第十九章 4.再会:土方歳三
目の前の光景が信じられない。
なぜ水瀬がここにいる?
夢にまで見た愛おしい女。
水瀬は目いっぱいに涙を浮かべている。
瞬きをした瞬間にはらりと涙が零れ落ちた。
それはひどくゆっくりとした光景に見えた。
俺は何かを言おうと思ったのにのどに舌が張り付いて声すら出せなかった。
「…ひじかたさん…。」
かすかに空気を震わせてつぶやいた。
俺はその瞬間頭で考えるより先に、水瀬を抱きしめていた。
華奢な体。
柔らかな香り。
ただ何もいらないと思った。
この女以外には何も。
心の底から逢いたかった。
今迄離れ離れでいたことがひどく不条理に想える。
愛しいとかそんな言葉では言い表せない。
このこみあげる切なくて激しい感情はなんなのか?
「…逢いたかった。」
自然と零れ落ちた言葉は俺の心の叫びだった。
この時代に生きるべきでないこの女をここまで引き止めたのは俺だ。
手放さなければいけなかった。
なのに、手放せなかった。
どうしても。
こいつは俺の魂の片割れだから。
誰を想っていても、結ばれなくても、今確かに想う。
俺はこの女と出逢い、こいつに惹かれる宿命だったのだと。
俺たちは何も言わずにただずっと抱きしめあっていた。
互いの鼓動の音を聞きながら。
*
そのあと、市村に食事を執務室へ持ってきてもらい、二人で向かい合って飯を食った。
市村が「二人でお話もあるでしょう。」とませた笑顔で笑った。
ったくガキのくせに生意気な。
もちろん、そのあと俺の拳が沈んだのは言うまでもない。
俺たちは別れた後の互いの話をした。
会津でのこと、蝦夷へ来るまでのこと、今後の構想。
水瀬は勝ちゃんや総司、新八の話を声を詰まらせながら話した。
風になるといった総司。
新撰組は終わらないといった勝ちゃん。
あの風のようにとらえどころのない弟の笑顔が、
いかつい顔なのに、口を馬鹿みたいに開けて笑う盟友の顔が浮かぶ。
総司、勝ちゃん、今お前らどこにいるんだ?
水瀬をここまで導いてくれてありがとよ。
もう少し待っていてくれ。
まだひと暴れするからよ。
だってそうだろう?
多摩で上洛を決めた時、歴史に新撰組の名を遺すと誓った。
だから俺は走る。
お前たちの夢の分まで歴史にくらいついてやるさ。
最期の武士として。