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虹に届くまで  作者: 爽風
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第十六章 5.武士の誇り、男の意地:土方歳三

切りそろえた髪が額にかかる。

俺は江戸を出た時から、洋装に変えて髪を切った。


もう古いものに縛られるわけにはいかない。

刀の時代はもう終わったのだ。

これからは銃だ。

新政府軍に勝つためには、覚悟を決めて捨てなければならないものがある。


どうする。

新政府軍は流山を囲んでいる。

今俺は内藤隼人、勝ちゃんは大久保大和と名乗り、ここに潜伏している。

俺たちが新撰組ではないかと新政府軍に疑われている。

俺は、新政府軍に恭順する幕府の方針に従い脱走兵や一揆を鎮圧する鎮撫隊であり、新政府軍に不敬はしないと主張したが、新政府軍は、「鎮圧は新政府軍の任務、すぐに兵器を差し出し誠意を示せ」と迫って来ていたのだ。


「歳、もう切腹しよう。武士たる者、真実を欺いて生き残るのは怯懦だ。」


勝ちゃんは眉間にしわを寄せて言う。

この男はどこまで行っても不器用で、愚かなまでに武士道を貫こうとする。

だから惹かれる。

愚直で、まっすぐなこの男に。

だからこそこんなところで、終わらせられるかよ。

あんたを大名にする。

あんたを高みに連れてく。


「勝ちゃん、ここで死ぬのは犬死だ。死ぬことなどいつでもできる。今ここで俺らが死ねば、労咳で戦っている総司は、山崎や源さん、平助にどう説明するんだ。大久保大和として、あくまでも鎮撫が目的であった事情を説明しろ。もし出頭するようなことになったら、その間俺は政治工作をし、救出する。」


「…そうか。まだ俺たちにできることがあるのか。」


必死に説得する俺に、勝ちゃんは小さく笑った。


俺は勝ちゃんを説得し、納得した勝ちゃんは新政府軍の前に出頭した。

四月三日のことだった。



四月四日、俺は勝海舟のところへ出向いていた。


鋭い眼光の男。

幕府の要だった男。


「勝どの。

近藤勇の救出に協力願えぬか。」


俺は勝に頭を下げる。

人に頭を下げることは苦手だが、心底惚れた男のためなら、少しも惜しくはない。


「あんたが土方か。

近藤を助けるには、条件がある。

新政府軍を刺激しないことと、江戸付近での暴発をせぬことだ。それが約束できるか?」


「武士に二言はござらん。」


機を見ればいい。

俺たちはまだ終わらない。


「約束しよう。」


勝は細い目を引き下げて言った。


「感謝申し上げる。」


そう、この時までは計画通りに運んでいたのだ。

これで、勝海舟の進言で近藤勇は解放されるはずだった。

計算外の事態が起きるまでは。



「なんだと!」

俺は寸でのところで報告に来た島田につかみかかるところだった。

新政府軍に伊東派の残党、加納鷲尾がいただと!

畜生。


勝は手の打ちようがないと言いやがった。

手のひらを返したように。


「近藤局長は板橋に連行、審議されるそうです。」


島田の報告を聞きながら気が遠くなりそうだった。


あのとき、俺が止めなければこんなことにはならなかった。

誰よりも武士としての矜持を重んじるあの男にとって、どれほどの屈辱だろう。


ちくしょうちくしょう。


あきらめねえ。


絶対に助けるからな!

勝ちゃん!!待ってろ!!



俺は、夜の闇のなか、江戸へと馬を走らせた。

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