エピローグ・2010年4月
2010年4月。
ここは京都の八木邸。
桜の花びらが雪のように降りしきる。
あたしは早足で歩く兄たちに声をかける。
「ねえ、つー兄、あき兄、すー兄。ここそんなに有名なの?」
歴史に疎いあたしは全然興味がわかない。
「ばっかだなあ。」
「新撰組と言ったらここだろう。」
「男のロマンじゃん。」
男のロマンねえ。
あたしは歴史が苦手だから全然わかんないけど。
新選組なんて、何したのかもよく知らないし。
ただ、この桜だけはすごい。
黒塗りの門をひとたびくぐると大きな枝垂桜。
はらはらと際限なく散りゆく桜。
優しい風が前髪をくすぐる。
そこにはただ静謐な、永遠にも似た優しい時が流れている…。
ドクン
動悸が激しくなる。
”水瀬…”
「え?」
誰かに呼ばれた気がして振り返っても誰もいない。
ただ同じように桜が風に吹かれているだけ。
「どおした?早くいくぞ!」
「あ、うん。」
遠くのあき兄に返事をしたけれど、あたしはそこから動けなかった。
だってあたしはここを知ってる。
いつから?
ずっと昔。
そう、生まれる前から。
ここを…走り回ってた…
だれかの背中を追いかけてた…
あたし…ここで…笑ってた…
雲行きが怪しくなったかと思うと急に大粒の雨がパタパタと音をたてて降ってきた。
遠くで雷も鳴っている。
なのにあたしはそこから動くことができなかった。
足に根が生えたようにそこにただ立ち尽くしていた。
”水瀬…逢いたかった。”
「!」
あたしは瞠目した。
「…土方さん…。」
自分のことばじゃ無いみたいに無意識に零れ落ちた。
その瞬間、轟音と共に
周りのすべてがまばゆい光に包まれた。
”水瀬、迎えに来たぞ。”
”土方さん、やっと逢えましたね。”
遙かなるこの時の流れの中で…
私たちはもう一度出逢った。
それはまるで虹に追いつくような奇跡…
了
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