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虹に届くまで  作者: 爽風
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第五章 6.独白:土方歳三

芹沢が死んでから、俺はまともに熟睡した記憶がない。芹沢は俺たちの壁だった。

超えられない、けれど超えなければいけないそんな壁だ。

あの人は知っていた。

自分が殺されることを。

それでも切腹ではなく敢えて暗殺される方を選んだ、それは悪者に徹することで周囲に自分の死を悲しませず、近藤さんに円滑に頂点を譲り、さらに新撰組の未来のためにそうしたのだと思う。

滅茶苦茶な振る舞いも、暴力も全部ではないにしろその布石だったのかもしれないと今になればそう思う。その考えをあのとき読めなかった自分が悔しい。

最期の最期までなんて野郎だ。

芹沢さん、あんたは確かに武士だったぜ。

俺は鬼になる。あんた以上のな。

あんたの屍を踏み越えて先へ先へと進んでいく。

近藤さんのために、新撰組のために、おれはあんたの役引き受けるぜ。



「トシ」

「!」


はっと目が覚めて自分が文机に肘をついたまま暫し眠っていたことに気づく。

勝ちゃんが俺の肩に手をおいて心配そうに覗きこんでいた。


「寝るなら横になれ。そんなところでは疲れも取れんだろ。」

「いや、まだやることがあるからな。」

「トシ!いい加減休め。お前はここ数ヶ月取り憑かれたように走り続けてるじゃないか。こんなことしてたらいつかガタが来るぞ。」

「じじいじゃねぇんだから大丈夫だよ。」

「トシ、これは局長命令だ。明日は1日何も考えず休め。そして島原でも祇園でもいいから女を抱きに行け。」


勝ちゃんのあまりに深刻そうな顔を見て思わず噴き出してしまう。厳つい武張った顔の男が捨てられた犬みたいな顔すりゃあ情けなさが増すだけだ。


「笑い事じゃないぞ、トシ。俺は本気だ。」


勝ちゃんは本気で怒っているらしく眉をしかめて俺をにらんだ。

近藤勇という男の最大の長所はこんな風に感情をむき出しにして恐れることなく、全力で物事にぶつかっていけるところだと思う。

相手がどんな人間だろうが、まっすぐに嘘無くぶつかっていけるから人はこの人に否応なしに惹きつけられる。

騙されても裏切られてもこの人はきっとこの生き方を変えないだろう。

ばかなやつ、でもあんたはそれでいいんだぜ、大将。あんたはどっしり構えて真っ直ぐに輝き続けろ。

俺が影になって汚ねえ部分はすべて請け負ってやる。


「ああ、わかったぜ。明日は1日休暇を貰う。久々に島原にでも行ってみらあ。」

「ああ、しっかり休めよ。」


勝ちゃんは満足そうにでっかい口をおっぴろげて破顔した。



そんなわけで、俺は今島原にいる。

十代や二十代の初めの頃は女遊びも人並み以上にしたもんだが、今となっては正直、面倒臭さしかない。もちろん体の欲求として女が欲しいと思う時もあるが、色恋の駆け引きなんざ、とんとする気にはならねぇ。

それよりもやらなければいけないこと、考えなければいけないことは山程ある。

新撰組こそが俺のすべてだ。

だから女とか甘さとかそういうもんは邪魔にしかならねえ以上俺の今後には必要ない。


そんなわけだから正直島原に来るのは足が重くならざるを得ない。

適当に置屋を選び、どんな女でもいいとなげやりに告げた。

適当にやり過ごして早々に帰ろう。


俺は茶屋の一室で待たされていたが、出窓から見える春の朔の朧月が美しかった。


春の月、一句作るか…

発句でもするかと思案していた時茶屋の主人の声が聞こえて女が来たことが告げられた。


「華雪言います。どうぞよろしゅうおたのもうします。」


ふすまが開くと、小柄な女が頭を垂れているのが見えた。

浅葱色の着物に、結いあげた黒髪にはかんざしが小さく揺れている。

顔は見えないがたたずまいに緊張感が感じられて、俺はげんなりした。

めんどくせえ。

座敷に上がるのに慣れてねえのか。

緊張した女に気を遣いながら、飲めねえ酒を飲むなんて何にも息抜きにならねえだろ。


「ああ」


俺は無愛想に返事をすると女が顔を上げた。



その瞬間

心臓が

大きく一度跳ねた。



そこに居たのは水瀬だった。

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