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虹に届くまで  作者: 爽風
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第十九章 5.最期の戦

土方さんと再会して、あたしたちは北の長い冬を共に過ごした。

島田さんや、昔からの新撰組の仲間にもあえて、つかの間の優しい時間を過ごすことができた。

あたしたちは昔を思い出すように笑っていた。

昔からの仲間はずいぶん減ってしまったけれど、でもこの優しい時間はあたしたちにとって最後のものなんだって知っていたから。



あたしと土方さんはというと、何も変わらない。

想いを伝えたわけでは無い。

あたしたちの間には何の約束もなかったけれど、それでよかった。

だって逢えたのだから。

この人の側で、ただこうしてここに居られることが泣きたくなるくらい幸せ、どんな奇跡よりも尊い。

伝えられなくても、いい。

それよりもこの人の側にいたい。

土方さんは自分を責めている。

近藤先生を救えなかったこと、総司を助けられなかったこと…でもそれは自分の心にしまえばいいと思っている。

だからあたしはこの人を見守りたい。

この人の最期を、魂に焼き付けたい。

それこそがあたしの生きた証だから。






でも、幸せな時は続かない。

明治二年、北に遅い春がやってくる頃、新政府軍は、青森に戦力を築き、旧幕府軍の不意を突いて2年4月9日江差の北、乙部に上陸したとの情報が入った。

四月十三日、二股口で、進軍してきた新政府軍を迎え撃つことになった。


軍服に、愛刀の兼定。

その眼は戦の鬼。

ああ、その身が朽ちるまで、どこまでも走るのだろう。


行かないでと言いたい。

すがってしまいたい。

好きだと言ってしまいたい。

でもそんなことは言えないから、言わないから、

あたしも、共に走らせてください。

そしてあなたの御無事を祈ることだけは赦してください。




土方さんが振り返る。



「水瀬、ここから先へは来るな。もう誰も生きては還れぬかもしれぬ。生き残ればどんな辱めを受けるやもしれん。

だから逃げろ。」


「!」


土方さんがそんなことをいうなんて考えられなかった。

生きて帰れないだなんて。

そんなこというなんて想わなかった。


「…いやです。」


あたしは土方さんをにらみあげた。


「水瀬!!」


「あたしの生き方はあたしが決めます。

あなたの生きざまを見届るとそう決めたんです。」


もう置いてけぼりは嫌だ。

もう離れたくない。

絶対に。


「水瀬…お前は女子だ。

こんなところじゃなく、どこか違うところで幸せになるべき人間だ。」


今更なんてことを言うのだろう、この人は。

あたしは土方さんの目をまっすぐに見据えた。

黒い瞳に、自分の泣き顔が映る。


「幸せってなんですか?

あたしの幸せは…、あたし自身が決めます!!」


「!勝手にしろ!」


土方さんは呆れたように言うと部屋を出て行った。



あたしは取り残された部屋の中で静かに目を伏せた。


子供みたいなわがまま。

でも、これが最期だから。

あたしがこうしてここにいられる時間はもう無いから。

だから居させて欲しい。

最期はあなたを感じながら死にたい。

どうか、それだけは赦してください。


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