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虹に届くまで  作者: 爽風
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第十九章 9.最期の夜、永遠の時

残された最期の一日。

あたしは土方さんと桜の木の下で、永遠の愛を誓った。

これは神様のくれたご褒美。

自分の想いを伝えられる日が来るなんて思いもしなかった。


愛してる。


ただその一言を伝えられるのにこんなにも時間がかかった。

こんなにも苦しんだ。

でも、この長き月日がこんなにも愛おしい。



その日の夜。

あたしは土方さんと結ばれた。


誰かと一つになることはこんなにも、切なくて、こんなにも激しくて、そして愛おしいのだということを知った。

どうして人は体を重ねるのか。

それが少しだけわかった気がした。

言葉では追いつかないこの愛おしい気持ちを伝え確かめるため、

どんなに近くにいても、決して一つになることができないこの不条理を埋めるため。

あたしのこれまでの人生の苦しみは今この瞬間のためにあったのだと、

この人に出逢う為にあたしは生まれてきたのかもしれないとさえ、おもった。



あたしは土方さんに自分のすべてを話した。

タイムスリップのこと。

神さまとの約束で、ずっと言えなかったこと。

最期の一日だけ気持ちを伝えることを許されたこと。

そして明日には自分の寿命がやってくること。


土方さんは黙ってすべてを聞いていてくれた。

そしてすべてを話し終わった後、ふっと穏やかな笑みを浮かべて言った。


「…そうか。俺が呼んだんだな。お前を。悪いな。辛い運命背負わせて。」


「…全然。むしろホントに感謝してます。

だって今あたし、今迄の人生の中で一番幸せを感じてますから。


だからもう一度呼んでください。

2010年、平成22年の4月、京の八木邸に行きます。

だからもう一度、あたしの名前を呼んでください。

そうしてもう一度、この幕末の時代にあたしを導いてください。」


あたしは笑って土方さんの節くれだった指に自分の指を絡ませた。

土方さんは凄艶な笑みを浮かべてあたしにキスをした。


「…約束する。」


あたしはあなたとこうして結ばれたことを永遠に忘れはしないでしょう。

どんなに時が流れても、何度生まれ変わっても、あたしはまた水瀬真実として、あなたに恋をするでしょう。

どんなに苦しくても、想いを伝えられなくても、傷ついても、それでもあなたに出逢えた、それだけであたしはこんなにも笑えるんです。

あなたと同じ空の下で同じ時間を刻める、そのことが、世界中の何よりも幸せなのだと、胸を張って言えるから、

だから約束してください。

150年経った時、もう一度、あたしの名前を呼んでください。

そしてあたしをこの時代に導いてください。

そうして、この熱い武士の時代を共に歩みましょう。

貴方となら何度だって走って見せるから。

ねえ、土方さん、約束ですよ。



翌日。

あたしの最期の日はまぶしいくらいに光に満ちていた。

世界が違って見えた。

昨日と同じで違う今日。

あたしたちの間には最期とは思えないほどの穏やかな空気が満ちていた。

寝起きの顔が恥ずかしくて蒲団を頭までかぶるあたしに、土方さんはやれやれとでもいうように笑って見せた。

無理やり蒲団を引きはがしてあたしのおでこにキスを一つ。


「おはよう。」

「おはようございます。」


この泣きたくなるくらいに穏やかなこの光景はなんなのだろう。

優しくて幸せで、このまま溶けてしまいそうなくらいに、幸せな一瞬。

泣きそうになった。

これが最後だから?

ううん。

幸せすぎて。

きっと今、あたしは世界で一番幸せだって胸を張れる。



「じゃあ、行ってくる。」


「御武運を。」


そっけない別れ。

でもいい。

だってまた逢えるもの。

土方さんを送り出した。


終焉の日。

あたしの人生の終わりがやってきた。


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