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虹に届くまで  作者: 爽風
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第一章 4.1863年京都:壬生寺

…。

……!


……ッ!


…誰…?

…体痛い。




バシッ!!


頬に熱い痛みが走って目が覚める。


「ああ、よかった。目が覚めて。

大丈夫ですか?

家はどこです?

送りましょう。」


いろいろ矢継ぎ早に聞かれるけど、あたしはその質問よりも、目の前の人に目を奪われる。

時代劇みたいな傘をあたしにさしかけてる男の人。

傘まではいいとしても、

だって…何で…サムライコスプレ??

着物に袴、腰にはなんて物騒なもの…刀

レプリカかもしれないけど、かなり使い込んだ使用感と重厚感が、コスプレにしてはガチ過ぎて怖い。


あれっ?あたしどこにいたんだっけ?


周りを見回すと明らかに知らない風景。


「…ここ、どこ…?」

「は?壬生寺ですよ。」

「みぶでら…」


壬生寺は知ってるけど

あたしの知ってる壬生寺じゃない…ような。


「あなたの家はどこですか?」

「家…」


壬生寺は近所で何度も行ってるけど、

ここ…本当に壬生寺?

あたしの知ってる壬生寺じゃない…。

境内の様子も何もかもが違う気がする。


「…わからない…。」


あたしの口からぽつんとこぼれ落ちたのはそんな言葉だった。

わからない…。

本当に…。


「困りましたね…とにかくこのままでは風邪をひきます。

 立てますか?」


「はい。」


どれだけ倒れてたのか、紺色の稽古着は雨を含んでぐっしょり濡れて重い。

そのとき肩がふわっと温かくなった。

ふと見るとその男の人は羽織をあたしの肩にかけてくれていた。


「かぜひきますよ」

「…すみません、ありがとうございます。」


さらりとスマートな気遣いを見せるその人に軽く頭を下げると前髪から氷雨の雫がこぼれ落ちる。

コスプレマニアだなんて思ってしまって申し訳ない。

よく見れば優しげな目もとの温厚そうな人だ。

年はあたしと同じくらいだろうか。

春とはいえ、雨が降ってかなり気温も下がっているので、羽織物はありがたい。


歩き出すと体がきしんで痛い。

男の人はあたしに傘をさしかけてくれて並んで歩きだした。


「いったい何があったんです?こんな雨の中あんなところで。」


歩きながら、その人はあたしに話しかける。ガチコスプレにはびっくりだけど、優しいその声色やしぐさにホッとできる安心感がある。


「雷に…あって…」


あたしはかすれながらも声を振り絞る。


「あの雷ですか?よく無事でしたねえ。」

「体だけは頑丈なので…」

「あははははは、面白い人だな。」


あたしのよくわからない返しにその人は大爆笑している。


ああ、そうだ、あたし雷に打たれたんだなあ。

雷に打たれて何にもないなんてあたしって運いい?


壬生寺をでて少し歩くと、明らかな違和感に更に不安が募る。

やっぱりここは…あたしの知ってるおじいちゃんちの近所じゃない。

おじいちゃんの家は確かに壬生寺の近くだったけれど…でもここは、あたしの見知った世界じゃない。

だって…なんで、道が舗装されていないの?

電柱とか、ポスターとか、ないの??

コンビニも、ポストも…なんで何もないの?


だんだん無口になるあたしを訝しげに見ているのを感じたけど、それどころじゃない。

あたしはその人が呼びとめるのも気にせず走り出した。

舗装されていない砂利道に水たまりが転々とあって、つっかけで走るあたしの足に泥がはねる。


だって、


なんで


無いの?


家が…



おじいちゃんちがあるはずのとこは



…荒れ地だった。


「なんで…??

みんなどこ行ったの!?」


いやだいやだいやだ!!!!


理解できないこの状況に涙が出てくる。


「ここどこ?!

こんなとこ知らない!!!」


地面がぐらり揺らいだような気がした。

あたしはひざから崩れ落ちて、その場にへたり込んだ。

ぬかるんだ泥が袴に染み込んできて、地面と足が張り付いていくような妙な感覚が伝わってくる。


ようやく追いついてその人があたしの肩を抱き安心させるように言う。


「落ち着いて、大丈夫だから。

今夜はとにかく私たちのところにとまりなさい。」


何にも考えることができなくて、あたしはただうつむくことしかできなかった。


体は芯まで冷え切っていて、

ただ目頭だけが熱くて痛かった。


あたしは肩を抱かれるようにその人に連れられて行った。

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