第十九章 8.桜の下、愛しき君と:土方歳三
わけもわからずに榎本さんに外へ連れ出された。
五稜郭の中の大きな桜の下へ連れてこられる。
なんなんだ?と誰に聞いても「いいからいいから」と笑ってはぐらかされた。
広場では人だかり。
一体なんなんだ?
わあ
歓声が上がり、その方向を見れば、白い影。
近づいてくるそれは、
白無垢姿の
水瀬だった。
純白の花嫁衣裳。
近づいてくる水瀬は信じられないくらいに、美しかった。
「水瀬…」
俺はのどから声を絞り出す。
「土方さん…」
水瀬は上目づかいに俺を見上げる。
風が花びらを散らしながら吹き抜けた。
「…俺の嫁に来い。」
ぶっきらぼうにしか言えない自分が歯がゆい。
いつか、水瀬に思いを伝えた時、好きな人がいると俺を突き放した。
そんなことが心にとどまり続ける自分の小ささに嫌気がさす。
こいつを手放す気なんて最初からさらさらないのに。
「…はい。」
水瀬は目に涙をいっぱいにためながらも微笑んで見せた。
こくりと小さく頷いた瞬間涙がはらりと零れ落ちる。
その瞬間、すべての音が消えた。
俺は頭で考えるより先に、水瀬を抱き寄せた。
きつく、きつく…。
もう二度と離れることの無いように。
水瀬の唇に自分のそれを重ねる。
水瀬はそれを控えめに、けれど確かに受け止めた。
*
満開の桜の下、俺たちは祝言をあげた。
明日は戦。
生きては戻れないかもしれない。
でも、それでも、この一瞬がどんな時よりも尊いと思う。
人は死ぬ、
だからこそ人は想いを伝え、共に歩めるその刹那にすべての想いをかけるのだと俺は思った。
この刹那を俺は永遠に忘れない。
何度生まれ変わっても、愛おしいこの女の笑顔を、心を決して忘れはしない。