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虹に届くまで  作者: 爽風
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第四章 3.ショートカットとえくぼ

島原での断髪騒動があってから、あたしはこの界隈で時の人となった。

傍若無人の芹沢鴨に啖呵を切って、髪をかっ切った命知らず。

とまあこんなとこだろう。

図らずもあの行動で、あたしが女だということが周りに知られてしまい、正直隊の幹部以外のみんなは動揺していた。ちなみに吉乃ちゃんもかなり驚いていたようだけど、「まこと姐さんと呼ばせてください」と言ってくれて、あたしを笑わせた。

でもそれもほんの数日のことで、結局内心はどうあれ何事もなかったように接してくれるようにはなってきて、ホッとしている。



あたしは雪乃さんに髪をそろえてもらい、結局耳より少し長いくらいのショートボブにしてもらった。

ここまで短くしたのは中学生以来だけど、鏡を見た感じ、そんなに悪くないと思う。

ここに来て以来、ずうっっとポニーテールだったからちょっと髪型変えられてうれしいかも、なんて軽く考えていたのはあたしだけで。

未来では、あたりまえだけど女性の髪がたなんてそれこそ千差万別でベリーショートなんかもざらだから正直短くなったところで、「イメチェン」としか思わなかったのだけれど、

あたしが女だって知っている浪士組の幹部のみんなは、女がここまで髪を切り落とすなんてゆゆしき事態、恥辱以外の何物でもない!と当の本人を置き去りにして芹沢先生に対して息まいていた。


「半年もたてば伸びますし、別にそんなに大騒ぎするほどのことじゃないですよ。」


とあんまりみんなが大げさに悔しがるもんだから軽く流すつもりで言うと、

「おまえはなんでそんなに人ごとなんだ。」「女の命が絶たれたんだぞ。」「ふつうはここで泣いたりするもんだ」とか普段は冗談しか言わないみんなに真剣に言われてちょっとびっくりした。

なんというか、150年っていう時間はやっぱりいろんなところで文化や価値観何かを激変させたんだなあ、と実感してしまう。


ふと一陣の風が通り抜けた。


ああ、気持ちいい。

やっぱり短いと頭が軽い、楽だなあ。


あたしは短くなった髪に手をやった。

風が髪をなびかせ、耳の下を通って行く。

風が夏のにおいを含んでいる。

若葉の色がだんだん濃くなり、雲の形がますますはっきりしてきた。


もう夏なんだ。


縁側で足をぶらぶらさせながら空を見上げてぼんやりしていると、

「気になるか?」

と低い声が後ろからした。

「え?」

あたしは体をひねってその人物を見ようとするのだけれど、

目が明るいところに慣れすぎて、建物の中は真っ暗に見える。

目が慣れてくると、そこには土方さんがいて、あたしはその一分の隙もない整った立ち姿になんだか、ドキドキした。

「土方副長、気になるってなにがですか?」

「…だからおまえの…髪。」

「ああ、短いと風が通って楽だなあと思って触ってたんです。

半年もすれば結えるくらいには伸びると思いますし、特に気にしてないです。

むしろみんなに心配掛けて気を遣わせて申し訳ないですよ。」

「おまえ、何であの時、あんなことしたんだ?」

「何でって…よくわかりません。

成り行きですかね。後に引けなくなっちゃったというか。

でも雪乃さんたちの髪と、ここで男装している私の髪どっちがってなったら、あたしの髪切るほうが、後に禍根を残さないかなあと。

ただ、雪乃さんや吉乃ちゃんにそんなことさせたくなかったんです。

あたしは芹沢先生に言いたいことが言えてすっきりしたんで逆にすがすがしいです。」


雪乃さんは土方さんが好きだからそんなことさせたくなかった、って言いそうになって慌てて言葉を飲み込む。これは雪乃さんの大切な想いなんだからあたしが口にすべきことじゃない。


「おまえ、不思議な奴だな。」

土方さんは少し口の端を引き上げて笑った。

笑うと総司ほどではないけどかすかにえくぼが出来る。

今まで笑った土方さんをこんな近くで見たことなかったから知らなかった。

えくぼなんて土方さんには似合わない、

ううん、逆に土方さんらしいのかな。

それを見てたらなんだかくすぐったい気分になった。

「不思議ですか?」

「あんな状況で、芹沢にあんなこと言えば、手打ちにされんのがおちなのに、堂々と言い切って髪までかっ切ってみせんだからよ、なかなかの度胸だっつってんだよ。」

「芹沢先生は、あたしのことは斬らないだろうなって思いましたから。

芹沢先生はすごいさみしがり屋なだけで、全力でぶつかって来る相手には道を譲る人なんじゃないかと思うんです。

あの人の傍若無人っぷりにみんな引いてるじゃないですか。

おびえて腫れものにでも触るようなそんな感じだから、人との距離が縮まらないのにいら立って無体なことしてよけいに孤独になる、そんな気がしたんです。

まあ、完全にあたしの勘なんで、外れたら命はないんですけどね。」

「ホントに、なんつーか、たいした女だぜ。」

呆れたように笑う土方さんはいつもの眉間にしわを寄せた気難しい副長とは全然別人で、

あたしを落ち着かなくさせる。

土方さんの笑顔を見ていられなくて、視線を下にやると、土方さんの手が目に入った。

土方さんの手は美形の、整った顔立ちから考えると意外なほどごつごつした節くれだった手をしていた。働く大人の男の人の手なんだ、と思うと、ちょっとドキドキした。


副長のめったに見せない小さなえくぼも、節くれだった武骨な手も、きっとこんなに近くで話さなかったら気付かなかった。

ずっと見ていたいような、でも見続けるははずかしいような、そんなくすぐったい気分にさせた。

あたしたちの間に初夏を思わせる爽やかな風が通り抜けた。



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