第三章 1.小休止・一夜明け…
昨日の対決から一夜明け、空は快晴。
からっと晴れた日本晴れだ。
障子の隙間からも日差しが差し込んできて、光が目に刺さって目が覚めた。
昨日はあの後部屋に帰ると首の手当てをされてから、総司にたっぷりとお説教をされて、そのまま疲れて眠ってしまったのだ。
正直まだ眠いけど起きて朝ごはんの支度しなきゃ。
うーん、伸びをして横を向くとあたしはギョッとして固まった。
なぜか総司の寝顔が近くにあったのだ。
!?
総司はあたしの布団の横の畳に寝そべってそのまま眠ってしまったようだった。
あたしが昨日寝ちゃったから布団を敷いて寝かせてくれたんだ。
総司は片腕を枕にくうくう寝息を立てている。
意外にまつげ長いんだなあ。
くっきりとした眉毛で、顔立ちは精悍で男っぽいのに、目を閉じて寝てる姿はこんなにあどけない。
ほっぺにできたニキビがなんか可愛い。
じゃなくて
人の寝顔をまじまじ見るなんてあたし変態だ。
とりあえず起きるかと思って起きようとすると右手に違和感。
ん?
何かと思えば、総司があたしの手をしっかりと握っている。
これでは起きられないので苦笑しながら左手で総司を揺さぶって起こす。
「総司、起きて。」
「ん~…もうちょっと…」
「ねえってば!」
なんだか懐かしい朝の光景。
強めにゆすって起こすが、起きない。
腕ひしぎか、地獄攻めで起こすしかないのかしら。
と危険な起床方法が頭に浮かんだ。
その時、
「うーん…」
!
目に映る光景が反転した。
総司が寝ぼけてあたしに抱きつくように覆い被さったのだ。
男の人の厚い胸板と耳元にかかる寝息に図らずもドギマギしてしまう。
って、やばいってこの状況は!
仮にもあたしは女で総司は男だ。
しかももう子供じゃないわけで。
総司に対して恋愛とかそんな気持ちは一切ないけど、
こんなに間近で、しかも覆いかぶさってるなんて
心臓に悪いよ!!
どいて〜
いよいよ苦しくなってきてあたしは総司の下から抜け出そうともがく。
その瞬間総司の手があたしの首の傷にあたった。
~!!!
「あ”っ」
ばか!
死ぬほど痛いっつの!!
悶絶!
目に涙が浮かんでくる。
「何すんのよ、やめてよ。」
あたしは涙目のまま総司の手をつかんで押し返した。
その時
スパン
障子が勢いよく開いた。
「おい、まことだいじょうぶか~??
昨日大変だっ…って!!!おめえら何やってんだ!!!」
佐之さんが目をかっぴらいてあわあわしている。
あたしは総司の肩越しに佐之さんと目が合う。
なんか、もしかして、あたしすごい誤解されてない??
「っだっ!!おまっ…」
佐之らさんはあたしと総司を交互に見て顔を青くした。
あーあ、やばいかも…
だって総司はあたしに覆いかぶさっていて、あたしはそれから抜け出そうとしていて
しかも涙目だし。
はやく誤解を解かないと。
総司の名誉の為にも。
「っ佐之さん!ちょっと待って!!
あの、これには訳が…!」
「総司!!っのやろ!!起きやがれ!!
おまえ、いくらこいつが女で男所帯だからって仲間を襲うなんて最低だぞ!!!」
佐之さんは総司に蹴りを入れて怒った。
あーあ…
違うのに~!!
これにはさすがの総司もたまらず目をさます。
「~!!
何するんですか!!
朝っぱらから!痛いですよ…って…」
体の下に組み敷いている状況のあたしを見て見る見るうちに顔を赤くする。
「!!!
なんでっ…って、あ、だから…!!」
しどろもどろってまさにこういう状況のことを言うんだろう。
なんか可哀想になってきた。
「おめえ!何考えてんだ!!!」
佐之さんが青筋立てて怒ってる。
「何でおめえが先に抱こうとしてんだ!
俺が先に決まってんだろ!!!先輩をたてろよ!!」
「なっ!!!」
何だと!!
このゲス野郎め!
「勝手なこと、言ってんじゃ、ねえ!!!」
あたしは真っ赤になって挙動不審の総司を押しのけ佐之さんに肘鉄を食らわせると、
そのまま、一本背負いに持ち込んだ。
さのさんは奇麗に中を舞って畳に沈む。
その勢いで腕ひしぎを決めて、ちょいと力を込めると佐之さんの顔に血が上ってくる。
「ぐぉ〜!!いでででで!いてぇよ、水瀬。悪かった!悪かったから離してくれ〜」
なんだか非常に懐かしい朝の光景。
合掌。
*
「まこと」
呼び止められて振り向くと、総司がいた。
「…何?」
正直今日の朝はびっくりしたけど、寝ぼけてのことなんだろうし、ここで取り乱すのも余計に恥ずかしい話なわけで、あたしは何でもないように表情を取り繕った。
「あのさ、今日の朝のことホントごめん。
寝ぼけたとは言え、年頃の女子に私は…本当に…
ごめんなさいっ!!」
「うん、まあ正直びっくりしたけど、寝ぼけただけなのはわかってるし…
先に寝ちゃったあたしを寝かせてずっとついていてくれたんでしょう??
そんなに謝んないでよ。」
あたしは総司の慌てぶりがおかしくて、なんだかかわいそうになってそう言った。
「お詫びに甘味おごらせてよ。」
「そんなに気を使わないでよ。」
「私がそうしたいんだ。頼むから。」
「?そんならいいけど。」
なんか真っ赤な顔で、切羽詰まったような顔で言うもんだから了承してあたしたちは町に行くことにした。