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虹に届くまで  作者: 爽風
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最終章 2.虹に届くまで、永遠の恋

土方さんが銃弾に倒れ、息を引き取った。

まさかあたしより先に逝ってしまうなんて思わなかった。

でも、よかった。

今迄、大事な仲間の死を見続けてきたんだもの。

独りで逝かせなくてよかった。

淋しい思いをさせなくてよかった。

あたしが彼の最期に側に居られて本当に良かった。



あたしは土方さんの亡骸を抱きしめ空を仰いだ。

優しい風が吹き抜け、抜けるような蒼い空に花が舞った。

空へ向かって笑って見せる。



土方さん、近藤先生や総司に会えましたか?

さすがの鬼の副長も疲れたでしょう。

ねえ、ずっと走ってきたんだもの。

もう休んでください。

もうすぐあたしも逝きますから。


「水瀬…。」


島田さんが泣きながらあたしを気遣う。

あたしは島田さんに顔を向け、笑った。

不思議と涙は出ない。

穏やかな気持ちだった。


「大丈夫よ。島田さん。土方さんは迷わずに逝ったから。笑って逝ったからだから、大丈夫。」


「お前…!」


島田さんはいかつい顔をくしゃくしゃにして言葉を詰まらせた。






あたしたちは土方さんの遺体を、新政府軍に見つからないように五稜郭の高台の一本松の下深くに埋葬することにした。

目を閉じた土方さんの遺体はこちらが微笑みかけたくなるくらいに優しい、穏やかな顔をしていた。

冷たくなった土方さんに最期のキスを送り、あたしは自分の髪を切って土方さんの胸の上に置いた。

また逢うその日まで。

さようなら。

土方さんは土に覆い隠された。


「さあ、ここも直に落ちる。逃げよう。水瀬。」


島田さんがあたしの手を引いた。


あたしは笑って首を振る。


背中には西日。

もうすぐ終わる。

この命が。

この水瀬真実としての命が、終わる…。


「水瀬!」


「もうね、終わるのよ。」


「何言ってんだよ!」


もうあたりは薄暗くなってきている。

自分の意識がだんだんと薄らいでいくのを感じる。


「島田さん、本当にありがとう。みんなにも、伝えてくれる?」


「水瀬…、お前、その体…。何やってんだ!逝くな!!」


島田さんがあたしの手をつかもうとするけど、空をつかむばかりだった。

ふと自分の体を見れば、透けて地面が見える。


ああ、ついに来たのだ。


「あたし、この時代が大好きよ。

新選組のみんなが大好きだった。

だから…もう一度還ってくるから…。

また…逢いましょう。」


西日が山の端に沈む。

空がオレンジから薄紫に変わりゆくその瞬間…

その瞬間すべてが光に包まれる。

それが、最期だった。


明治二年五月十一日、あたしは時の神様との契約通り


その命を終えた…。






虹を追いかけるような恋だった。

決して追いつかない。

決して届かない。

なのに、焦がれてやまない、苦しい恋だった。

歴史の壁が、時空の壁が、気持ちの壁が、その恋を妨げた。

でも、そうじゃない。

だって出逢えたのだから。

けっして出逢うはずの無い人と、決して出逢えるはずのない場所で、

出逢えた。

それは気の遠くなるような愛おしい奇跡の積み重ね。

その瞬間から、奇跡は始まっていたの。

もう届いていたの。

あなたという虹に。

あなたに出逢えたこと、同じ空の下、共に走れたこと、それこそが奇跡。

だからもう一度、奇跡を願いましょう。

あたしたちはきっと出逢う。

150年後、またこの時代に還ってくる。

だからその日まであたしの笑顔を覚えていて。


あたしは貴方を想い続けると誓います。

虹に届くまで…。

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