鉄の掟で統制された組織。

利用できそうな情報があるならどんな手を使ってでも聞き出すだろう。

例え拷問してでも…

生爪剥いだり、逆さ吊りにしたり?

拷問の種類を思い浮かべ、顔から血が引いていくのがわかった。

怖!!!

ぜったいに無理!


なんであたしがこんな目にあわなきゃいけないの!?

何もしてないのに。

人に褒められるようなことも何一つしてないけど、

人の道に反したような悪いことなんてしちゃいないわ。


ぱたぱた


畳に涙が落ちる音が静かな部屋の中に妙に大きく聞こえる。


「怖い…

つー兄、あき兄、すー兄…お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん…

だれか…助けて…帰りたいよ…」


声に出しても電気も何もない空間にはただ闇が広がっているだけでなにも変わらない。


こわい、こわい、こわい…

もうやだよ…


どれだけ時間が経ったのか。

沖田さんはまだ帰ってこない。

涙が枯れるまで泣き切ってしまうと不思議なもので少しだけ気持が落ち着いてきた。


怖いけど、泣いてばかりもいられない。

これから生きていくために、どうするか考えなきゃ。


「へっくしゅん」


しばらく泣いてたことで濡れた稽古着から体温が奪われて冷え切ってる。


このままじゃ絶対風邪ひく。

沖田さんが貸してくれた着物ありがたく借りよ。

中の下着まで雨で濡れていたのでキャミとブラは外して濡れた稽古着の中にしまっておく。


帯の結び方がよくわかんないけど、はだけなきゃいいし、こんな感じでいいか。


帯を2周巻き切って体の前で固結びにしておく。

濡れてぼさぼさに乱れたポニーテールを縛りなおして一息つくと膝をかかえて丸くなった。

乾いた着物はおひさまのにおいがして、一瞬安心感をもたらしたが、すぐにさみしさを誘い、鼻の奥がつんと痛くなる。

泣いてはいけないと思うのに、涙が止まらない。

いったん涙腺が緩むと自分の意志では止まらないのだ。


もう泣いちゃだめなのに、

まだ涙がでる。

泣いたらただでさえちっさい目がしじみみたいになっちゃう。

だから泣いちゃダメよ。

強くならなきゃ。

生きてもう一度みんなに会うんだから。


涙をこらえるためにきつく膝を抱えて瞼を膝に押し付けているうちにあたしの意識は遠のいていった。

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